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明日の果て  作者: 河野 る宇
◆第2章~その神族
14/22

*時間

「千年前って写真とかあった?」

 そんな剛の言葉に、マクバードはキョトンとしている。

「ハッ!? ご、ごめん。時間なんて関係ないよね」

 恥ずかしいことを言ってしまった。

 そうだ、神様なら時間とか自由に出来るんじゃないか。

「それは普通の神族だけだ。私たちは時間を自由には操作出来ない」

「えっなんで?」

 返ってきた意外な言葉に、剛は心なしか声がうわずった。

「どう言えば理解してもらえるのか。唯一無二とでも言うか。あらゆる世界において、その存在はただ1つなのだよ」

「へ……普通そうなんじゃ?」

「あ~、つまりだな。他の神族の場合はだね、今そこに自分がいたとしても、別の世界にも存在しているのだ。わかるかね?」

「いまいち……」

「他の神族もお前と同じという事だ。人間は平行世界やパラレルワールドとか呼ぶのか? 少しずつズレた世界が重なって存在している事は聞いた事があるだろう?」

「ああ、それなら知ってる!」

「それは他の神族も同じなのだ。剛が存在している世界に剛は1人だが、他の世界には別の剛が存在している。しかし、我々は今ここに在るのが全てなのだ」

 一旦、言葉を切って剛の表情を確認する。

 微妙な顔をしているが、マクバードはそのまま続ける事にした。

「完全なる唯一無二の存在がアペイロン神族だ。そのために、時間の操作は不可能で同じ時間に存在する事は適わない。時間を操作するという事は、過去に戻る事が可能だという事だ。それは同時に同じ時間に存在する事になる」

「ちょっと待って、分かんなくなった」

 剛は唸りながら頭を抱えた。

 その様子にマクバードも諦めたらしく、苦笑いを浮かべる。

「私がこの場にいれば、他には存在していないという事だよ」

「じゃあやっぱり」

「しかし、人間と同じ時間を生きているのとは異なる。そうだな、空を見てこらん。あれは全て別の空間の入り口だ」

 剛はマクバードが指差した方向に視線を移す。

 しかし、そこにあるのは色を変えていく不思議な空と雲のみで、入り口らしいものなど見あたらなかった。

 目をこらしたって見えるものでもないらしい。

「どこに?」

「雲のように見えているあれが全てそうだ。あまりに多いため集まって雲のように見えている」

「ええっ!? じゃあこの空全体の雲が全部世界の入り口? すげえ」

「それぞれがそれぞれの時間を生きている。お前が今生きている時間を基準に、過去・現在・未来があの中にある」

「未来……俺の未来は?」

「時間は刻々と変化していくものだ、先を知ろうとしてはならない。お前は我々に関わり、すでに未来は確固たるものではなくなっている。誰にも予測は出来ない」

「え、それってどういう意味なの?」

「我々には運命というものが無い。だから関わったお前にも運命という選択肢が消えた事になる」

 ティセットが乗せられたトレイを持ちデイトリアが答えながら戻ってきた。

「運命が無いって?」

「我々には運命の糸が存在しないのだ。存在するのは今この瞬間のみ、未来は常に今になる」

「は、はあ……」

 もう何が何だかさっぱり解らない。

 剛は頭が混乱しそうでとにかく落ち着こうと、運ばれてきた紅茶に手を伸ばした。それを見たマクバードも、ティカップを手に取る。

「久しぶりにデイの紅茶を飲んだが、やはり美味い」

 小さく溜息を吐き、剛を見やる。

「疲れたろう、無理に理解する必要はない」

「確かに疲れたよ」

 ぐったりと肩を落とす姿にマクバードはクスッと笑みをこぼした。

 緊張してた剛は、自分がバカみたいに思えた。

 でも、これはきっと彼らだけなんだろう。神様2人といて、こんなに安心するなんてどう考えたっておかしい。

 そのとき──マクバードが何かに反応した。

 立ち上がり、空を仰ぐその目は険しい。

「どうした」

「剛を連れて神殿に戻れ」

「マクバード様、また奴が謁見の申し出に来ました」

 剛が怪訝な表情を浮かべると、また見慣れない人物が現れた。

 尖った耳と緑がかった金髪に、すらりとした体型の男だ。腰には2本の剣が提げられている。

「以前から頻繁にコンタクトを求める神がいてな。どうも質の良い者ではなさそうなのだ。どうやら業を煮やしたらしい」

 剛は、そう発したマクバードの目を見て一瞬、ゾクリとした。

 その姿はまさに威厳に満ち、何者をも許さない存在感を放っていた。

 神殿のなかに消えていくマクバードの背中を見送り、デイトリアは自分の神殿に剛を案内した。

 少し歩くと、マクバードの神殿よりも少し小さめの神殿が目の前にそびえる。

「ここがデイの神殿?」

「そうだ」

 100mほど向こうにあるマクバードの神殿を、剛はじっと見つめた。

 デイトリアの神殿は、彼の隣に位置しているのか。

「デイは行かなくていいの? 相手はヤバイんだろ?」

「私はお前を護らねばならん。側近と近衛がいる心配は無い」

 そう言いつつも、デイトリアの表情は暗い。

 その視線は、自然とマクバードの神殿に向けられている。

「質の良くないってどういう意味?」

「闇の神族は善神にあたる。しかし、中にはよからぬ事を計画し、それを持ちかけてくる者がいる。力の特性でいえば闇の力は破壊の力だ。マクバードに取り入り、闇の神族全体の力を得ようとしているのだろう」

「へえ……」

 ギリシャ神話とか、かじる程度の知識しかないけど、そういえば色んな事をやっていた。

 神話の中だけかと思っていたのに本当にあるんだな……剛は実感が湧かないまま、マクバードの神殿を見つめた。

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