*神様
俺は何をしてるんだろう──剛はフラフラとマンションを出たはいいが、そのまま街で何をするでもなく、徘徊して気が付けば、もう夜になっているじゃないか。
「帰ったらデイに怒られるな」
仕事を放り出して来てしまったのだから、怒られても仕方がない。
もの悲しくて、人のいる場所に来てしまっていたが、そろそろ1人になりたくなってきた。
公園に来てみれば、恋人たちが妖しい行動を取っている。とてもじゃないが、自分の世界に入っていられる状況じゃない。
1人になれる場所を探し、足を向けたのは河川敷。いくらカップルがいたとしても、公園ほど多くは無いだろう。
カップルを避けて土手に腰掛け、深い溜息を吐き出した。
「ハァ……何してんのかな、俺」
「まったくだ」
「うわあ!?」
突然の声に驚いて変な声が出た。
後ろからの聞き覚えのない声に顔を上げると、知らない男の顔が目に入ってきた。
「……えと?」
長い黒髪の、よく見るとどこか見覚えのある顔立ち。
「私が好きなのか」
いや、男を好きになった覚えは──と言いかけたとき、男のしゃべり方と少しクセのある髪型に思い出す。
「!? デイ!?」
男のデイが剛の横に腰を落とした。
「うわ、本当に性別変えられるんだ」
マジマジと眺めた。
男に変わってはいるが、美人であることは間違いなく、人の目を惹く容姿だ。細腰で上品な動きと、相手を見通す瞳は少しも変わらない。
「でも、なんで男?」
「疲れた」
妙に納得のいく言葉なので何も返せない。
川の静かな流れと、夜の音が耳に響く──
「感情を無くしたのは必然的な事だ」
「わかってるよ、神様だもんね。俺が勝手に好きになっちゃったから、デイを困らせちゃって、ごめん」
「謝る事ではない。もし私にその感情が残っていたとすれば、向けるのはきっと1人なのだろう」
「誰か、愛する人がいるってこと?」
デイトリアの瞳から複雑な色が覗いては隠れる。
その表情と、ジェティスが言っていた名前が浮かぶ。
「もしかしてそれ、絶対神とか言う人?」
何も反応が無いように思えるが、剛には気がついた。
青い瞳が微かに動いたのを見逃さなかった。
「どんな人なの?」
「聡明で慈悲深い」
短い説明だけど、それだけでその人物がすごいのだとわかる。
だが、失恋した男はねちっこい。
「じゃあその人に会わせてよ」
デイトリアは声は上げなかったものの、目を見開いてものすごい驚きようだ。
そんな言葉が返ってくるとは思ってもみなかったらしい、かなり動揺している。
「何を言っている」
「なんで?」
「その聞き返しはどうかと思うのだが」
「なに、会うくらいもしてくれないケチなの?」
「私を怒らせて約束を取り付ける算段か」
「バレたか。でも会いたい」
真剣な剛の面持ちに、さすがのデイトリアも少し困惑しているようだ。
デイトリアもジェティスも、相手の気持ちはちゃんと受け止めてくれる。
「考えさせてくれ」
そう言って、ゆっくり立ち上がった。





