1:事件発生
ちょっと書き換えました。
「悠莉ぃ〜!零夜クン来てるわよ〜。急ぎなさ〜い!!」
『すぐ行くー』
着替えに戻っていた二階の自室から出て、僕は鞄を階下に飛ばす。こんな時くらいにしか、テレポは使えない。階段を下りる音は立てないと変だしさ。面倒くさいけど……ま、仕方ない。
こういうちょっとしたトコで裏ワザ使うのも、凛にばれると「何無駄遣いしてんのよっ!!」と怒られるけど…。そう思うと、思わず苦笑が漏れた。
さて、ここで補足。零夜は玖堂零夜って言う僕の幼馴染だ。母さんの大親友兼同業者である玖堂弥奈さんの息子。頭はいいし、運動もでき日本有数の財閥玖堂財閥の長子のイケメンである。どこぞの獅子会長かっ!!て思うがそこは置いとくとしよう。
『お待たせ』
「別に大して待ってないよ。行こうか。祐希さん、お茶ごちそう様」
「いいえ。いってらっしゃい」
「『いってきます』」
綺麗に声をかぶらせて、僕らは家を出る。幼馴染だもん。
家を出た時に零夜はすっと僕の鞄を奪う。紳士かよっ、と初めは突っ込んだけど、慣れてしまった。なんだかんだ、この幼馴染様は世話焼きなのである。
暫く歩いて家から離れたところで零夜はふぅ〜と息をつく。
「あ〜、……めんどくせ」
『じゃ、猫かぶんの止めたら?』
「んな事したら、親父に怒られるっつーの。
………つかこっちだろ」
……っち、ばれたか。いつも向かう道から離れて遠回りしようとすると腕をつかまれた。
だって、その道、すごく嫌な予感がする。
十中八九、面倒臭い事に巻き込まれる、と直感が言ってる。某マフィア時代に培われた、超直感とでもいうべきものだ。かなり信用してる感覚は、誰も共感はしてくれないけど。
ブスッとしていると、零夜は何か、……僕にはわからないものに反応した。
………幽霊でないことだけは確か。ホラーとかそういうのは、陰陽師とかで慣れてる。見鬼はいつも働いているからね。
いつにもなく、険しい顔をしている零夜に違和感を感じる。
………そうして僕が向かおうとした方向に歩みを進めだした。腕を離してくれないから痛いんですけど。
『どうかした?』
「……お前、いつもの感か?」
『うん。ヤな予感ほど的確に当たるから。……多分、今回もそう』
「………そうか。急ぐぞ」『うん』
いつにもまして、先を急ぐ零夜に不信感を抱きつつ、僕らは日之宮学園に急いだ。
―—―――――――僕らが行かなかった通学路の十字路の先には、一人の男が血まみれで死んでおり、彼の死体は犬に喰われてたかのような無残な姿で放置されていた。
そこには、祓魔局と書かれた腕章をした、赤いコートの似合うツインテールの少女と黒いコートの少年、やんちゃそうな青いジャンパーを着た少年がおり、現場を調べていた。
学校につくと学園全体がざわついていた。やはり何かあったのか。
つい、戦闘モードに移行しようとした僕の肩を、零夜はポンッと叩いた。
それにハッとなると、「大丈夫だから、ね」と柔らかく微笑まれた。
猫かぶりモードですね、わかります。
警戒はしたけど怯えてるわけじゃないのにね。
教室はもっとざわついてたけど、零夜を見ると……いや、正確には僕の方か?まあいいや、しんとなった。…………なんでさ。
人の間を縫って、ととと、と僕の親友である皆元譲菜と黒羽彰人がやってきた。アッくんはどこかしら焦ったようだったけど、ユズは僕を見てホッとしたようだった。
『二人ともおはよ』
「おはよ。……よかったー、アレは見てないみたいだね」
『アレ?』
「なんかさ、………雪白ちゃんの通学路で惨殺死体が見つかったらしいの」
アッくんと零夜はといえば、挨拶もそこそこにして、私たちの後ろでこそこそと話している。アッくんの肩で隠れて見えないから、読唇術は無理だな。
どんどん零夜の表情が険しくなっていくんだけど、大丈夫かな?
『マジで?』
「うん。よく見なかったね」
「ほんと、ユウの危機察知能力は目を見張るよ。気づいたら、迂回路行こうとするからね」
二人はマジで!?と言わんばかりに僕を見た。こくりと頷くと、頭を抱えようとするし。……失礼な、僕の超直感は常にアクティブだぞ。
凛の不意打ちガンド(ケルトのルーンの一種。指から赤黒い光とともに呪いを放つ技のこと。アイツのはフィンのガトリングレベル)も避けられるレベルだ。罠も見抜くし、うそ発見器とも言われたこともあります。
「………雪白さんって本当に人間?実は猫又とか」
『人間ですぅ!って猫又って人間じゃないよね?』
ユズは傷ついたように零夜を見た。アッくんは呆れたようだけど。
………零夜、そこで頭抱えるってどういう了見だよ。え?ユズが猫又とか?冗談も甚だしいな。
「………………何で知らないんだ?」
「「いや俺/私に聞かれても…」」
あれ?マジで猫又なの?まさか、ね。
「雪白さんってさ、満月前後は必ず休んでたのに知らないの?」
「………小母さんだな。絶対確信犯だ」「「ああ」」
三人は納得したようだ。アッくん、どんな純粋培養だよ…って嘆かないでよ。
身内だけで団結しないでくれないかな。身内ネタは、身内しか通用しないんだぞ、寂しい訳じゃないんだからな!!
