2:”朱い流星”、襲来
士乃は凛と同じ世界にいた時の名前です。
この段階だと、本名知らないからね。
「凛。知ってるのか?」
『いや、その前にここでガンド打つなよ。
………僕じゃなきゃ、避けらんないかったでしょっ!!』
「あら、”士乃”。あんた、避けられたじゃない」
そう言い放った凛に寒気を覚えた。
………うん。
僕の記憶は、自我さえ芽生えればどうとでもなるけどさ。ぶっ放すのはよくない、よくないと思う。僕似の誰かだったらどうするのさ!?
いや、彼女の幸運Aだったわ。アイツはそれでも幸運Eだったんだけどさ?
なんで、凜の幸運値UPの補正が効かないんだろ?……ま、今世じゃ関係ないけど。
「アンタなら、避けられるという確信からだわ。変わってなさそうだったし。
……まあ、”改めまして”かしらね。雪岡凛よ」
そう凛は告げた。今回も雪岡なのね。
横にいる二人は、名前も知らない奴にガンドをぶっ放したことに、頭を抱えてたけど。………僕らの間じゃ、転生して初っ端のエンカウントでは、かなりよくあることなのだが。
凛がいるってことは、魔術師もいるってことだ。母さんは魔女だったしね。
そこら辺どうなんだろ。呪術師とかもいそうだな、この分だと。
まあ、まずは、すまなさそうにしてる男子に名前を告げますか。
『変わってないのは凛だけだろ。
………どうも雪白悠莉です。断じて”士乃”ではないので』
「分かってるわよ!!
こっちの二人は、私の契約者の一之瀬琢磨と黒羽海人よ。
琢磨は零夜の従弟、海人は彰人の弟なのよね。私と零夜は腐れ縁だから」
おい、腐れ縁をなぜ強調した。僕は幼馴染だが、凛のこと聞いたことはないぞ。………気にしてないけど。変にフラグ立たなかったから良しとしよう。
因みに、凛は僕が魔術遣いになった世界の幼馴染だ。腐れ縁とか言ってなかったので、僕にはデレてたのかな?彼女、ツンデレだから。
『始めまして一之瀬君、黒羽……海斗君でいい?』
「よろしくな雪白ちゃん。琢磨でいいぜ」
「オレのこと、兄貴と同じように呼んでくれて構わねーよ?」
『じゃ、カイくんね』
凛達との挨拶が終わって、ふっと生徒会メンバーを見る。
………零夜のポカーンとした顔初めて見た。つい笑ってしまう。
僕の笑い声で我に返った零夜達は、僕に掴み掛る勢いで言葉を発した。
「説明、するよね?」
「雪白ちゃんがどんどん遠くなるよぉ、アキぃ~」
「ほらユズ。嘆いてないでお茶淹れてきて」
アッくんに促されて、アッくんに抱き着いていたユズは、泣きながら再び給湯室に向かった。なかなかにカオスだ。
ところでユズ、僕は僕で変わんないからな。凛とか、転生してきた世界で何回かあったことのある人たち、全員からのお墨付きだ。名前は変わるし、技能は増えていくけどね。
『え?ヤダよぉ。僕と凛だけ知っとけばいいし。
まあ、……僕は瞬間移動能力者でもある魔法使い…いや魔術遣いかな』
すると凜は、ぱっとこっちを見た。………なにさ。
「違うわよ!!アンタはただのチートよ、チ・ー・ト!!
