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そしてふたりでワルツを【漫画版あり】  作者: あっきコタロウ
外伝(むしろメイン)

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異聞九   ゲツトマ冒険記( 神になる国 編)

メイン:ゲツトマ ジャンル:倫理


 旅という行為には、危険が伴うもの。

 悪天候、食料難、野生の獣、旅人を狙う賊。あらゆる障害に対応できなれば、それすなわち死。


 道中だけではない。たどり着いた場所で、思わぬ敵意を向けられることもある。

 逆もまたしかり。何らかの信念や風習により、予想だにしない歓待を受けることもままあるもので。




「旅の魔法使い様が来たぞー! 宴じゃー! ありがたやー! 我々の国にようこそ!」


 歓声をあげるのは、浅黒い肌の男。からだじゅうにこびりついた土汚れが、鱗のような凹凸を生み出している。男はほとんど未加工の毛皮のベストと腰巻きを身に着け、木の葉で装飾された自然み溢れる棒を振り回し踊り狂う。


 男の後ろでは、この地の住民全員が集合し、旅人に向かいひれ伏していた。

 さしたる人数ではないにせよ、全員揃って同じ動きで地に伏す姿はさながらミニチュアフィギュアのよう。


 彼らを見下ろす旅人の名は、トーマス・ファン・ビセンテ・ラ・セルダ。

 月がのぼるにはまだはやい時間。ここにだけ、ひと足先に夜が来たかのような空気を纏う男。

 

 


 ことの発端は、少し前にさかのぼる。


 旅を続けるトーマスは、通りがかった森のなかで、質素極まる木組みの門を発見した。

 同じく質素な柵で囲われた土地のなかからは、ひとが生活している気配がする。地図には記されていないが、おそらくはとてもとても小さな、狭い国。


 旅の途中でたまたま見つけた、ひとの営み。ゆっくりと門に近づいて、様子を探る。ゲツエイが()めに来ないことから、即座に命に関わるような危険な場所では無いらしい。


 とはいえ、目的なく踏み込んだとて利は少なそうだ。

 国の玄関である門すらちんけなつくり。科学技術に乏しいと見える。銃弾や火薬、清潔な衣類など、求める物資の補給はとうてい期待できないだろう。

 国の奥が異様に発展している可能性もゼロではないが、危険を冒して確率の低い仮説に縋るほど切羽詰まっているわけでもなく。旅に必要な諸々は、まだじゅうぶんなストックがある。


 何らかの面倒に巻き込まれる前に、早々に立ち去るのが無難な選択。

 トーマスが静かに踵を返しかけたとき。


「おお! 門をあけろ! 魔法使い様だ!」


 太ましい声がして、いびつな門が軋んだ音をたて全開に。門からは次々に人が湧き出し、あれよあれよというまにトーマスは取り囲まれた。

 あといっぽでも近づかれれば全員殺して抜け出すか、とトーマスが身構えた瞬間。


「ようこそ魔法使い様。歓迎する。どうかどうかお立ち寄りください。その代わり、願いをひとつ聞いてほしい」


 人々がいっせいに膝を折り、門のなかへと続く道をあけた。

 

