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黄色い付箋  作者: 斯波 瑛
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この手とその手


街中を急ぐサラリーマンとぶつかりそうになったり、同じ方向に避け合って「あ、すみません」を繰り返したり、おばちゃんの持つ買い物袋からはみ出てるネギに当たったり、歩きタバコをする人を白い目で見たり、歩きスマホをする若者に怒鳴り散らすおじさんをチラ見したり。

当たり前の日々を、ただのんびりと過ごす。



そういう日常は、遠い昔の話。



ひいお婆ちゃんのひいお婆ちゃんのひいお婆ちゃんからだったか、もしくはもっとずっと昔の人からだったか。少なくとも何百年も前から、「昔はね…」と伝えられてきたこの話。歴史ではなく日常の話。だけど私たちにとっては架空の話でしかない。


青い空とは正反対に灰色に薄汚れた土地と古びた建造物。いるのはサラリーマンとやらではなく老人と子供のみ。



並みには働けぬ老人ばかりのこの国は、国民だけでなくついに他国にまで借金をかかえた。そしてまぁ予想通り、人口は減る一方で借金は積もりに積もり、返せるめどなど全く立たない。人間が少なくなってもロボットで保たれるとかいう話もあったみたいだけど、お金がなくなる方が早かった。

じきに日本は"useless country"と呼ばれ、世界に見捨てられた。そのロボットも資源として買収された。少し前ならこんなことにならなかったかもしれないが、運悪く今は世界大戦真っ只中である。どの国もお金と資源が必要なのだ。同盟も条約もすべて解消。世界のメインとなる国が行動すれば、同情や躊躇いはなくなるのだ。


今まで世界に頼りきりだったこの国は、見捨てられれば何も残らない。借金返済と生き抜くため、売れるものは全て売った。

この国の総理大臣は消えた。

私が初めて見た彼は無気力で、呆然としていて、声も掠れていて目も腫れていた。彼はその掠れた声で呟く。


「俺たちは買われた。」と。


そしてそれが私の見た彼の最後の姿だった。


その日から、動ける大人たちは色々な国に分配された。私の両親も、今どこにいるのか分からない。


だが、これでも良かったのかもしれない。貿易など以ての外、支給も援助もないこの国で生きていくことはきっと不可能だ。





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