―—――とそこにピンっ♪ポンっ♪パンっ♪ポンっ♪と放送が入る。この声からして教頭先生だ。
≪全校生徒にお知らせします。
本日から三日、三日間本校は休校といたします。
魔族等契約者の方々は、パートナーをしっかりと家に送り届けるように。
尚、この三日間は、祓魔局に所属している人以外は外出しないように。
繰り返します≫
なんか、全部わかった。
どうやらこの世界は魔族、つまり妖怪とか(多分西洋のもいる)と共生してるんだ。前、使えなくていいやって思ったけど、使えてよかったかもしれない。
………つか、中学生のとき血を寄越せって襲われたけど、あれ吸血鬼だったのか。返り討ちにしたけどさ。
「二人ともこの後手伝ってくれない?ユウに常識叩き込m……教えるから」
『今叩き込むって言ったよね!?そこまでバカじゃないよ!?』
零夜にくってかかると、ポンとアッくんの手が肩に乗る。転生歴四ケタ(わたし)は、大して物事に驚かないんだぞ。順応するのも早いし。
「まあまあ、雪白さん落ち着いて。……俺に拒否権はないでしょ」
「右に同じく。……ま、雪白ちゃんのためなら何でもするけどね♪」
「サンキュ」
そういって、零夜は僕に輝かしい笑みを向けた。……いま、後ろに般若が見えるんですけど。笑みが輝いてるだけに余計に怖い。
「じゃ、生徒会室に行こうか」
Answerはyes or ハイしか聞かねぇよ、と副音声が聞こえたぞ。
うんと頷いて生徒会室に向かう。この生徒会長様、権力持たせちゃいけない人だろ、と思った『僕は悪くない。』。………おっと、括弧つけちゃったぜ。
さて、生徒会室に着くと、ユズはすぐに隣接してる給湯室にお茶(ユズは緑茶が得意だ)を淹れに行き、アッくんはホワイトボードを引っ張り出した。ユズ以外が全員、部屋中央にある丸テーブルにつく。
気づいた人もいるだろうけど、うちの学校の生徒会役員に、僕も含めなっている。会長が零夜、副会長が僕とアッくん。会計がユズだ。
……だから、こんな風に、勝手気ままに動けるんですけど。ユズがお茶を持ってきたところで話は始まる。
「まあ、お前の理解力だ。大概わかってんだろ?」
『まあ、ね。この世界は妖怪とか……魔族?と共生してるんでしょ。
昔、変な男子生徒に血を寄越せって言われて返り討ちにしたこと、何回もあったんだけどさ、今じゃ吸血鬼だったのかもとか思ったり。
……ユズは猫又として二人は?今回の事件も関係あるんでしょ』
そういうと三人は顔を見合わせた。吃驚するにもほどがあるわ!!
零夜は多分二人を従える立場だから、ぬらりひょん……いや似合わない。吸血鬼の貴族、もしくは真祖とかかな。アッくんは多分日本系の妖怪だろう。
「……正解だ。俺は吸血鬼。彰人は烏天狗だな。つか、報告にあった女子中学生に襲われたつってた奴等、お前に返り討ちにされたのかよ」
「……雪白ちゃん何者?吸血鬼、返り討ちにしちゃうとか」
転生した魔術使いです。……とは言えないので、ウフフと笑って流す。
零夜はさっき、母さんのせいって言ってた。なんでだ?……後、祓魔局ってなんだよ。書いて字の如く、だろうけど。
『さっき、母さんの所為とか言ってたけど、どういうこと?』
「祓魔局っていう、……魔族や魔術師にとっての警察みたいなのがあるんだ。零夜の家は、そこのトップも兼任してる。
俺達は、既にそこで働いてる、学生チームの一つなんだけどね。
それはさておき、幹部の中には黒羽家、雪岡家、皆元家、月宮家もあるんだけどさ、雪白さんの家は…」
はいそうです。母さんの旧姓が月宮だ。つまりはそういう事。
そりゃ、幼馴染が零夜になるわな。でも、僕は魔族ではない。なんで母さんは祓魔局に入れたんだ?
「小母さんは魔女だ。それも稀代の魔女で別名“閃光”(ライトニング)。
お前も、結構な魔力があるんじゃないかと一時期騒がれたんだがな。これだろ?あとは察しろ」
そりゃ体の中に、魔力喰らいの石入れてるからね。早々漏れまい。
………絶対に、ホルマリン漬けとか嫌だし、昔は、世界を股にかけて逃げ回る羽目になったからな。(遠い目)
ばれたくない。そのための工作はいくらでもしますとも。……まあ、自我ができてからしかできないので、その前のこと(3歳より前)は母さんの仕業だと思う。
と、ノックもなしに戸がガラガラと開く。
そこには、赤いコートで、黒い髪をツインにして黒いリボンで結んだ女の子と、黒いコートの零夜に少し顔立ちが似てる男子、そしてアッくんがチャラくなったらこうなるだろうと思う青いジャンパーを着た少年が立っていた。
つかっ、真ん中の女の子まさかっ……!!
彼女は僕を見て目を大きく見開き、手を刀印の形にして僕に向けた。そして腕に青白い光で模様が浮かぶ、ちょっ!!!!!
手の先に赤黒い光が集束して、こちらに放たれるのを目視した僕は、反射的にテレポで避ける。光は何にも当たらずに窓から外に出て行った。
零夜が僕に手を伸ばした格好で固まってたり、みんな愕然として僕を見つめる。
『………………凛?』「ええそうよ。久しぶりね“士乃”」
そういって彼女は、髪を後ろにぱっと放った。