 トーマスが無言で佇んでいると、人々は「お礼はしますのでお願いします」と繰り返す。

 生活水準はあからさまに低い国。礼と言ってもたいした期待はできないが、願いの内容次第では多少のメリットを得られるかもしれない。


「願いを聞くかはわからないが、話だけは聞いてやろう」


 こうして警戒は怠らぬまま、トーマスはひとまず門の内側へと足を踏みいれた。



 国のなかの様子は、予想通り貧相で原始的だった。

 丸太で組まれた小屋が点在し、小屋のそばでは木の柵で囲まれた家畜が少量の藁を食む。舗装された道らしき道は無く、小屋と小屋の間隔もまばら。


「歓迎の宴をひらく」と連れてこられた広場にも、椅子と言う名の切り株と、木を削り出したテーブルくらいしか目立つものは無い。

 促されるままトーマスがテーブルにつくと、ここまで先導した男が踊りだし、ぞろぞろとついてきた住民たちが地に伏して。

 踊る男とひれ伏す民衆、それを見下ろすトーマスという、冒頭の図式が完成。




「で、願いとは何だ?」

 並べられた料理を、透明マントを着たゲツエイにこっそり毒味させながら、トーマスは早速本題へ。


「魔法使い様は話がはやい。まずはこれを見てほしい」


 伏していたうち幾人かの住民があたまをあげる。


 これ、と差し出された彼らの手に握られているのは、この国の生活には不相応に思える文明の利器。


「ここを押すと、火が出る。火の精霊の加護だ」


 手のひらサイズの小さな器具。カチっと音をたてて押し込まれたスイッチ。スイッチのすぐそばで燃える小さな火。

 どこからどうみても使い捨て発火装置(ライター)


「俺のも見て! 風の精霊のいたずら! ここを押すと風が出る」

「光の精霊の囁きもある。ここを押すと眩しい光が広がる」

「これには水の精霊の怒りがこめられている。水をこの穴にいれ、ここを握ると水が勢い良く飛び出す」


 缶入りのガス式エアダスター。手動充電式の懐中電灯。水鉄砲の玩具。おおよそこの国でつくりだせるはずが無さそうな、技術の結晶。

 住民たちはそれぞれの持ちものを見せびらかすように掲げ、興奮気味に性能を語る。


 ステンレスカップ(熱の精霊の守り)蛍光ペン(色の精霊の求愛)音に反応するおきもの(音の精霊の遊び)カレイドスコープ(虹の精霊の踊り)(万華鏡)。などなどなどなど。実用品から玩具まで。製品に記された文字は単一ではなく、幅広い地から集まった品だとうかがえる。

 この国で見れば異質ではあれど、トーマスにとっては別段珍しいこともない数々。

 次々に説明される勝手知ったるものの使用法。トーマスは食事をくちに運びながら、右から左へ流し聞き。


 住民たちの話がやっとひととおり済んだのは、トーマスの前に並ぶ木皿がからになるころ。

 食事が終わったのを確認すると、住民達はテーブルから距離を取り、揃って地に頭をつけた。


「魔法使い様、新しい加護をください!」


 到底この国で製造されたものではない品達。略奪、強奪ならば最初に通りがかった時点で襲われていたはず。ならばどのようにして入手したかといえば、こうい(請い願)う方法であったわけだ。


