第二五話 ☆そしてふたりでワルツを※
カミィが目をあけると、窓からはいる光が壁でチラチラ踊るのが見えた。ふんわりレースみたいなオレンジ色。
「ここ……は……」
「城の医務室だよ」
お返事のしたほうに向いたら、すぐとなりで、わたしの王子様が、にっこり笑ってる。
「あ……が……つま……様? 吾妻様!? あっ、痛ぁい」
腕とおなかが、すごく痛くて動けない。
「王に撃たれたんだよ。じっとして。まだ安静にしていないといけないよ」
「トーマス様は?」
「あの従者とどこかへ行ったよ。あれはおそらく、鎖国された島で暮らす、忍者という民族。彼らがどこへ行ったのかは分からない。それどころじゃ無かったから」
「トーマス様、ばいばいしちゃったの」
カミィの気持ちはモヤモヤ。
ひとりぼっちのはりねずみさんは、近くでみたら、とげとげで痛かった。
わたしは、"ももいろのまるにもなれない。"
それは、なんだかとっても悲しいと思った。
顔を横に向けて見えるのは、ボロボロのわたしの王子様。いつもより髪がボサボサで、さわったらベタベタしてそう。それに、お顔も暗くって、元気が無いみたい。
「吾妻様、だいじょうぶ? お洋服にいっぱい血がついてる。痛いの? お怪我しちゃった?」
「これの大半は僕の血液じゃなくて、カミィちゃんのだよ。僕は痛くない」
「わたしのお怪我、吾妻様が見てくれたの?」
「うん。外科治療は得意なんだ」
「どうもありがとう」
「どういたしまして」
吾妻様は、やっぱりすごい。とってもかしこくって、難しいこといっぱい知ってて、おっきくって、強くって。
わたしも、これくらいすごかったら……。
そうしたら、ももいろのまるになれたのかな?
「あのさ」
「なぁに?」
「やっぱり僕達、結婚しようよ」
――。
虹色バブルの魔法が、前と同じにもういっかい。
「カミィちゃんを失いそうになって……いや、一度失って、気づいたんだ。僕にはカミィちゃんが必要。もう二度と手放さない。誰にも譲らない。もうこんなことが無いように、目を離さない。だから結婚して、一生、僕のそばにいて」
そう早口で言って、王子様はカミィの手を、お祈りみたいに両手で優しく触った。
その手も、舞踏会のときと全部おんなじ。
けど、お返事は、同じじゃダメで。
だってもう、知ってる絵本のお話と全然違う。
お姫様になれなくて、ももいろのまるにもなれなくて。
「でも……わたし、何になったらいいの?」
「何にもならなくていい。カミィちゃんはカミィちゃんのままで、僕のそばに居ればいい」
ね、だから、結婚しよう。
すごく、とっても、まぶしいお日さまの色の目。
「え、えっと、でも、パパと、ママに、聞いて、みなくちゃ、なの」
涙はどんどんいっぱい出るのに、声はプルプル。じょうずに出ない。わたし、こんなにおしゃべりが下手っぴだったかな?
「それはもう無意味だ。だめだって言われたって、今度はさらうつもりなんだから。カミィちゃんが僕を好きじゃなくたって、僕はカミィちゃんが欲しい」
「わたし……わたしは……」
ごしごし涙をふいて。
ツンとする鼻が、なおるのを待って。
プルプル声が、ひっこんだら。
「わたしも、吾妻様がすき。はじめて会ったときからずっと、だいすき。わたしも、結婚したい、です」
*
「なんだか、舞踏会がもういっかい来たみたいだねぇ」
――夢見る少女の瞳で、彼女がそう言ったから。
「それじゃ、ふたりでワルツを踊ろうか。怪我が治ったらね」
――彼は、悪戯な顔をした。





