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明日の果て  作者: 河野 る宇
◆第2章~その神族
15/22

*交渉

「デイ!」

 小走りに駆け寄ってきたのは、青みがかった背中までの銀髪に不思議な色の胸鎧を身にまとった男だ。名前はパシフェアといい『闘いの王』という称号を持つ。

「マクバード様の神殿から異様な気配がする。それに、大気の様子もおかしい」

 優しい面持ちだが、その表情は硬く緑黄色の瞳に陰りが窺えた。

「うへ……」

 気が付くと、数人の男性が囲うように立っていて剛は思わず声を上げる。

 皆、一様にマクバードの神殿に視線を向け、険しい表情で眺めていた。よほど慕われているんだなと剛が呑気に考えていると突然、全員が何かに反応した。

「え? なに?」

「大気が変わった。まずいな、マクバードを怒らせたか」

 デイトリアは苦い顔をしてつぶやいた。

 そして、剛にも解る変化がマクバードの神殿に現れる──大きな爆発音が響き、一同は足早に神殿に向かう。

 白い壁が激しく砕け飛んでいて、マクバードの前には、見知らぬ影がへたり込むようにして彼を見上げていた。

「……うわ」

 剛が壁の穴をのぞき込むと、いくつもの部屋を通してここまで吹き飛ばしたらしく、分厚い仕切りが何枚も見えている。

「愚か者が、私が手を貸すとでも思うのか」

「し、しかし。我らの神族は皆、自分勝手で、誰かが統率しなければならないのです!」

「真に己の神族を想うならば何故、私と目を合わせようとしない」

「そ……れは」

 男は、灰色の髪を戸惑いながら整え、同じ色の瞳を泳がせる。

 だが、俺から見てもわかるようにこいつは何かを隠している。

「神族をまとめるための力を貸して欲しいと言ったな。しかし、私はお前を信じる術を知らぬ」

「ククク……」

 マクバードの言葉に、男は諦めたのか開き直ったのか喉の奥から笑みをこぼした。

「やはりひと筋縄ではいかんな」

「何を企んでいる」

 初めに会った少年──マクバードの近衛である夜の王リスク──は、眉を寄せて低く問いかけた。

「もちろん、あなたにその力を使っていただくためですよ。マクバード様」

 立ち上がり答えると、そいつはいつの間にか剛の後ろにいた。

「うっ!?」

 左腕と首を掴んでマクバードに見せつけると、彼の表情が怒りに変わる。

「こいつは人間だな。あなたが寂しくないようにと誰かが連れて来たのかな? ねぇ、籠の鳥の絶対神さん」

「え?」

 恐怖に震えながらも、剛はその言葉を聞き逃さなかった。

「こんな処に閉じこめられて、よくも平気なもんだ」

「私が望んだ事だ」

「嘘をつくな。じゃあ何故、時々ここを抜け出している。その度に連れ戻されているじゃないか」

「それでも、私の望んだ事なのだ」

 やや苦しげに発すると、男は鼻を鳴らして優位に立った事を誇示するように、マクバードに再び話を持ちかけた。

 剛は、いつでも殺せる意識を背中に感じ、冷や汗を流す。

「わたしは我が神族の頂点に立ちたい。それに協力してくれないかな」

「どうしてそこまで?」

 かすれた声で剛が尋ねた。

「気に入らない奴がいるってだけだ。そいつをわたしの足下に這いつくばらせてやる」

「そ、そんなことで」

 信じられない、こんな神様がいるのか?

