いつでも派遣
我が名はツヤイルワ、この世を恐怖と混乱で覆う…予定の魔王であった。つい先月までは我が軍は向かう所敵なし、日の出の勢い、まじはんぱねー、子供に大人気な妖怪ウォ○チ状態であったのだ。
しかし、今や我が軍は戦地に向かわせる部下なし、落日の虚しさ、まじヤバイっすよー、今の子供は絶対に知らないゲームウ○ッチ状態なのである。
ちなみに最近我は寝不足だ。原因は三日前から鳴りやまない騒音である。
今もズドンッと激しい音がしたかと思うと、城が震えた…ちなみに我も震えたのは内緒である。
そして次々に届く悲報。
「ツヤイルワ様、東塔が崩壊しました」
「ツヤイルワ様、ツヤイヨツ将軍が牛丼屋のワンオペに合格されました」
「ツヤイルワ様、ノツイガナ様がゲーム実況を仕事にすると実家に戻られました」
「ツヤイルワ様、タスハム様が移動動物園に就職しました」
我はツヤイルワ、最近胃が痛くてポタージュしか口にしていない。
「ツヤイルワ様、ここは危険です。お逃げ下さい」
配下が涙目で進言してきた。こいつも本当は逃げたいのであろう。しかし魔王たる我を置いては逃げれないので、我を逃がそうとしているのだ。
「ならぬ。我は魔王だ、逃げも隠れもせぬ…お前は逃げても構わぬぞ」
出来るだけ威厳を込めて話す、きっと部下は感激して残るであろう。
「ツ、ツヤイルワ様…どうか後達者で」
本当に逃げおったか…羨ましい。
我の名はツヤイルワ、我にしか作用せぬ結界の所為で城から逃げれない哀れで可哀想な魔王である。
「本当にもいやだー!!天井崩れてきてんじゃん。お家帰るー、魔王やめたいー」
魔王の名称って、どうすれば返却出来るんでしょうか?
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初めて見た魔王城はおどろおどろしい雰囲気を放つ、いかにも悪者が住んでいるって感じだった。
だけど、今は…
「えっと東塔は崩れたから、次は西かな。まてよ、先に正門を壊した方が崩壊が長引くか…やべっ、中央部の壁が崩れた」
一人棒倒し感覚で攻撃魔法を放っている豪により、見るも無惨な姿になっている。ちなみに派遣員ルールでは、中央部にダメージを与えたら点数がマイナスになるらしい。
「良く三日間一睡もしないで出来るわね」
「仕方ねえだろ、ツヤイルワを寝せない為に攻撃魔法を放ってるんだからよ。遊びでも、取り入れなきゃ暇になるだろ」
ちなみにツヤイルワは、豪が張った結界により魔王城から出れないらしい。
「大阪冬の陣じゃないんだから…」
狸親父ならぬ鬼親父は愚痴りながらも、間断なく攻撃魔法を放っている。
「彼奴等じゃ逆立ちしてもツヤイルワには勝てねえんだよ。ある程度弱らせておかねえとな。南塔に火炎魔法を…いや、待てよ北の城門に雷を落とすか」
寝不足の所に攻め込まれたら流石のツヤイルワもたまったものじゃない。
「だから五将軍も豪が倒したの?」
「ああ、実力差がありすぎて戦意喪失しちまうからな。戦う前から負けてちゃ依頼が失敗しちまう」
確かに今回の依頼は勇者に魔王ツヤイルワを倒させる事、ミカイゴスは万全の状態のツヤイルワを倒せとは言っていない。
「それであんたはツヤイルワとの戦いに参加しないの?あの子達に何かあったら不味いんでしょ」
「俺がいなくてもツヤイルワを倒せる様にしとくんだよ。俺は別の用事があるしな。ちょっと依頼主と話をつけてくる…ジャック、関根とドマージュと動いてくれ…ああ、好きな様に動け。元から叩き直さねえと無駄手間になる。それと事務所から例の書類を持ってきてくれ」
豪がジャックさんに携帯を掛けたけど、何やらきな臭ない言葉も飛び交っている…うん、嫌な予感しかしない。
「私も着いて行くよ。貴方を一人にしたら何をするか分かんないし」
「春香は彼奴等に着いて行って何かあったら俺を喚んでくれ」
いや、私としては瀕死のツヤイルワと戦うあの子達より、何をしでかす分からない旦那の方が心配なんだけど。
魔王城に攻め込んだのは私と日本から喚ばれた四人。攻め込んだと言っても魔王城は、誰かさんの所為でもぬけの殻となっていてゴーストタウン化している。その所為か申し訳ない位、あっさりとツヤイルワの所に着く事が出来た。
そこは城の中央部にある広い部屋。ツヤイルワはそこで一人豪華な椅子に座っていた。知らない人が見たら壊されかけの城から逃げないで魔王感たっぷりなんだけど、原因が旦那にある身としては大変申し訳なかったりする。
ちなみにツヤイルワの頭からは太く長い角が生えており、口元から鋭い牙が覗いている。腕は大人の胴回り位の太さがあり、人間なんかは軽く一捻りされてしまうだろう…ただ目元にくっきりと濃い隈が縁取られていて、なんとも痛々しい。
「ようやく来た…長かった、本当に長かった!!しかし、お前らを倒せばぐっすり眠れる。ぐっすり寝て、我は子供の頃からの夢…保父さんの面接に行くのだっ。我は優しい保父さんになるっ!!」
ツヤイルワは、なんともほのぼのとした夢を持っている魔王だった。
(そう言えばツヤイルワはミカイゴスの力で悪くなったんだよね…あー、あいつ暴れてるな)
