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明日の果て  作者: 河野 る宇
◆第3章~感情
19/22

*記憶の底

 出来れば思い出したいけれど、思い出そうとする度にモヤがかかったように記憶がかすれる。

 バイトが休みの今日は、特にすることもなく街を歩いていた。

 ふと映画館が見えて滑り込んだ──タイトルからしてB級のホラー映画っぽかったが、構わずにチケットを購入してぼんやりと眺めた。

 記憶を無くしている間に何があったんだろう……と、スクリーンに映る血しぶきを見つめる。

 ホラーなんて何級だろうと無理だったのに、今は平気で見ている。

 好みについても変わっていた。

 栗毛の女性が好きだったのに、どういう訳か今は黒髪に惹かれている。それも、腰までの長い髪だ。

 今時は手を加えていない髪なんて少ない。

 探してもいないのに目は自然と黒髪を見つけて追ってしまう。



 そんな風に日々は過ぎ──気がつけば半年が経過していた。

 無くした記憶にも執着が消え、真里という恋人も出来て充実した毎日を過ごしている。

 時折、無くした記憶の苛立ちに襲われる事はあっても、それに囚われる事はなくなった。

 それを話せば、「恋人の存在が大きいんじゃない?」と言われるが、どちらかと言えば逆な感じはある。

 真里の黒髪に、何故だか無性な苛立ちを覚える時があるからだ。

 怒りや鬱陶しさとかじゃない、別の何か──それが心の奥を騒がせる。



 バイトから帰ると、アパートにはすでに真里が部屋でテレビを見ていた。

「あ、おかえり~」

 と言いつつ、こちらを振り返らない。

 また趣味のカラーコンタクトでもしているのかな?

 剛は、買ってきた物をキッチンテーブルに乗せて無理に近づいた。

 彼女はカラーコンタクトを集めるのが好きで、初めてであった時も青いコンタクトをしていた。

 嬉しそうな背中に笑みを浮かべて肩を叩く。

「じゃーん!」

披露するように大きく目を見開いたその瞳に、剛は強い衝撃を覚えた。

「赤……?」

「うん、すごいでしょ。こんなに綺麗な赤いカラコン見たの初めてで衝動買いしちゃった」

「そうか、そうだったのか」

「どしたの?」

 止まった歯車が動き出す──途切れた記憶を思い出して、なんか色々と腹が立ってきた。

「ごめん」

「え?」

「ごめん、俺……真里の向こうを見てたらしい」

 立ち上がり、切なげに笑みを浮かべた。

「向こう? 記憶が戻ったの!?」

「真里のことは好きだけど、これ以上はダメみたいだ。荷物、全部持って帰って」

 呆然と見上げる真里を置いて部屋を出て行く。



「なんで記憶を!?」

 息を切らせて都心に向かう──ようやく思い出した名前を心の中で連呼して、路地裏を探し回る。

 記憶を消されてつながりが断ち切れたのか、ジェティスの存在をまったく感じ取る事は出来なかった。

「記憶……消さなかったんだ」

 つぶやいて足を止めた。

 これは消したんしんじゃない、忘れさせたんだ。

 でも許せない、いきなりこんなことするなんて──!

 デイトリアからしてみれば俺は邪魔者なのは解ってる、それでもやっぱりマクバードといたかったんだ。

 マクバードと会った他の人はどうしたんだ?

 俺みたいに記憶を操作したのか?

「教えてくれよ、デイ──」

 煌びやかなLEDライトと、激しく耳を打つ音楽に囲まれて剛は孤独に立ちつくした。

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