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明日の果て  作者: 河野 る宇
◆第2章~その神族
11/22

*仕方ない

「で、どうするんです?」

「会わせるのは簡単だが、簡単に会わせる訳にもいかんだろう」

 遙か上空から、曲線を描く彼方を見つめジェティスの問いかけにデイトリアは答えた。

「簡単にって言いますけど、友達みたいに会えるのはあなたくらいのものですよ。俺なんて緊張して、とてもじゃないが会う気力がありません」

 会おうと思えば、ほぼ神族の中では最下層に位置するジェティスでさえも気軽に会える人物だが、ジェティス自身が気軽に会えない。

 とはいうが、デイトリアは闇の絶対神マクバードの次のくらいに位置している次高神じこうしんである。

 いくらジェティスは直属の部下であるといっても、その口調は若干、軽すぎるようにも思える。

 とにかく、マクバードは誰にでも気さくだ。

 彼ら神族は【apeironアペイロン】神族と呼ばれ、全ての神族の上位にあたる。

 それ故に力のコントロールが困難であり、制限も多い。

 例えば、デイトリアは闇の勢力に属している──4つの勢力の中では最大の力を誇るが、そのぶん回復能力に欠けている。

 自身の持つ治癒能力に頼らざるを得ない。

 生物に対しては、その血を飲ませる事により傷の回復がはかられるのである。

 アペイロンが支配する範囲の中には、人界は含まれていない。そのためか、彼ら神族を知る人間もほとんど存在しない。

「どうしたものかな」

 デイトリアはつぶやいて目を細めた。


 そんなこんなで、一週間が過ぎようとしていた──

 佐藤(さとう) (つよし)は、なんとかデイトリアの仕事の助手がこなせるようになってきた。

 彼女の教え方が上手いせいか、英語も多少は理解出来るようになった。

 しかし、彼はジリジリと毎日を過ごしていた。

「いつになったら、絶対神て人に会わせてくれるんだろう」

 その苛立ちの視線に気付いているデイトリアだが、会わせていいものかどうかをまだ悩んでいた。


 朝食の席で、

「なぁ」

「なんだ」

「いつ会わせてくれるんだよ」

 待ちきれなくなった剛が先に切りだした。

「む、忘れとらんのか」

「当たり前だろ」

 デイトリアは小さく口の中で舌打ちすると、朝食に箸を伸ばす。

 箸の使い方が実に上手いなんて褒めている場合ではなく、剛はデイトリアをじっと見つめた。

「デイ、いい加減に──」

「いい加減にするのはお前だろうが」

 ジェティスが割って入る。

 全身黒で固めたファッションは見惚れるほどだが、今はそんな事どうでもいい。

「誰に向かって話している。デイトリア様は次高神だぞ、マクバード様の次に位を置く神に向かって失礼にも程がある」

 剛に歩み寄り、今にも攻撃せんばかりに右手を見せつける。

「今更すごんだってダメだね。むやみに傷つけないことくらいもう解ってる」

「チッ、そういうとこだけは頭いいな」

「いいだろう。ただし、今日の仕事が終わればだ」

 ため息混じりに発した。

「いいんですか?」

「仕方あるまい」

「やった。それじゃ、早く仕事終わらせよう」

 剛は朝食をかきこみ、急ぐように書斎に向かった。

「まったく。まあ、会わせるだけならいいか」

「そういう訳にもいかんだろうがね」

 食器を片づけながらデイトリアが応える。

「何かあるんですか?」

「マクバードは人なつこい」

「え? ええ、まあ確かに。俺に対しても全然エラそうにはしませんね、やたら色々と質問されますけど」

「そこだそこ。それがまずい」

 ビシッとジェティスを指差した。

「何がまずいんです?」

「マクバードを知れば人は変わる」

 今までマクバードに人間を1人も会わせなかった訳じゃない。

 その結果を見てきたデイトリアにとって、剛を会わせる事には多少の不安がある。それは、ひいてはマクバード自身にも哀しみを背負わせる結果にもなっているからだ。

 それは、人間のエゴなのかもしれない。しかし、マクバードと話をして惹かれない者などいなかった。

 お互いの哀しみを呼ぶだけに過ぎないというのに……デイトリアは、血のような輝きを放つ瞳を曇らせた。

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