「我々は、精霊の加護がもっと欲しい。魔法使い様に頼むしかない。歓迎が気にいってくれたら、何か新しい加護をください」


 住民たちは懇願する。下げた頭をさらに低くしようとでも言うように、血がにじむほど地に押し当てて。

 あまりにも必死に、切羽詰まったように。


 何か裏がありそうだ。トーマスが返答をしあぐねていると。


 ガン! と、門のほうから響く音と振動。ガン、ガンとたて続けに切れ間なく。


「き、来たっ! 魔法使い様、はやく! はやく加護を!」

「どういうことだ? 何が来た?」


 トーマスが腰のホルスターに手をまわし尋ねると、住民の代表らしき男が焦った様子で両手を擦り縋る。


「我々は実は近くの国に定期的に襲われてる! 加護があれば追い返せる! さもなくば人が死ぬ!」


 寝耳に水の新事実。心休まる暇は無く、旅は危険がたて続け。


「加護で追い返す? あんな玩具でどうやって」

「とにかくヤツらの知らないものを見せれば驚いて帰っていく! もうすぐここまで来るはやくはやく!」


 そうこうしているあいだに、侵略者が広場まで迫って来た。

 侵略者もこの国の住民と同じように、素肌に毛皮を羽織ったのみの衣装で、手にしている武器は鋭く削った木の棒のみ。

 住民を追い立てながら、棒読み(・・・)でがなりたてる。


「うおー。珍しいものを見せろー。見せないと殺すぞー」

「ま、待て! ある! 精霊の加護、見ろ!」


 侵略者の前に飛び出す住民。震える手でライターを着火。ゆらめく炎を見せつけるも、侵略者は動じない。


「それは前見た! 他の珍しいもの、見せろー! さもないと」

「待て! 待て! すぐ出す!」


 住民の視線がいっきにトーマスへと集中。はやく、魔法のアイテムを出せと言いたげに。


 あまりにも茶番じみたやりとり。面倒が過ぎる。

 仕方なくトーマスは、ため息とともに腰のホルスターから素早く銃を引き抜き、天に向かって発砲。

 トーマスの手のうちから、ズドンと轟く雷鳴ひとつ。


 瞬間、凍る場。


 住民達はきょとんと、侵略者は目を丸くして。シンと静まり返った広場に、次に響いたのは侵略者の声だった。


「銃はさすがにダメですよ! もう少()