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駄目な依頼主の特徴その1、棲家が無駄に豪華。ミカイゴスもご多分に漏れず光り輝く神殿に住んでいた…寝にくいし、目がチカチカする。
「すいません、創竜カンパニーの細川ですが」
神殿にインターホンなんてある訳もなく、昭和のお届け物の様に声を掛けるしかない。
そして見計らったかの様に荘厳な音楽が流れ始めた。
(あー、やっぱりミカイゴスは面倒な奴だったか)
駄目な依頼主の特徴その2、登場が舞台並みにに派手。子供型の天使がラッパを吹き鳴らしたかと思うと、女神が音楽に合わせて踊り出した。
(挨拶がない、挨拶が…子供の形をしてるけど、中身はおっさんだろうが)
音楽のテンポが突然変わったかと思うと、女神の群れが真ん中から二つに割れた…突然、フラッシュモブ巻き込まれた時並みの放っとかれ感である。ちなみに劇的なプロポーズで成立したカップルは、後から別れる確率が高いらしい。
「良くここまで来ましたね…私の名はミカイゴス。この世界を治める神です」
頭を一ミリも下げずに挨拶をするミカイゴス…もし、新人なら説教をしただろう。
「知ってます。貴方が我が社に依頼したんでしょ」
「ええ、お陰であの憎き魔王ミカイゴスを倒せます」
いや、自分で創った魔王じゃん。全部、自分で書いたシナリオだろ。今回の依頼はコンサートで言ったら機材の故障に近い…近いが。
「お伺いしたいんですが、魔族の魂をどうされていますか?調べたら魔族だけ魂の転生率と禊率が低下してるんですが」
「魔族の魂?あんな汚れた魂に高貴な私が触れる訳ないでしょ。魔族の魂なんて汚いゴミと同じじゃないですか」
駄目な依頼主の特徴、その3。自分を特別な者と思い込んでしまう。
「ああっん!!なに寝言ほざいてんだ!?主神なら手前の世界で生まれた全ての者に責任を持たなきゃいけねえだろ!!」
「全て知っているとは…ミカイコワ、ミカイヤハ、ミカイタカ出てきなさい。細川さん、死人に口なしと言う言葉を知ってますか?…あれ、ミカイワコ、ミカイヤハ、ミカイタカ出番だぞ」
三神とも出て来る訳がない…いや、出て来れる訳がない。
「ジャック、ドマージュ、関根」
俺の言葉に合わせてジャック達が出てきた、その手には人らしき物を抱えている。
「豪さんの予想通り、こいつ等ノツイガナ達を襲おうとしてましたよ」
ジャックが手に持った何かを床に放り投げた。
「ちなみに全員無事に逃げたのを確認しました」
ドマージュは触るのも嫌なのかロープでグルグル巻きにした物を引き摺っている。
「自分達で悪者に仕立てて改心したら殺すんすから悪どいっすよね。なんでツヤイルワが魔王なったかバレた不味いっすもんね」
関根に至っては鎌で首を挟んでいる…地味に痛そうだ。
「まっ、依頼は依頼だ…きちんと魔王ツヤイルワは倒してやるよ」
きちんと責任をとってもらう意味も込めて、ミカイゴスに倒してもらおう。
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弱っていても、ツヤイルワは強かった。私の結界が間に合ったから、全員無事だけどもう虫の息。
「豪、ゴメン。ツヤイルワは倒せないみたい」
悔しいけど、私は豪の足手まといにしかならなかった。断腸の思い出で豪を召喚する…したのは良いけど、豪は何か見てはいけないモノを持ってきた。
「悪い、悪い。ちょっと手続きに手間取ってよ」
「手間取るって…それなに?」
虫の息だった四人も呆然としている。
「これか?これは俺の新しい武器ミカイゴスハンマーだよ」
ハンマーって言ったけど、どう見ても猿ぐつわを噛まされ簀巻きにされた人である。
「ミカイゴスって依頼主でしょ。ここの神様じゃん」
罰当たりを思いっきり通り越している。
「大丈夫、ミカイゴスは主神を解任になったから。ちゃんとオジキから書類も貰っている…行くぜ、ツヤイルワ…ミカイゴス六連打」
威嚇を込めてか豪はツヤイルワの足元の床を砕いた…ミカイゴスハンマーで。
「さらにミカイゴス八連突き、ミカイゴス地擦り剣、ミカイゴスホームラン、ミカイゴスサンドバッグ」
ミカイゴスは一瞬にしてズタボロになった。もう、ミカイゴスは血だらけで涙目である。
「最後のは技じゃないでしょ!?」
ちなみにミカイゴスサンドバッグはただミカイゴスを殴るだけだった。
「そして最後にミカイゴス主神譲渡打ち…おい、ツヤイルワはお前が今日から神だ。詳しい内容は後から係の奴が説明する」
日本から来た四人は無事に戻す事が出来た。ちなみにミカイゴスはマンボウに転生させられるとの事。
事務所に戻って来たら金髪の女神様が待っていた。
「ホソカワさん、今年もクリスマスがやって来ました。今回は二段階変身です」
例の変身ヒロインの女神様である。
「またー?今度はキュートなんだよ」
「今年はキュートYOーKAIです」
キュートネコマタやキュート砂かけ、キュート子泣きがいるんだろうか。
「流行りに乗っかりすぎ」
とりあえず、創竜カンパニーはいつでもどこにでも
「それでは魔王派遣します」
そのうち、短編集を作って続きを書きたいです