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明日の果て  作者: 河野 る宇
◆序章~闇の瞳
5/22

*ふられた

 頼りなく見えるつよしだが、しっかりと彼女がいる。ホラーやオカルトが苦手な剛とは間逆で大好物だ。

 遊園地に行けば必ずお化け屋敷に連れられるし、ホラー映画にも無理矢理に連れていかれる。そのおかげで剛はいつも、彼女に怖い話を聞かされ、からかわれていた。

 そんな彼女が剛の部屋で、レンタルショップから借りてきたオカルト映画を観ている。

 つき合って2年──勝手知ったる他人の家──剛の部屋のソファに腰掛けて映画に見入っていた。

 マンネリ化とまでは思わないが、ちょっと納得のいかない部分もあったりするのだがなんとなくこんな関係も嫌いじゃない。

「観ないの?」

 薄くブリーチしたショートヘアをいじり、ニヤニヤしながら剛に尋ねる。

 解ってるくせに! と睨みを利かせた。

「観ない。観たくない」

 言いながら、ふと画面に視線を落とす。

「観てるじゃん。観られるようになったの?」

 恐がりもせず観ている剛に彼女は、怪訝な表情を浮かべた。

「え、いや……」

 変だな、怖くない。なんでだ? 何をやっても克服できなかったのに、なんでいきなり平気になったんだろう。

「あっ!」

「何!? いきなり大声出さないでよ」

「あ、ああ。ごめん」

 そうだ、絶対アレのせいだ。

 剛はジェティスに出会ったことで、これらを克服した形になった事に気がついた。

 これで彼女にからかわれなくて済む。ああ、いやいやそんなことじゃなくて……平気になって良かった良かった。ってそれも違う。

 そうだよ、俺は現実に信じられない経験をしているんだ。たった今も! こういうのって、彼女に言っても大丈夫だと思う? と自問自答を繰り返していた。

「何やってんの?」

 1人でブツブツとつぶやいている剛に呆れて問いかける。

「え、あ、いや。何でもない」

「怪しいわね。最近変よ? ぼ~っとしてることが多くなった」

「そ、そうかな」

 誤魔化そうとして苦笑いを返したその瞬間、またあの感覚が剛の心臓をドクンと打った。

 あいつ、またどっかで何かしてるのか!? そう思った途端、剛は走り出していた。

「! ちょっ、ちょっと? どうしたのよ!?」


 剛は、ジェティスの気配を感じる方向にひたすら走った。

「はあっ、はあっ、はあ……」

 もうやめろよ。俺をおまえの世界に引き込むな。俺は関係ない、おまえなんか知らない!

 小さな空き地に、黒い影が見える──近づくと、それは剛の方を向いた。青い目が、剛を確認し眼差しを険しくした。

「俺の波動を感じたのか、愚かだな。何故そのままにしない。わざわざ俺に関わりに来るな」

 荒い息を整えて、剛ははジェティスを睨み付けた。

「無視なんか、出来る訳ないだろ。こんな感覚いい加減にしてくれよ、俺は……」

「だったら俺の正体なんか気にしなければいいだろ。お前が、俺を、諦めないからこうなる」

「解ってるけど、教えてもらえないっていうのは嫌なんだよ」

 ジェティスの目が、一瞬真っ黒になったような気がした。黒い真珠がはめ込まれたような、そんな輝きが──

「無視してこの世界から出て行く事も可能なんだが、それはそれで他の弊害が出そうだし」

「絶対、勝手にどっか行くなよな!」

 我ながらガキの我が儘かよと自分に思ったりするが、ここまで教えてもらえないと逆に知りたくて仕方がないのだから仕方がない。

「とにかく、出来るだけおまえに負担がかからないようにはするつもりだ」

 そう発して、ジェティスはゆっくりと遠のいていった。

 いつもならその場で消えるのに、なんで今日は──その答えはすぐに出た。

「今の誰?」

「! 恵美子? おまえいつから」

「なんでそんなに驚くの? 我を忘れて走り出すし」

 恵美子は怪訝な表情を浮かべて剛を見つめた。

「もしかして、女より男の方がよくなったとか?」

「はあっ!? 何言ってんだよ。そんな訳ないだろ」

 ちょっと変わった所はあるが、まさかそんなこと思いつくとは! いくらなんでも、そりゃないだろ。

「ホラーが平気になったのも、彼のおかげ?」

 剛の表情を窺うように、ゆっくりと問いかける。

「う……」

 的を射抜かれ、剛は後ずさった。

「あれは誰? 正直に答えて」

 答えられるハズがない、剛だって知らないのだ。「助けて神様」と祈りたい気分である。

「まあいいか、どうせ最近マンネリ化してたし。これを機にスッパリとね」

 長い沈黙のあと、彼女が切りだした。

「え……えと、おい?」

 彼女がさっぱりと言い放った言葉に呆然としていた剛が、部屋に帰ると彼女はいなくて、恵美子が今までここに置きっぱなしにしていた荷物までが姿を消していた。

 こんなことで剛は彼女をなくした。

「信じらんねぇ、人間でもない男のことでふられた」

 妙に冷える部屋で剛は立ちつくしていた。

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