 腕をあげたままのトーマスが視線を向ければ、侵略者は言葉途中で黙り込む。

 それからまたも棒読みで、


「うわー! おおきな音がしたー! おどろいたー! 今日はもう帰るぞー!」

 わざとらしい宣言のち、くるりと背を向け走り去った。


 侵略者が門の外に消えたのを確認すると、住民達は歓声をあげトーマスを囲む。


「ありがとうございます!」

「今のは……雷の音……? 天を操れるとは」

「大精霊様の加護を持ってるのか。つまりあなたは魔法使いじゃない……。神だ!」

「か、神様!!」


 住民達の馬鹿げた勘違い。訂正も億劫なトーマスは、侵略者が消えていった門のそとを無言でじっと見つめている。


「そうだ神様の像を彫るぞ。丸太切って来い」

「おおきい像が良い。広場に飾ろう!」

「神様! 像をつくってもいいか?」


「好きにしろ。俺様はもう行く」


 驚きのあまりか、興奮のせいか。物乞いを忘れて歓喜する住民達。

 また何か出せと言われる前に、トーマスはこの場を立ち去る決意。


「神様ありがとう! 俺達、神様のこと忘れない! ずっと語り継ぐ!」




 二度と訪れることのないだろう国で、一食のかわりに失ったのは一発の弾丸。等価の天秤はユラユラ揺れる。どちらに傾くかは、この先次第。

 門を抜けて、トーマスはさきほどの侵略者が消えていった方角へと迷いなく進む。


 やはりと言うべきか。つい今しがたのことであるのに、誰も通らなかったかのように足跡が巧妙に消されている。


 見失った地点で立ち止まり、トーマスはひとこと。


「ゲツエイ」


 呟けば現れる深緋の瞳。


「先導しろ」


 頷き揺れる赤髪に続き、あからさまに人為的に隠された道を辿ることしばらく。予想通り、科学と自然とのあいだに境界を成すコンクリートの壁を発見。

 本日発見したふたつめの、名も知らぬ国。


 入国できそうないりぐちを探し壁の周囲を巡っていると、前方に人影が。人影のほうもトーマスの存在に気づき、手を振りながら距離を詰めてきた。


「あなたはさっきの! 足跡は消したつもりだったんですが……まぁ、あの国からここまで、そんなに距離は離れてませんしね。見つかっても仕方ないかぁ」


 のんびりとした軽い声色を発するのは、間違いなくさきほどの国で顔を合わせた”侵略者”。だがその外見は別人と見紛うほど小綺麗になっていた。

 肌の汚れは落とされ、白い地肌からは石鹸の香りを漂わせている。アイロンがけされた清潔そうなシャツを着て、パンツはクリースラインもハッキリとついたスラックス。


 野蛮な侵略者のかけらも無い相手の態度と姿。トーマスは確信をもって問う。


「なぜ、あんなことをしている? 殺すつもりも、奪うつもりも無いだろう」

「お気づきになってましたか」

「当たり前だ。猿でももう少しまともな演技をする」

「あはは、お厳しい! 演技は苦手でして。ご説明いたしますよ。国内には食堂もあります。お茶でもいかがですか?」




 そうして案内された壁の内側。門をくぐってすぐのところにある食堂で、ふたりは向き合って座す。

 窓から外を眺めれば、車も走れば映像通信機(テレビ)もあり、コンピュータや携帯型通話機もある。ここは、比較的科学技術の発達した国だと言える。


 運ばれてきたコーヒーをすすりながら、科学者がくちをひらいた。


「なぜ、侵略者のふりをしてあの国へ行くのか、ですね。実は、あの国は我が国がつくったんですよ。この国は、研究者の国です。国民は皆、何かしらの研究をしています。あの国も、我々の研究のひとつなのです」


 湯気のたつ紅茶を手に、トーマスは静かに続きを待つ。


「ことの起こりからご説明しましょう。あるとき、この国でひとつのプロジェクトが提案されました。プロジェクトに志願した複数の家族がこの国を出て、あの場所に集落をつくり原始的な生活をはじめました。もちろん本当の原始生活ではありません。あくまで原始”的”。真の原始を真似ようとしても、自然環境が違うから不可能ですから。ひとまず科学知識のみをリセットすることが目的です」


 わざわざ利便的な生活を自ら捨てるなど、気の触れた所業にしか思えない。だが、トーマスはそれを言葉にはせず、腕を組みうなずいた。


「世代を経れば完全なリセットが完了する論か」

「そうです。最初の数家族が生活基盤と子をつくり、まずは種族としてある程度繁栄させます。生まれた子らには科学的な知識を一切与えずに過ごさせ、疑似原始人類をつくりました。それから」


 と、気楽そうに椅子に腰掛けていた科学者が指を立てて前のめる。声のトーンもひとつ下がり、神妙な面持ちで、


「いくつかの基礎事項を教え込みました。”国の囲いからは出るな”。まずこれが最重要です。”囲いから出ると神の天罰がくだる”と、最初の家族から語り継がせる。実際に出た者が居れば、見せしめとして、我々が手をくだします。姿を隠して天罰を装ってね」

「ほう、天罰」

 

 トーマスは相槌をひとつ。

 ”天罰”という言葉だけでは非科学的に思えるも、やっていることは理解ができる。


 近い概念をあげるなら洗脳、だ。通常、人を洗脳するにはいくつもの段階を踏む。その人物がもともと持ち合わせていた思想や理念、概念を一度まっさらに戻し、新しい理念を植え付ける必要があるからだ。


 だがしかし、最初からゼロであれば。

 今あるものを壊すまでもなく、更地に種を蒔くだけで、森にすることができる。


「幾度か繰り返し、外に出てはいけないという考えが根付いたところで、魔法使いの登場です」

「精霊の加護がどうとか言っていたな」

「はい。科学知識の無い場所に、突然科学を持ち込むとどうなるのか? 現在の研究はそれです。本来であればゆるやかに発展してゆくであろう科学。そこに外的干渉したとき、何が起こるのか? それを調べるため、我々の国から旅人を装った研究員が定期的にあの国へ赴き、小さな科学を授けます」


「猿だな……」


 かつて、似たような話を本で読んだことを、トーマスは思い出した。

 その話では、被験者は人間ではなく猿だった。


 猿に道具を与えると、猿はそれを使うようになる。

 道具の使いみちはひとつではない。たとえば炎。これの使いみちがいくつ思い浮かぶだろうか?