まあ、………アンタ、お人好しだし、いっつも人にバッカ気を使いすぎなのよ。自分の心配だけしなさいよねっ!!」
『なら、うっかり止めろよ。そのフォローが一番面倒くさいんだから』
うっ、と言葉に詰まる凛。
琢磨君こらえきれずに笑い出すし、カイくんも隣でうんうんって頷くってことは治ってないんだね。
いい加減、ずっとしっかりしろよ。家訓”常に優雅たれ”だろ。余裕を持って行動しろ。だろ。
「でもさ、雪白ちゃん。魔力感じないし本当に魔法使えるの?」
『ん~と、どうしよ』
「私に聞かないでよ。……ていうかアンタ、また、"アレ”使ってるワケ?使ったのは?」
『う~んと、20個位たまってるかな。あ、宝石魔術なの?』
「ええ。だから、頂戴」
凛は宝石を媒体とした魔術を使う。宝石さえあれば、どんな魔術も使えるけど、お金掛かるんだよね。屑石じゃ魔力に耐え切れないし。
………だから、僕がRPGの世界で手に入れた宝石を会う度にあげてるけど。
僕、どうやら黄金律(人生でお金がついてくる率)、コレクター(レアアイテムの入手しやすさ)はどちらもB判定らしく、すぐにたまるんだよね。パソコン(電子回路の保管庫のことだ)の上限無いからいいけどさ。
「じゃ、失礼するわよ」「ちょ!?凛っ!!!おまっ!なにしてんのぉ!!」
凛が僕の胸に手を”入れる”。文字通りだ。あと、たっくん煩い。
魔力喰わせるために、宝石を淹れてるからね。取り出すにはこうするしかない。皆目を丸くしてるけど、僕の胸から赤緑青橙の石(元10円玉現コブシ大)が出ると、なっと声が漏れた。
魔封じのカフスつけてるからとはいえ、魔力抑えられてても漏れるからね。それを食わせてたわけだし。
『うわ、だいぶ育ってる』
「アンタの魔力がそんだけ高いのよ。石は?」
『これで終わり』「じゃ、また掛けないといけないのか」
凛はため息をついた。よろしくお願いします。
でも、零夜がため息をつくなんでさ。
「契約掛けときゃよかった」
『どういう事?』
「魔族は契約者から魔力供給、……血を貰うとかだね………、してもらって、見返りに契約者を他の魔族から守るっていうギブアンドテイクのことだよ。
真祖な零夜の場合、本契約、つまり、かなり魔力を提供してもらう契約しかできないから、今まで雪白さんとできなかった。………いや、しなかったんだ」
人間(魔力が低い)とはできないらしい。魔術師ならオッケーなんだって。
魔力(別名霊力)高いもんな、僕。伊達に四ケタいってない。魔力お化けとか言われるし、歩く聖地とかってホラーな世界ではよく言われてたっけ。
「帰ったら小母さんに言うか」
『母さんは気づいてたみたいだけどね。このカフス、母さんがつけたし』
耳についてる聖銀のカフス(青い宝石が飾られているもの)に触れながら言うと、凛は何かに気づいたようにくすっと微笑む。
「ああ、うちに依頼あったわね。"娘のために、魔力全部封じるつもりで作ってほしい”って」
『母さんだね。さ、てと。“電子回路の保管庫”(エレクトリックストック)起動』「いまどこから出したの、雪白ちゃん!?」『亜空間?』
小首を傾げて答えると、そういう問題じゃないっ!!と言わんばかりの目線が来る。皆急に、ギャグ要員になったみたいだ。そんなのタイガーやらで十分だ。
凜がため息ついて、全員を治める。苦労人フラグが立っているが、彼女はお騒がせ要員だ。主に僕ら関連者が迷惑を被るワケなはずなのに。
「こいつに突っ込むと、きりがないわよ。悠莉だから、で流してちょうだい」
「急には無理だよ」
ユズとかの混乱は無視します。説明は凛に一任するよ。自主的にしてくれるし。前に言った、狩人がいっぱいいる世界で作った能力が、僕の手の中に出現する。この中には電脳系の、処遇が不憫な敵とか、AIもいたりする。本人たちも過ごしやすいらしい(自室とか作ってたし)。
引き出すのは、RPGで拾った魔力を含む石と、魔力喰らいの宝石たち。凛には今のうちに渡しとく。
……で『シャットダウン』というと、跡形もなくノートパソコンは消えてしまうのだ。また呼び出せば出てくるけど、呼びっぱなしは魔力使うからね。
「さて、祓魔局からの依頼だけど。悠莉、アンタも手伝いなさい」
『いーよ。朝の惨殺死体の件でしょ』
ぶっちゃけ、気になってたから手伝うことに異存ない。いつも、凛に無理やり連れまわされてたからね。
じゃあ、召喚獣であるマギフクロウのナイロックでも呼びますかね。…いや、普通に式を使うべきか?
「許可できない」
零夜は、眉間に皺を寄せて僕と凜を見た。さて、どうやって説得するか…。
「コイツ、アンタと琢磨を同時に相手にしても余裕で勝てるわよ?」
「無理だろ。琢磨一人でもさばけるかどうか」
『たぶんいけるよ?英霊ですら互角に戦えたし』
そういうとカイくん無言になる。アッくんなんて「えっ」ってつぶやいて固まったし。ユズはほらぁ、と言わんばかりです。
「駄目だ、ユウ。お前は家でじっとしてろ」
早々能力使わないって。通常運転なのは零夜だけ。反対してもいいけどね。
『やだね。行っちゃダメって言うんだったら、僕一人で事件解決するだけだ』
「諦めて連れて行ったほうがいいわよ。悠莉は自分の怪我すら押して、円満に解決しちゃうから」
『ヤダな、動きにくいから治癒魔法使うし』
そういうと、皆絶句して凛を見る。凛がおもむろに頷くと、全員溜息をつき、顔を見合わせて頷きあう。ちょ、それ駄々っ子に対する対応っ。
「………分かった。ただし俺らと行動を共にしろ。絶対だ」『了解』
自棄になってふふんと笑うと、嵌められたってユズが呟いた。いや、唯のやけっぱちです。
「じゃ、説明するわよ。席に着いて頂戴」
さあ、捜査の始まりだ。
主人公ちゃんあくどすぎる。