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明日の果て  作者: 河野 る宇
◆第3章~感情
18/22

*急いての

 佐藤 剛は、デイトリアの助手としてすでに1年以上が経過していた。

 この状態にも馴染みが出来て、彼らから離れたいという気持ちは消え失せていた。代わりに、彼ら神族について、もっと知りたいと思った。

「なぁ、今度いつマクバードに会わせてくれるの?」

「先月会ったばかりだろう」

「そうだっけ?」

 深入りしていく剛に、デイトリアは眉を寄せた。

 人が神と深く関わることは、出来るなら避けたい──存在の差は、いつか大きな衝撃を招くだろう。

「剛」

「なに?」

 ふと呼ばれて振り返る。

「!?」

 予期しなかったまばゆい光りが視界を包み、剛はそのまま意識を失った──

「……」

 デイトリアは、意識のない剛を支え目を細める。

「それで良かったんですか?」

 静かに問いかけるジェティスを一瞥し、ソファに横たえた。

「不本意だが、こうするしかあるまい」

 このままでは、剛の人生に関わるだけではなく、彼の人生そのものを変えてしまいかねない。

「彼は私とは違う」

 耐えきれないほどのエネルギーの増大に苦しみ、その救いがマクバードだった私とは──

「どうして、人を憎まなかったんです?」

 あなたが苦しんだのは結局、人の意識のせいでしょうに。

「それを憎むことなど、私には出来んよ」

 私もまた、人だったのだから。

「未熟な存在だからと言ってしまえば簡単だが、だからこその可能性がある」

「それに賭けたってことですか? まあ俺も闇の勢力にいるわけですから、人は好きですけどもね」

 生憎、俺はあなたと違って初めから闇天使として生まれましたから、人という存在は謎めいていて解りにくい。

「これほどお前だちと似た感情を持っていてもか」

 皮肉混じりに発せられ、ジェティスは視線を泳がせる。

「どうするんです?」

「いちからやり直す」

「! 仕事は辞めるんですか」

「女はこりごりだ」

 肩をすくめたデイトリアに笑みをこぼした。



「いらっしゃいませー」

 自動ドアが開き、剛が応える。

「剛くん、あとどれくらい?」

「あ、1時間くらいで今日はあがりです」

 レジを確認しながら発した。

「そう」

 30代ほどの女性はさしたる感心もなく返し、商品を棚に並べていく。

 深夜のコンビニに客はまばらで、あくびをかみ殺すのにも必死だ。あと1時間で今日のバイトは終わりという喜びに、レジ打ちも弾む。



「お疲れです~」

「はーい、お疲れさま」

 眠い目をこすり発すると、まだ仕事の続く人たちが応える。

 そんな剛の背中を見送ったあと、女性2人が互いに距離を縮めて声を低くした。

「あの子、ここ1年の記憶がないって聞いたけど、ホント?」

 短く切った髪を整えながら問いかける。

「どうやら、本当らしいわよ。自分が何をして、どこにいたかも思い出せないんですってよ」

 肩までの髪を茶色く染めた女性はそれに答え、いかにも仕事をしている風に手元を装う。

「そんなことあるのねぇ」

「一時的な記憶喪失かもって医者が言ったとか」

「それって、強い衝撃を受けてってやつ?」

「さあ、記憶が無いんじゃ解らないわね」

「もしかして、どっかに監禁されてたとか」

「えー? それちょっと……」

 声が若干の嬉しさを表している。意外とこういうネタに食いつく女性も少なくはない。

「記憶が戻ったら聞きたいね」

「ね~」



 剛が目を覚ましたとき、記憶にある部屋にいた。

 しかし、何かが妙だとカレンダーを目にして、書かれていた日付に唖然とした。

 部屋もよくよく見ると、記憶と若干のズレがある。

 住んでいるであろう部屋は何故か馴染みが無く、記憶には確かにそこにある物がどうしてだか自分のものとは思えなかった。

 自分に何が起きたのか剛はしばらく考え込んだが、記憶以外にはこれといって難はなく、とりあえず病院に行って診察だけはしてもらったという次第だ。

 ただ1つ、決定的に違う事があった。携帯だ。

 スマートフォンに替えた記憶がないのに、持っていたのはそれだった。

 しかも、持った記憶の無いスマートフォンをスムーズに扱える自分にも驚いたものだ。

「どうなっているんだろう?」

 いくら考えたところで解る訳もなく、現在はコンビニエンスストアでのバイト暮らしをしているのである。

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