 そりゃ、かじった程度の神話にはそういう人間くさい部分もあったけど、あんなのは人間の想像でしかないと思ってた。

「たかが人間1人のために、マクバード様が貴様に従うとでも思うのか」

 マクバードの隣で、剣をすぐに抜けるように構えている男が睨みを利かせた。先ほど、マクバードを呼びに来た、緑がかった金髪の男だ。

「スーアサイド、過ぎるぞ」

 もう1人のマクバードの近衛──雷鳴の王スーアサイド──に、マクバードは静かだが語気を強めた。

「申し訳ございません」

 スーアサイドは、素直に頭を軽く下げて1歩、後ずさる。

「私に何をさせたい」

「理解のある奴は好きだね。なに、簡単さ。わたしが神族の長だとあなた自らが彼らの前でおっしゃってくれればそれで済む。反抗する者がいれば、その力をお示しくださればいい。神といえど、あなたの力をもってすれば一瞬で無に帰す」

 瞼を閉じて聞いていたマクバードだったが、静かに目を開くと、その男を睨み付け上着を脱ぎ捨てた。

 男は驚き、「これが見えないのか」と剛の首を掴んでいる手をマクバードに見せつけた。

 そのことでマクバードをさらに怒らせたようだ。彼の周囲に風が渦巻き、流れる黒髪がしなやかになびく。

「つくづく愚かだ。動かずとも貴様を倒す事など容易いというのに、それほど私と闘いたいとみえる」

 噛みつぶすように淡々と発した刹那──マクバードはすでに男の目の前に立っていた。

「!?」

 男が声を出す暇もなく、何かが剛の顔をかすめた。

「うっ!?」

 男はそれを避けるように後ずさる。

 どうやら、マクバードは自身の爪で攻撃をしたらしい。よくも避けたと感心するように目を細めた。

「チッ」

 男は舌打ちをし、口の中で何かをつぶやくと数人の男たちが現れた。

 そうして現れた男たちは、状況を見て顔をしかめる。

「なんだ、やっぱりダメだったのか。あれだけ息巻いておいてよ」

「うるさいな、子供っぽいって聞いてたのに、とんだ猫かぶりだぜ」

 剛をぐいと引き寄せ、今度は別の男の切っ先が剛の首に突きつけられた。

 なんだか、さっきよりもマクバードが怒っているように見えるんですけど、人質は逆効果ですよとこいつらに訴えたい……と、剛は念を送るように男を見つめた。

「どうした、他の神に助けを求めろよ」

 人間を人質に取っている事で強気に出ているが、彼らがマクバードたちを軽く見ている事は明らかだ。

「馬鹿者どもが」

 背後からの声に振り返ると、青い目の腰まである長い黒髪をたなびかせた男が立っていた。

 ピンと尖った耳に目尻のつり上がったそいつは、ギロリと睨み付けるとマクバードに丁寧に会釈した。外見は20代後半ともとれる。

「あなたが手を下すほどの者たちではありません」

「なんだと? 何様のつもりだ」

「交渉を持ちかけて来るのなら、もう少し勉強してからにするんだな。せめて俺の顔くらい知っておけよ」

 呆れて発した男をじっと見やる。

「! まさか、貴様が闇の王アレキサンダー? 謁見の時にはいなかったじゃないか」

「マクバード様がそうしろとおっしゃったんだ。貴様の企みなど初めから見抜いている」

 男たちは「まずい……」という表情を浮かべ、互いに見合った。

「どうする。奴はひと振りで千人の魔物を倒すと聞いたことがあるぞ」

「大丈夫さ、こっちには人間がいる。こいつごと切り裂くなんてしない。マクバードが許さない」

「おい、相談するのはかまわんが早くしろ。マクバード様が合図したらやるぞ」

 スラリと剣を抜いた、幅広の刃が鈍い輝きを放つ。

 青龍刀に似た刃に、剛は彼の外見からくるイメージと違って少し驚いた。

「行け」

 マクバードが発すると、アレキサンダーはゆらりと剣を右手に持ち男たちに脚を進めた。

「うっ!? 来るぞ!」

 あくまでも剛を盾にする気らしい、剛の腕を離さない。

 どうやら、この空間から出られないようにされているらしく、走って逃げるつものようだ。

 それでも剛を連れて逃げようとするのだから、感心するほかは無い。

「無駄だ」

 ささやくように発したアレキサンダーの太刀筋は、一瞬で男たちを叩き伏せた。

「なんて、速さだ」

 腹部を押さえてつぶやく。

「俺だからこれで済んだと言っておく」

 冷たい瞳が言い放つ。

 男たちには、それだけで充分だった──

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