別れ
「待てよ。」
レイの一言が静かな食堂の中に響き渡る。
誰も動こうとしない。
誰も喋ろうとしない。
「待てよ。」
もう一度レイが言う。
「僕はもうこの村にはいられない。」
この言葉が僕の出せる精一杯の言葉だった。
裏切られる。
出てけ、化け物め。
頭の中で古い記憶がよみがえる。
「姿を見られたからか?」
レイの声が聞こえる。
やめてくれ。もう何も言わないでくれ。
身体の震えがとまらない。
もう何も聞きたくない。
僕はしゃがみこんで耳をふさぐ。
「みんな知ってた。」
やだ。もう何も言うな。
「お前が白狼だってこと。」
え?
「みんな知ってた。なんせ頭と尻に耳と尻尾があるんだからな。」
大急ぎで頭に手をやる。
だが、耳はないしお尻に手をやっても尻尾はない。
そこで、レイがフッと笑う。
「魔力でできてるから触れるわけないだろ。」
普段から体に魔力をまとわせていたかららしい。
もとの体を魔力が覚えているかららしい。
「なんだよそれ・・・。」
笑えてくる今までばれないようにしていた自分が笑えてくる。
「だからお前は出ていく必要はない。」
だがそれが無理なのを僕は分かっている。
なんせ僕は領主殺しの大罪人だ。この村にいては迷惑がかかる。
「僕は罪びとだ。領主殺しの。だからここにはいれない。」
「そんなの、白狼様だからって言ったら・・・。」
「だめだよ。」
「なら、俺も出てく。オレも領主に歯向かった罪びとだ。」
「無理だよ。レイじゃ僕についていけない。それにまだ成人してないでしょ。」
レイが唇をかみしめながら俯く。
悔しいだろう僕が逆の立場だったらものすごく悔しい。
「それまでに強くなる。」
レイが絞り出すように言う。
「わかった。2年後にまたここに戻る。」
これくらいはいいだろう。
レイの顔がパッと明るくなる。
「村長今までありがとうございました。あとレイ、じゃあね。」
僕はそのまま走り出した。
ここから旅をしよう。
どこか遠くへ。
邪龍が殺せるようになるまで。
これで第一部は終了です。
あとは閑話を挟んで第2章です