*やっぱり?
「またおまえか」
「それはこっちのセリフだっつの」
どうやら剛は、またジェティスのいる世界と剛のいる世界の中間の空間に来てしまったらしい。
「俺の波長に引かれて来ちまうんだから俺がいれば消滅する事もないか」
「そんな簡単に片づけるなよ」
赤やら黄色やらと変わりゆく、まだら模様の空間に浮きつつ発した。
「どうにかせんといかんのは解ってるんだが。このままだとおまえ、死ぬまで眠る度に俺に引き寄せられる訳だから」
「マジかよ、勘弁してくれよ。何か方法はないのか?」
「あるにはある」
「なんだよ、その何か含んだ言い方。何かマズイことでもあるのか」
ジェティスはどうしたものかと思案しているが、決意したような顔で剛に向き直った。
「俺がおまえのいる世界から立ち去ればいい」
すんなりと答えたが、剛がそれで納得いくはずがない。
「なるほど、俺の質問に答えずにトンズラする気か」
「やっぱり覚えてたのか、嫌な奴だな」
口の中で舌打ちした。
「答えてからなら、どこへだって行っていいよ」
「言えないし、まだこの世界に来てちょっとだし。まいったな」
まいったのはこっちだ!
「そもそも、なんだって俺があんたの波長に合っちまったのかが疑問なんだけど」
「偶然だろうけどもね。しかし、ここまで波長が合うなんてことは滅多にというか初めてだ」
「偶然て……」
そんなの酷い。偶然でこんな事になるって、俺はどこまで運が悪いんだ。
「お? 何してる、人間なんか連れて」
透き通った声が聞こえて、その声の方向に目をやる。
「うわ」
剛は思わず小さく声を上げた──長く引きずるような豪華な金髪に、これまた黄金のような瞳を持つ男がそこにいたからだ。
「スロスか」
どうやらこの2人は親しい仲らしく、久しぶりに会う友人のような口ぶりだ。
ジェティスは真っ黒なのに、スロスと呼ばれた男は逆に金ぴかで対照的なイメージを持っている。
昼と夜。いや、太陽と月か。どっちにしても、どういう知りあいなんだろう。
「あんまり無茶するなよ、じゃな」
「!? 待て!」
明るく手を揚げたスロスにジェティスが何かを制止したようだが、それが何かすぐに理解した。
その背中に金色の翼が現れて、豪華さが増した。
「? 何だ?」
「……出してから言われてもな」
剛はその翼に見惚れていた。
2対の翼──下方向に伸びている翼は真っ直ぐだが──は大きく、黄金の光を放ち、まさに全身金ぴかだ。
「派手だなぁ」
率直な意見が剛の口から漏れ出る。
「あ、やっぱり? 私も自分でそう思うよ。しかし生まれたときからこうだから、どうしようもなくてねぇ」
想像とは違い、軽快でフレンドリーな会話をする人だった。
「私とジェティスは同時に生まれたんだけどねぇ、どうしてだか私は派手でさ~。なのにジェティスは真っ黒だろ。オセロみたいだよね、あはは」
口調まで対照的だ。
オセロという遊びを知っていることがこれまた不思議だが。
「じゃ、またな」
スロスはそう言うと、翼をバサリと一度、羽ばたかせて颯爽と飛んでいった。
ほんの少しの沈黙のあと、剛とジェティスの目が合う。
ジェティスは「バレたか?」という顔をしているが、案の定バレている。
「あんたにも羽根あるんだろ?」
「妙に勘が鋭くてむかつくな、おまえ」
「見せろよ」
「見る必要ねぇだろ、ただの真っ黒なんだから」
「一応、確認しないとな」
意地悪い顔をしてジェティスを見やる。
鋭く睨まれたが、こいつと数回会っていて気付いたことがある。口も態度も悪いが、それはもしかして必然的なものなんじゃないだろうか。
言い方は悪いが、「悪い奴を退治してる」感じだった。普通にしてるよりも、ああいう態度でいた方が正直、寄ってくると思う。
あのスロスって人も、(人間じゃないだろうけど)軽いしゃべり方でカチンとくる奴はいる。
でも、俺は悪人じゃない。何故だか2人の口調に苛立ちも腹立たしさも起きない。
きっと、そういう処も1つの目安として、善悪を計っているんじゃないだろうか。
剛はしつこくジェティスが翼を出すのを待った。
「やっぱ帰れ」
「あっ!? ひでぇっ! 見せろよコノヤロー!」
いつもの通りにジェティスが腕をサッと振ると、剛ははじき飛ばされるように現実に戻された。
「あのやろうっ!」
寝起きのひと声は小さなマンションに広く響いた。