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明日の果て  作者: 河野 る宇
◆第2章~その神族
12/22

*闇の世界

 よほど会いたいのか、剛の仕事は速かった。

 いつもこれくらい働いてくれればいいのに……とデイトリアが思う程に。

「何を着て行けばいいかな?」

「そのままで構わん。それよりアルバムはあるか」

「アルバム? あるけど見せるの? 恥ずかしいなぁ」

「おまえが写ってなくてもいい」


 ひと通り準備を済ませると、デイトリアは赤い瞳に戻していつもと違う雰囲気をタダ弱る。

見惚れる程の存在感は、剛の感情を高揚させた。

「なんで男なんだよ。俺の気持ち台無しじゃん」

 折角の高揚感を邪魔されて肩を落とす。

「知ったことか」

「ずっと女のままなら慣れるってば」

「慣れると思うか」

 不満げな剛に目を据わらせ、腕を掴む。

「わっ!?」

 掴まれた瞬間──フワリと体が浮いたかと思うと、視界の景色が一変していた。

「この風景は」

 そうだ、2度くらい見たことがある。

 ジェティスに引き寄せられたときに見た光景だが、しばらくそのフワフワした感覚が続いて、剛は軽い車酔い気分に具合が悪くなってきた。

「早く、早く着いてくれ」

 剛は必死で神頼み(真横に神がいるにも関わらず)した。

 もう限界かもしれないと思ったとき──ふいに重さが体に伝わってきた。ほんの数秒だったのだが、気分の悪さが数十分にも感じさせていたらしい。

 そうして、目の前に広がっている風景に剛は眉を寄せる。

「地獄みたい」

 彼の目には、荒野が果てしなく続き点々と建つギリシャやローマを思わせる建物が拡がっていた。

 それとは逆に空は色とりどりに美しく、どこか殺伐として、それでいて温もりを感じる。そんな場所だ。

「失礼な。ここは『闇の世界』と呼ばれる、私が属する神族が棲む世界だ」

「へえ……」

 辺りを見回すが、続くのは荒野と美しい空だけでその中にぽっかりと神殿がまばらに建っている。

 息は出来るようだが、この世界に空気があるためかデイトリアのおかげなのかは解らない。

 地面は本当にただの荒野で、舗装された道路がある訳でもない。いくらなんでも、建てる方向くらいは揃えてもいいような気がした。

 建てられている間隔も大きさも方向も造りも、みんなそれぞれにみごとにバラバラである。

「なんか随分適当に建ってるね」

「やはりそう見えるか。実際、適当に建てたらしいからな」

「は?」

「こういう処は闇の神は楽天家でね。秩序が無いという訳ではないのだが、適当さが目立つ」

「そういうのって有りなの? 絶対神て人はそれで怒らないのか」

「彼はそういう処は奔放で自由にさせている。自分も自由にしているからだろう」

「それで成り立つの?」

「当然だが、適当なだけでは成り立たんよ」

 そんな会話をしながら促されるように歩いていると一際(ひときわ)、大きく存在感のある建物にたどり着いた。

 大理石を思わせる石で造られていて巨大な柱がドンと幾つも据えられ、入り口の上部には剣と盾をモチーフにした紋章が飾られていた。

「どしたの?」

 入るのかと思いきや、入り口の前でデイトリアが何か考え事をしているように宙を見つめている。

「マクバードの返事が無くてね」

 テレパシーみたいなもので連絡してたのか……と剛は納得し、2人は建物に入る。

 まさに「神殿」呼ぶに相応しい荘厳な造りに、剛はぼかんと口を開けてデイトリアの後ろを歩いていた。

 広い廊下を進んでいくと、向こうから誰か歩いてきた。

 いよいよか!? と思っていたら、その影は気さくに駆け寄って来る。

「どうしたの? 人間界に行ってるんじゃ。ああ、遊びに来たの。その人間、マクバード様に会わせるの?」

「マクバードは」

 たたみ掛けるように話しかけてきた相手にデイトリアは短く応える。

 この人は違うのかと剛は、ややホッとした。

 所謂いわゆる、正装のような格好をしている少年をじっと見つめる。身長は剛よりも高いが、あどけない表情に少々の違和感を覚えた。

 腰には剣が(たずさ)えられていて、少年が動くと胸の鎧が不思議な色と音を立てていた。

 きっとこの鎧は、俺の知っている金属で造られていないんだろう。と、剛は視界全体で2人を捉えていた。

 少年はしばらくデイと笑いながら会話をしていたが、マクバードのいる場所を教えるとまたどこかに歩いて行った。

「どこにいるって?」

「他の神族との謁見(えっけん)のようだ。終われば出てくるだろう」

「へえ、他の神様とか来たりするんだ」

「神族といえど、我々の事を知らない者も少なくはない。マクバードとの謁見は箔が付く。それを見越してのオファーも多い。良い意味で来る者は少ないな」

「なんだか、大企業の社長さんみたい」

「俗物的な表現だが、例えとしては間違ってはいない」

 デイトリアの瞳からは、少しの怒りと苛立ちと(うれ)いが見て取れた。

 そんな風に自分の主人であるマクバードが利用される事は本当は嫌なんだろう。しかし、それも大切な業務なのだと納得させているように感じた。

「!」

 デイトリアの背中を追っていると、広い場所に出る。屋根も柱も無く、石畳がかなりの広範囲で敷かれていた。

 剛が荒野を眺めていると、建物の中からこちらに走ってくる足音が聞こえた。

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