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俺は夢を見ていた。とても懐かしく、とても温かい淡色の夢。

その夢の中で、幼い俺は五つばかり年上の少女と、いつも自宅でお絵描きをしていた。


彼女の顔は靄がかかったように霞み、伺う事ができない。


しかし覚えている。彼女がとても可愛らしい少女だった事を。

覚えている。とても優しく、とても勇気があった事を。

覚えている。俺の我儘に、笑顔で付き合ってくれたことを。

ーー忘れてしまった。彼女の顔も、声も、香りも。この思い出以外の記憶の全てを。


昔からある記憶の断片。彼女の存在を疑ったこともあった。


親に聞いても要領を得なかった。俺の疑心は益々膨れ上がった。

ある日、偶然自宅の押入れで彼女の描いた絵を発見し、疑惑は確信へと変わった。

彼女は確かに存在したんだ。

どこに行ってしまったのだろう。また会いたい。


この夢を見る度に、思いが募った。


「そろそろ行かなくちゃ」


少女が別れを告げる。無声映画の如く声は聞こえない。

しかし、理解できる。それは不思議な感覚だった。


俺が大粒の涙を流し泣きじゃくると、少女は困惑顔を浮かべ、幼子を宥めた。

「またすぐに逢えるよ」


その声はとても優しかった。


「ぜったいに…すぐあえるの?」


嗚咽混じりに話す俺を撫で、少女はいつもこう答えるのだ。


「勿論!」

そう言い切る彼女を信じ、手を降りながら見送る。


この夢は必ずここで途切れていた。儚い泡沫のような夢。


急速に思い出が遠のいていく。

夢世界は暗礁に乗り上げ、海に沈むように段々と暗さを増していく。


今回もまた、この時点で目覚めるのだーー



ーー瞼を開く。

頬を涙が濡らしていた。

体に重りでもつけているような上半身を、気怠く起こす。


「どこだ……ここ……」


俺は、ベッドの上にいた。

閉じられたカーテンの隙間から、光が漏れている

その光を頼りに、室内を見渡す。

住人は鼠しかいなさそうな、年季の入った一室だった。

家具は俺の座るベッドしかない。

そのベッドが部屋の大半を占めている、手狭な部屋だった。


なぜここにいるんだ?


少し記憶を辿る。

俺はここにくる前、何をしていたか……

痛む頭を抱え、必死に思い出す。


そうだ!美少女の胸を揉んで殴られたんだ!


後頭部のじんじんとした痛みが、その証拠だった。

そこまではいい。

気絶した俺は、その後どうしたんだろうか。

完全に記憶がなかった。


本当に、夢遊病にでもなってしまったのかもしれない。


というか、誰の部屋なんだよ。

俺の物ではない、廃棄物寸前のリュックサックが床に置いてあった。


ガチャリ


ベッドと平行な位置にある扉が開いた。

廃材でも利用して作ったような木製の扉だ。

それが酷使に耐えかね、キーキーと悲鳴をあげながら開いていく。

そして、ある人物が姿を現した。


……ヤバイ。


そこには、俺を殴った美少女が立っていた。


宇宙の膨張よりも早く、思考が回る。


ここは恐らく彼女の部屋。

彼女の不在中に、その部屋のベッドで寝ていた痴漢魔の俺。

そんな二人が、狭い一室で鉢合わせ。

その美少女の拳は破壊力抜群。


死を予感したーー





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