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明日の果て  作者: 河野 る宇
◆第1章~空と炎の瞳
7/22

*同居

「荷物はそっちの部屋に、置いたらこちらに」

 促されるまま、剛はデイトリアという女性のあとに続く。

 結局、剛は会社を辞めるハメになった。記憶を消されたり殺されたりするよりは、いくらかだがマシだと考えて我慢する他は無い。

 あのあと数日のあいだ、この2人は剛の前に現れなかった。

 そして、再び現れたデイトリアの瞳が青くて剛は驚いたが、青かろうが赤かろうが、やはり見つめられると怖くなる。

 人間の奥底の弱い部分に触れられるような、そんな感覚だ。

 どうして青いのかと尋ねたら、人として生活しているからだとか。

「なあ、なんだってこんなことになったんだ?」

 何かを言いかけた彼女に尋ねると、デイトリアは小さく溜息を吐き出し振り返った。

「ジェティスが言ったように偶然としか答えられん。人間と波長が合うというのは極めて稀だ。お前の精神がジェティスの何かと符号したのか、奴とお前との間に何かの干渉があったのか。今のところそれを解決する術は無い」

「あいつがこの世界から出て行けば解決するんじゃないの?」

「それはそうだが、強引に引きはがす訳だから何か別の障害が起こりかねん」

「でも、今まで無かったってことは無いんだろ? どうしてたんだ」

 問いかけると、心なしかデイトリアの瞳が曇ったように見えた。

「お前のように耐える者も好くながらずいたが、最後には記憶を消してくれと願う」

「 ! 」

「当然と言えば当然だろう。人には耐えられない事もある」

「でも、なんで記憶を消したらつながりが消えるんだ?」

「無かった事になるからだろう。波長が合った時につながりが出来てしまうのだから、その記憶を消せば波長が合わなくなる」

 説明し終え、再び案内を続ける。

「うわ、なんだこれ。本だらけじゃん」

案内された部屋に剛は声を上げた。

「翻訳をしていてね。お前にはその助手をしてもらう」

「翻訳家って儲かるのか?」

 聞いたのには訳がある──このマンション、かなりデカイのだ。5LDKで光回線も引かれている。

「さあ、どうだかね」

 とぼけて返したデイトリアにいぶかしげな表情を浮かべた刹那、剛は重大な事実に気がついた。

 考えたら女と同居になるのこれ!? 同棲になるんじゃないの?

「なにニヤけている」

「わぁっ!? ジェティス!? なんでお前がここにいるんだよ」

「お前1人をデイトリア様の元に置いておけると思ってるのか? 世間的にも問題だろうが。住み込みが2人という事にしておくんだよ、そうすればうるさいハエどもも黙らせる事が出来るしな」

「うるさいハエ?」

「お前、デイトリア様をどう思う?」

 ジェティスは、キッチンに向かったデイトリアを確認して剛にぼそりと問いかけた。

「ど、どうって?」

「かなりの美人だろ。だから寄ってくる奴が多いのさ、そのための壁にもなる。いつもは男なんだが、今回は女になったから余計に増えたし」

「あ! それ前にもそんなこと言ってたよな。どういう意味だよ」

「大した事ではない」

 キッチンから戻ってきたデイトリアが応えた。

「自由に性別を換えられるというだけだ」

 デイトリアには生物学的な性別は無いらしく、外見で判断される性別を自由に変換出来るそうだ。

「たまにはと思ったのが間違いだった」

 とてもうんざりしたようにうなだれる。

 以前にも女になってエラい目に会ったとか言っていた。

 言い寄ってくる男が後を絶たず、街に出ればナンパされまくりで困り果てた結果、女になるのはやめた。

 そうして今回、久しぶり(どれくらいの久しぶりなのかは不明)に女になったら案の定、動きが取れない。

 剛は、「それで言葉遣いが男口調なのか」と納得した。

「ジェティスにも性別は無いがな」

「だからって女型になる気はありませんよ」

「あんたも!?」

 剛の驚きように、ジェティスは眉間にしわを寄せた。

「性別が無いのが不思議か? 俺は人間じゃないんだぞ。そりゃまぁ、天界の天使は両性具有だから変と言えば変かもしれんが」

「あ、やっぱりそうなんだ」

 そうこうしている内に、キッチンの方からいい匂いがしてきた。匂いに誘われて行ってみると──

「なに作ってんの?」

「ミネストローネ」

 デイトリアが鍋の中身をかき混ぜながら答えた。

「誰が作ったの?」

「私の他に誰がいる」

「作れんの?」

「お前、とことん失礼だな。デイトリア様の料理はプロ並みだぞ」

 確かに匂いはすごくいいけど……。剛は料理をしているデイトリアを見やり、

「もしかして、俺が記憶を消してくれって頼むのを待つつもり?」

 皿に料理を盛りつけながらデイトリアは微笑んだ。

「よくわかったな」という顔つきだ。

 そして、何事も無かったように続ける。

「私の事はデイと呼んでくれていい」


 こうして、奇妙な同居生活が始まった──

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