この手とその手
「乃愛ちゃん、そこの土とってくれるか」
「今行きます!」
私達の生活はすべて自給自足。
畑を耕し、飲み水はすべて雨水や雪、海水から抽出する。
人間がこうして暮らしてる地域の周辺には、数十年前に建てられたという鉄でできた頑丈な柵がある。その外には動物がうようよいるらしいが、危険なため出られない。
「乃愛、海行こうぜ」
「うん」
日が沈む頃、海に出てそれを眺めるのが私達の日課だった。幼馴染の弘樹は沈む夕日を見ていつも何かを願い、一つの貝殻を両手で挟み手を合わせている。
「ねえ、いつも何をお願いしてるの」
そう聞いても、毎回返事は「秘密」だった。
弘樹が握るその貝殻は、幼い時にこの浜辺で見つけたものだった。一つだけ輝いていて、小さいけど同時に二人の目に入るくらい目立っていた。
「弘樹」
「…ん?」
「明日だね」
"明日"というのは、私達がどこかの国に買われる日を指している。年に一度やってくる外国人に、その年に18になった子供達は全員連れて行かれる。
行き先はまだ知らされない。用意された大きいヘリコプターに乗った時、本人たちだけが初めて知る。
「もう会えないのかな」
「……」
この国では行きていけない。そんなことはみんな分かってた。それでもまだ他国に奴隷として向かうことに恐怖心はあった。
「ひろ…」
「会えるよ」
弘樹は俯いたまま、力強く貝殻を握りしめた。