 ものを燃やす、暖を取る、食材を調理する、明かりにする、攻撃手段とする……。発展させてゆけば際限なくあげられる。


 猿は、誰かに教えられることなく、別の使いみちを見つけることができるのか? いずれは自分たちで道具をつくりだすことができるようになるか? 道具を組み合わせて使用することが可能なのか? といったことを観察する実験と結果が記された本。

 読んだ当時は、無意味とまでは言わないが、猿の知能の研究などずいぶん酔狂なものだ。と、特に興味が惹かれるものではなかったが。


「猿の研究をご存知ですか? それも我が国の成果ですよ。いやぁ嬉しいな、旅人さんの国まで届いていたとは! 我々のやってきたことが、実を結んでいると実感できる瞬間ですね! 猿の場合、道具と道具を組み合わせて使ったり、高度な加工をすることはできないという結論に至りました。それでは、猿より知能の高い人間であればどうなるか? そのあたりが、今回の研究の肝になります」


「侵略者は必要性、だったな」


 猿の研究の特徴を思い出しトーマスがつぶやくと、研究者は「話がはやい」と、続きを熱弁。


「そのとおりです。道具が無くても生存には問題ない。となると、そこで発展は止まるでしょう。ゆえに、侵略者役をたて、定期的に彼らの生存を脅かします。”新しい道具””新しい使い方”を見つけておかないと恐ろしいことになるぞと脅しをかけ、発展を促しているのです」


 ふたつの国のあいだで起こっていることをあらかた聞き終えて、トーマスは深く息をついた。


 表面上は好意的に見えても、その実何らかの不利益をかぶせるつもりで旅人に接近する悪党は少なくない。あからさまな好意ほど警戒すべきとは、いくつも危険を乗り越えた旅人ほど強く意識するセオリー。

 最初に「歓迎するから願いを聞いてほしい」と言われたときにはわけがわからず身構えたものだが、ここでやっと腑に落ちた。

 あの国の住民達にとっては、本心からの歓待と懇願だったのだろう。


「それで俺様も歓迎されたのか」

「はい。本物の旅人さんが来ると、様子をうかがうために侵略者役をたてますが、こちらから襲いかからなければ危害を加えられることはほぼありません。皆様それぞれ状況を判断し、不要になった持ち物を残していってくださいました」


 あの国で見せられた品の数々。たしかにそこには、多様な地域から持ちこまれた形跡があった。

 いらない道具を置いていく程度の見返りで一食を得ることができるのであれば、喜ぶ旅人は多いだろう。


 からくりを理解してしまえば、もうこの国にも用は無い。

 トーマスは立ちあがり、


「説明、よくわかった。ところで、旅の物資の補給がしたい。見たところこの国ならいろいろと揃いそうだ」

「もちろん。我が国で用意できるものでしたら無料でお渡ししますよ。実験を手伝ってくださったお礼に」


 こうして、一発の弾丸と引き換えにトーマスが手に入れたのは、保存食をはじめとしてクァンタムポケットで生成できない数々の消耗物資。等価の天秤は、大きく利へと傾いた。


 物資を受け取り、地図に無い国を出る。

 去り際、この国が地図に記載されていない理由を問えば、「他国の干渉を避けるため」だと返ってきた。


「”好奇心で人間をモルモットや猿のような扱いをするなんて、神にでもなったつもりか”とかなんとか、煩い輩が多いんですよ」

 補給物資を運ぶ際、研究者は困ったように眉を下げた。


 

 再び徒歩にて森まで戻る。

 原始的な国と、研究熱心な国。ふたつの国の中間地点で、トーマスが小休憩がてら補給した物資の数を確認していると、ゲツエイが姿をあらわした。その手には、おそらく原始的な国から捕ってきたらしい万華鏡。

 いったい何が面白いのか、ゲツエイは閉じた世界をニヤニヤと眺めている。

 

 狭い狭い筒のなかで張り巡らされた鏡。くるくる回せばかたちは変われど、結局映し出されているのは自らの内側のみ。外を映そうと割ってしまえば、その機能は失われる。


 まったくくだらない玩具だ。と、トーマスのくちから蔑みの息が漏れたとき。

 

「我々には神様がついてる!! もう外へ出てもこわくない! 神様が守ってくれる!」

 ふいに遠くから、かすかに人の声がした。続けて小さな地響きといくつもの発砲音。


 何が起こったかは想像に容易い。

 厄介事は避けるに限る。休憩は終わりだ。


 トーマスは腰をあげ、音のする方向とは逆のほうへと歩きだした。


 異聞九 END

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