-終わりのないお茶会-
辺りは薄暗く、お月様は真っ赤な色、きっと今は夜だろうか。
と言ってもこの世界の明るい空は見たことがないが、朝にはあるのだろうか。
そんな事を考えながら、私はチェシャ猫の頭の上にいた。
ふと青いイモムシにキノコを貰ったことを思い出した。
『チェシャ猫、ちょっと降ろしてくれる?』
私はチェシャ猫の頭から降りると、赤いキノコを半分食べた。
すると、身体はぐねぐねと歪みはじめ、身長も体型も元の大きさに戻り、親方に貰った服もそれに合わせて大きくなった。
『やっぱり!元の姿に戻ったわ!て言うことは、こっちの青いのは縮むってことよね。何かに使えるかもしれない!』
元の姿に戻った私は小さな小さなキノコを大事にしまい。チェシャ猫と共に前に進んだ。
『チェシャ猫、灯りが見える。』
近づくと芝生の広場の真ん中に、大きなテーブルに綺麗なテーブルクロスが引いてあり、その上にはキャンドルがあちこちに置いてあった。
そこまではロマンチックと言えただろうか。
周りやテーブルの上は、割れたお皿やグチャグチャのケーキなど、もう何が何だか分からない程、めちゃくちゃになっていた。
椅子には帽子をかぶった男の子、15歳くらいだろうか…小柄で水玉模様の大きな蝶ネクタイをしており、頭にも異様に大きいなシルクハットをかぶっていた、そのせいか、目は帽子に隠れ見えなかった。
その横には眠っている薄茶色のぽってりとしたネズミ。
そして、茶色いウサギがいた。
茶色いウサギは、藁を頭に巻いていた。
一人と二匹はお茶会を楽しんでいるようだった。
『あのー』
私が声をかけると、ウサギと帽子の子がはっと振り向いた。
『あ、やっときたぞ!』
『ほんとだ!やっと主役のお出ましだ!!』
『アリスがきた…むにゃむにゃ』
『主役??』
『そうさー!今日は君の誕生日じゃないか!』
と、ウサギは私を椅子に座らせた。
チェシャ猫も椅子に座りお茶を頂いていた。
今日が私の誕生日。
て言うことは、家から出て日付は変わっていないことになる。
『ウサギさん、今は何時??』
『三月ウサギだ!今は3時さ!』
『と言ってもずーーーーっと3時だけどなー!』
割り込んで来たのは帽子くんだった。
『帽子屋は黙ってな!アリスは俺と話してるんだからな!』
どうやら帽子くんは帽子屋と呼ばれているらしい
『ずっと3時??どう言うこと??』
『時計をみてみなよ』
帽子くんは時計を指差した。
『これは壊れているんじゃないの??それに時計が動かなくったって、時間は進むものよ??』
『違うさ。王女様が時間くんをさらっているんだよ。時間くんがいなくちゃ時は止まったままなんだ。常識だろ?アリスはそんな事も知らなかったのか』
三月ウサギが説明し、ふっと鼻で笑いながら私を小馬鹿にした。
『鼻で笑わなくても良いじゃないの!頭に藁なんてつけちゃって、帽子くんに帽子作ってもらえばいいのに。』
ムキになる私に三月ウサギは、頭の藁をおさえ自慢気に藁の事を話しはじめた。
『わかってないな!これは藁じゃない金の王冠さ!』
『ふぇ??』
王冠だと言い張るそれはどう見ても藁にしか見えない。
『可笑しい、それは藁にしか見えないわよ??』
『いーや!間違いなく王冠だ!藁と一緒にしないでくれ!』
『まぁまぁ、せっかくアリスが来たんだし、落ち着こうな?』
終止符をうったのは帽子君だった。
ウサギはムッと膨れると一気に、紅茶を飲み干した。
『そうだな…。これは小さいアリスがくれた本物の王冠なんだけどな……。』
ボソリと言ったそれは、確かに小さい私と言ったのだ。
『待って?!今小さいアリスがって言った??』
『なんだ??覚えてないのか?!全く、何もかも忘れちまったんだな。だからお茶会にも来なくなったんだ!』
『アリスが小さい頃は良く遊びに来てくれたのになー…むにゃむにゃ』
私は、ハリネズミと親方もそんな風な事を言っていたのを思い出した。
どうやら、幼かった私は此処になんどか来ているらしい。
『それって何歳の時なの??』
『今と変わらないだろ?』
帽子くんは『何をいっているんだよ』と言わんばかりに眉間にシワを寄せて言う。
『は??だって今小さい私って…』
『そうさ、でも時計は止まったまんまだ、アリスの歳も変わらないだろ??』
『……じゃあ、今私は何歳なの?!』
『自分の歳も忘れたのかよー!今日も明日も5歳の誕生日だろ??』
相変わらず憎たらしい三月ウサギは、笑いながら言う。
『目を無くす前だ…』
じわりと目の奥が熱くなり遠い昔の記憶がふっと頭によぎる。
大きな広場、ここは昔、母と何度か来たことがある。
すごく楽しくて、私はペットと…『ペット?!』
『どうしたんだよ、アリス…大きな声を出して』
『私、此処に母と来たことがあるの!!』
『母と??』
不思議そうに帽子くんは言った。
『そうよ?私は母とペットと…でも私にはペットを飼っているという記憶はないわ…!』
『ん?アリスは此処に、母とは来てないぞ?』
『そうだよー、そして誕生日の日は必ず来るからと言って来なくなった!』
『そして、時間君もいなく…むにゃむにゃ』
『母とはきてない??…誕生日…時間君…そしてペット』
私は頭の中を何度も探る。
私は何の動物を飼っていたのだろうか。
『わからないわ…。もう頭の中グチャグチャ…』
『大丈夫かい?アリス』
ポンと私の頭に、手を乗せるチェシャ猫。
『ありがとうチェシャ猫…。』
『私、時間君に会えないかしら??時間君に会ったら少しは思い出すかもしれない。時間君は王女様のところと、言ったわよね!』
『うん、そうさー、でも女王様に会うのは辞めておいたほうがいいね!』
帽子くんが言うと三月ウサギも、うんうんと頷いた。
『どうして?!』
『気が荒だっているからさ…むにゃむにゃ』
『眠りネズミの言うとおりだよ、今行くと首を、はねられちゃうかも!』
『でも、いってみなくちゃ、そうしたら時間君も連れ返してあげるわ!』
『本当に?!』
『えぇ!』
『また皆でお茶会出来るね!』
『本当に行くのかいアリス』
『チェシャ猫…私は決めたのよ。チェシャ猫も行くのよ』
『君が望むなら…』
『チェシャ猫は、忠実に私の言うことなら何でも聞くのね、私のペットだったりして?』
『僕はペットではないよ?』
『そうよね…私の記憶では、猫とか犬ではないもの…』
『アリス、女王様に会うならこっちの道を通るといいぜ!』
三月ウサギはぴょんぴょん跳ね、白い薔薇のアーチを指差した。
『おっと、俺はこの先へは行かないからな??此処までだ!』
三月ウサギは、逃げるように少し離れた。
『ありがとう、三月ウサギ貴方の頭のそれ、やっぱり訂正するわ、カッコいい王冠ね』
にっこりと笑うと、三月ウサギもにっこりとし、『そうだろ!』と言った。
『行くわよ、チェシャ猫。』
『気をつけて、白い薔薇は起きると、血を吸って赤くなる。』
『え?!血を?!』
チェシャ猫はコクリと頷き尻尾をゆらりと揺らした。
『起きないうちに行かなきゃ…。』
私はお茶会を後にし、前へ進む。