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明日の果て  作者: 河野 る宇
◆第2章~その神族
13/22

*マクバード

 軽快に走ってくる足音の方向に目を向けた瞬間──剛は目の前に霧がかかったようになった。

「え……?」

 意味も解らず視界は真っ暗になる。

「ああっ!? ごめん!」

 そんな声が微かに耳に届いたけれど、声の主の姿を捉えることは適わず意識を失った。


 目を開けると、色とりどりの空が剛を迎えた。

 冷たい感触が背中に伝わり、寝ころんでいるのだと気がつく。どうやら倒れたらしい。

「すまない」

 上半身を起き上げ溜息を吐くと、右側から声がした。

「……誰?」

 眉を寄せ、隣で腰掛けている見慣れない人物を見やった。

「デイが来たのがつい嬉しくて、エネルギーを抑えるのを忘れていた」

 そう発し、にこりと微笑む。

 腰より長い黒髪に、デイトリアと同じ赤い瞳の男──誰かは解らないけれど、人懐こい笑顔に剛も思わず笑顔を返した。

「マクバードの存在は強すぎてね。抑えておかねば人は意識を失う」

 だから事前に言ったはずなんだか……と、左側に座っていたデイトリアが不満げに口を開く。

「うっかりしただけではないか」

 見知らぬ男が当惑気味に応えた。顔立ちは日本人とは異なるが、年の頃は20代後半といった見た目だ。

「じゃあ、あんたが?」

「紹介が遅くなった。マクバードだ」

「え、あ。佐藤 剛です」

 無邪気な笑顔と共に右手が差し出され、また思わず手が出る。意外な程の気さくさに、剛は戸惑うばかりだ。

 艶やかな黒髪には、整った顔立ちを引き立たせるようにシャギィがかかっていた。

「写真はあるか」

「写真? 見たい。見せてくれ」

 デイトリアが剛を促すように発すると、マクバードはまるで子猫のように素早く反応した。

「あ、ああ。うん」

 なんなんだろう、この子供っぽさは。これでも絶対神なのか? 剛の中にあった神様像が、随分と微妙な音を立てて崩れ去っていく。

そんな剛の気持ちを知ってか知らずか、マクバードは剛のアルバムを興味津々で眺めていた。

 他人のアルバムのどこがそんなに楽しいんだろう。恋人の昔の写真だってそんなに楽しいものじゃないのに。

「久しぶりにおまえの淹れた紅茶が飲みたいのだが、いいかね?」

「ん、解った」

「あ」

 立ち上がって神殿の中に消えていくデイトリアを、剛は名残惜しそうに見つめた。

 見知らぬ人(神)と2人きり……気まずい。

「ここに写っているのは母上かね?」

「あ、うん。そうだよ」

「今はどこにおられるのだね? 一緒には住んでいないのか?」

「もうずっと家には帰ってないよ、どうせ帰っても結婚がどうだとか口うるさいしさ。今は事情があってデイのとこにいるけど」

「ほう」

「デイが何してるのかとか、知らないの?」

「本人達に任せているのでね。監視は面倒だし、あまり好きでもない」

「へ、へえ~」

 なんて奔放な……神様なんてこんなもんなのかな。

 妙な納得の仕方をした剛だったが、マクバードの輝く目がやはり疑問だった。

「そんなに楽しい? 写真なんか眺めて」

「ん、楽しいよ。お前に会えた事もだが、ここから出られないだけに」

「出られないって、なんで?」

「仕方のない事だ。私の力は少しの油断で他の世界に影響を及ぼしてしまう可能性があるのだから」

 赤い瞳が一瞬、曇ったように思えた。

「じゃあ、ずっとここに? どれくらいいるの」

「さあ、いつだったかな。千年ほど前に抜け出して人間界に行った記憶が」

「千年前……桁が違う」

「デイの処にいるなら彼の料理を食べているのだろう。美味しいだろう」

 マクバードは話を逸らすように、別の話題を持ち出した。

「あ、うん。プロ並だよ」

 マクバードはそれに無邪気な笑顔を見せる。

 まるで、自分の事のように喜んでいるマクバードに剛は怪訝な表情を浮かべた。

 まさか神様から、こんな笑顔を見せられるなんて思いもしなかった。柔らかな笑顔というものは、心に安らぎを与えてくれるものなんだなと実感する。

 この2人はどこかしら似ていると剛は思った。

 目の色とかそういうんじゃなくて、どこなのかは解らないけど似てるんだ。

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