5.ふと、思い出したこと
…………ヤバイことを忘れていたかもしれない。
笑い話では終わらない彼女の、いや、彼女の家系の呪われた体質を。(大袈裟?いや、マジで困るんだ、これ)
『……………ねぇ、凜』
僕は恐る恐る訪ねる。急にどうしたのよって感じで凜は眉を寄せた。
「何よ、悠莉。暇ならさっさと手伝って欲しいんだけど」
テキパキと動く双子を尻目に、凜はパソコンから目を反らさずに僕に話を促した。
『いや、さ?
"うっかり"、また発動してない、よね?いっつも二次被害に遇うの僕なんだけど』
「今回は(・)してないわよ!!当たり前でしょ!!」
隣で資料を纏めて、片付けていた琢磨くんは、苦笑してる。あ、これは何回も被害にあった系な感じだな。
だって本人、今回は(・)って言ってるし。自己申告制?
『………ホントに?
被害者の居たところの浄化、ちゃんとやった?
隠蔽の魔術、しっかりかけた?
簡易版で終わらせてない、よね?』
「……………………あ、」
よくよく、今までの経緯を思い出そうとする凜。と、凜の表情が急変する。………やっばりか。
「え、ちょ、凛?まさか、”また”?」
「そんなに酷いのか?局内の評判、"Ms. Perfect"だろう?」
「いや…、零夜さんが思ってる以上だぜ……?」
琢磨くんにも呆れられる凛。ちょっと笑えてきた。
うん、二人の苦労は推して量るべしだ。零夜の問いで、二人の背に暗雲が立ち込めて見えるもん。
…………お疲れさまです。僕も苦労させられたから、良くわかる。
ここでアワアワされても、今すぐには対策の立てようがない。いい加減、この死に至るうっかりはどうにかならないものか。
……………いや、どうにかなったら、なったで奇跡だわ。
『で?』
「浄化、簡易のヤツしかやってないわ。どうしよ」
ほらぁ。僕は大きく溜め息を吐く。いつものように尻拭いしなくちゃか。
『見た感じ、血を使って龍脈やら土地やらを汚して、悪魔か何か召喚するっぽいのに、簡易的な浄化しかしてないって、どういうつもり?』
ジト目で凛を見る。確かに、こうして事件の捜査を命じられてるだけあって、色々一杯一杯なのは理解できる。でもさ?それで仕事増やされても困るくない?
…………仕方ない。僕が出て祓った方が早いし。
『召喚:マギフクロウ ナイロック、フェンリルウルフ リル』
取り合えず、僕の大切な仔達を喚ぶ。
二人とも、空気を読んでスモールサイズだ。(そうだな、目安としてラ◯ード色の子犬と、真っ白なサボテンフクロウを思い浮かべればいいと思う)
「雪白ちゃん、その子達は?」
猫又のはずのユズが、ウルフの上位種である、リルを撫でながら尋ねる。フェンリルウルフってとこはスルーですか?
『私の契約してる召喚獣だよ?使える技も多いから、特に多用してる子だけど。
んーと、……そうだな。リルは凛について。ナイロックは僕と浄化』
《了解しました。
それにしても、主は色々と、厄介事に巻き込まれますね》
《いつもの事じゃない。
それにしても久しぶりね、凛ちゃん♪元気?》
うん、二人の性格が良く出る会話である。凛は普通にええと返して(とは言え、未だにショックを受けているようだが)溜め息を吐いた。
『よっと』
「ちょっ!!雪白さん!?」
開け放っていた窓に足をかけると、流石にアッくんが慌て出す。この位(校舎の三階)、飛び降りたって平気だって。風姫が着地、手伝ってくれるもん。
『とりあえず、町の浄化してくる。何かあったら牽制しつつ、他の式が飛んで来ると思うから。行くよ、ナイロック』
《はい、マスター》
「悠莉、待てっ!!」
零夜の制止を尻目に僕は窓枠を蹴る。
【風よ!!我を受け止めよ!!】
精霊言語で命じれば、地面まであと十㎝。ふわりと着地して、そのまま風で後押しして、身体強化。零夜の静止なんて気にしていては悪魔が召喚されてしまう。それだけは絶対に避けなくては。