2.紅い少女
「RAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!」
私と怪生物Xを追い回していた岩猿が炎に包まれて絶叫を上げる。
余程苦しいのか、転がる向きもめちゃくちゃに辺りを転げ回ってる。
そのお陰でやっと走るのを止めて息を整える事が出来たのはいいけど、コレ……
「はぁはぁはぁ、今度は、何なの?」
「このマカは、《紅焔の騎士フレイムハート》にょ!」
怪生物Xがそう言うと、転げ回る岩猿にトドメを刺すように炎で出来た巨大な剣が突き刺さった。
それがトドメになったみたいで、岩猿は完全に動きを止めて燃えながら砂みたく崩れる。
なんというか、さっきまで追い回されてた私が言うセリフじゃないかもしれないけど、RPGのイベントシーンというかアニメの一シーンといかを見てる感じに現実味が無い。
というか脳に酸素が行き渡って無い感じが酷い。
ああ、冷たい水が飲みたい……
「フン、どれ程のかと思えばただの雑魚ね」
私が水を心底求めていると、炎が収まった焼き砂の上にフワッと一人の女の子が降りてきた。
私が着てるコスプレ服と同じデザインだけど色は白と赤という衣装を着てる真紅に輝く太刀を持ってる女の子で、見た目的には多分同じ位の年頃。
堂々と砂の上に立って未だに時計の上にいた変態を睨みつけてるけど、恥ずかしくないの?
それとも魔法が使えて変身できる魔法少女的ポジションに未だ憧れてた乙女なの?中二に罹る病が持病な人?
ああっと、いやいや。
彼女は命の恩人なんだし、そんな失礼な事を考えちゃダメだ。
もしかしたら自棄になって開き直ってるだけかもしれないんだし。
それにこう、恥ずかしがってたら余計に恥ずかしく見える的な風に考えてるのかも。
「フフッ、まさかマカをそこまで操れる魔法使いが既に復活しているとは。貴女の目覚めのマカは感じなかったのだがね」
「そっちの子とは聖獣の質が違うって事よ。それで、アンタも焼き尽くせばいいのかしら?」
「いや、ここは素直に引かせて貰おう。ワタシが女性と争うのは本意ではないのでね。陛下からはお叱りを受けるだろうが、ここは第三将軍辺りにでも役目を代わって貰うとするよ」
変態は気障ったらしく言うと、その後ろに黒い渦みたいのが急に出てきたと思ったら、変態は躊躇無くバックステップしてその黒い渦に飛び込んだ。
黒い渦は変態を飲み込むとすぐに霧散して消える。
アレは某妖怪のスキマみたいな空間を繋ぐ系のなのかな?
渦巻いてたし、インスタント旅○扉的な。
「逃げたか。まぁどうせまた来るだろうし、足手まといがいる今よりかはいいわね」
「あ?」
今、足手まといとか言った?
いや、確かに逃げまくるしか出来てなかったけどね。
「アンタ、今さっき変身出来る様になったのよね?」
「……そうだけど?」
女の子はこちらに振り向いてぶっきら棒に言う。
その前の言葉で反射的にこっちもぶっきら棒な感じに言っちゃったけど、こっちを見てくるあの子の眼は返事を返したのも間違いだったと思う程に、あの“連中”と同じ眼をして、私を見下し蔑んでいた。
「初めてで魔法の使い方も分からなかったら仕方ないけど、次までには最低限自力で逃げれるだけの魔法は使える様になってなさいよ。連中がいつくるかは分からないけど、その度に助ける破目になるのはこっちの負担が大きいから」
そう言うとこっちの言葉も待たずに足元から火を噴出し、女の子は空を飛んでその場から消えてった、
そして残される私と怪生物X。
「…………上等じゃない」
「みぎゅっ!?」
私は怪生物Xの頭をガシッと鷲掴みにして紅い女の子が飛んで行った方向を睨みつける。
今の私はコスプレの恥ずかしさや怪生物Xへの制裁より、あの子を見返す事が重要になっていた。
「……おはようー」
「あれ?杏璃、アンタ今日は休みじゃなかったんだ?」
「ちょっと面倒事でね、遅れてきちゃった。一限目と二限目のノート借りていい?」
「ん、ちょっと待って。はい」
「ありがとう」
友達の沙耶が珍しく、というより初めて大規模遅刻してきた私を目を丸くして見られた。
一応優等生の良い子ちゃんとして猫を被ってる私が2時限目の授業の終わり頃にやっと顔を出したんだから当然だけど、その理由を話しても嘘と思われるか可哀想な人みたいに見られるかの二択なので誤魔化しておく。
あの後、怪生物Xを尋問して色々と聞き出し何とか元の制服姿へと戻る事が出来た。
あんな大騒ぎがあって一人も人が来なかったのはあの変態が必要以上に大げさにしない様、認識操作の魔法とやらを広範囲に仕掛けていた為らしい。
私もあのコスプレ状態だと自然と放たれる魔力で他人が私を認識するのにナチュラルジャミングが発生して個人識別はされないとかも言ってたけど、アレはあのコスプレ自体が問題なのだ。
あの紅い子はそのナチュラルジャミングを前提にして堂々としてたんだろうけど、正直私としては特定されなくともあんな恰好は正直御免被りたい。
とはいえあの紅い子に目に物を見せる為にはあのコスプレは必須、既に生き恥は覚悟する決意は出来てる。
この杏璃、伊達に『見下されたと思ったらまずは直接手は出さず、相手が自分の方が上だと思ってる事柄でより上にいって見下し返せ』と両親から教えを受けてきたわけじゃない。
あの上から目線がコスプレ状態での魔法を背景にしてるのなら、それを超えて見下すのだ。
うん。実に性格が悪いけどそれが私で、常にトップを走れる理由なのだから仕方ない。
それにあの変態やその仲間も、伝説の魔法使いの生まれ変わりを皆殺しにする気満々らしいから面倒だけどそれらからも身を守る手段が必要になるし。
その為にも魔法についての知識や怪生物Xや魔法使い、あの変態とその所属してる帝国とかについても知る必要がある。
だからそこ、あの怪生物Xの処分を見送ってムテープでぐるぐる巻きに拘束して一旦家に戻って私の部屋の押し入れに放り込むに済ましたんだから。
両親は共働きで家に誰もいないから泥棒でも入らない限りは怪生物Xが見つかる心配は無い。
「杏璃、なんか疲れてるっぽいけど大丈夫?無理して倒れるとかはヤメてよ」
「大丈夫、大丈夫。倒れたりしないし、それだったらもうこんな時間から学校に来たりしてないよ」
「それはそうかもだけどさ。杏璃は変なトコで小意地になったりするしねぇ」
「そんな事無いって、私はいつでも柔軟ソフトだよ」
「どの口がそんな事いうかな」
そんなに疲れて見えたかな?
沙耶が心配そうに声をかけてくれたけど、実際に体力的には問題は無い。
…………精神的にはもうベッドに潜って不貞寝してしまいたいけど。
にしても、心配してくれる友人にきちんと説明も出来ずに心配かけてやる事が魔法少女とかね……
「…………どこのラノベなんだか」
声には出さずに唇だけ動かして言葉にしなかった皮肉はノートを写す為に顔を下に向けていたのもあって沙耶にも気付かれず、ただ私の心内を憂鬱にした。