将軍のお悩み相談
私の名前はヤツイヨツ、魔王軍で将軍をしている…本の数ヶ月前まで、我が軍は破竹の勢いで猿人達を蹴散らしていたんだ。軍には活気が溢れていた。この世界をヤツイルワ様が支配するのも目前と言う時に彼奴が現れたのだ。
ツヤイルワ五将軍のノツガイナ、ヤンジニ、タスハムがそいつに敗れてしまった。
さらにそいつはシタビヨが召喚したオーガとサキュバスをも倒したのだ。あの二柱はかなり高位の魔族だった筈。それをあんな残酷な方法で倒すなんて…彼奴は本当に猿人なのだろうか?ジャロに訴えたら絶対に勝てると思う。
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シタビヨは遠視の魔術を使い、例の猿人と自分が呼び出した魔族の戦いを魔王軍に見せていた。予定なら彼奴は惨殺されシタビヨの株が急上昇する筈だったんだろう。
「おい、そこの猿。俺様が殺してやるからありがたく思え」
この時は、まだオーガのリガリ・クーンも余裕があったんだろう。普通の猿人ならオーガを見ただけで怯える。しかもリガリはオーガキングだ。しかし、あの化け物は逆にリガリに絡みだしたのだ。
「あっ?たかがオーガが舐めた口聞いてんじゃねえぞ。調子こいてんと削ってオカカにしちまうぞ」
しかし、彼奴は怯える所ニタリと笑っていた。野太く低い声でリガリに絡みだしたのだ。
「俺はオーガキングだ。その辺のオーガと一緒にするな」
リガリは馬鹿にされたと思ったのか酷く激昂していた。
「その辺のオーガって、どの辺のだよ?うちのオーガの方がまだましだぞ。まっ、古来王族なんざ血脈しか取り柄がねえからな。豆腐にかけやてるから早く来いよ。それとも出汁の方が良いか?」
奥さん、聞きましたか。オーガキングに怯える所か出汁にするなんて…この時はまだ魔王軍に失笑が聞かれていた。
「はっ、実力を見せてやんよ」
リガリは猿人に右ストーレトを放つ、魔王軍でも交わせるのは数人しかいない素早い攻撃である。
「実力?てめえの温い拳が丸見えだぜ?蚊どころかてんとう虫が止まるんじゃねえか…あっ、はい。細川です…その件でしたら、ウォーレンに言っていただけたら…はい、ありがとうございます…すいません、7時から予約をお願いします…はい、二人です…それとオプションのサプライズをお願いしたんですが…ええ、名前は春香です、細川春香ですのでよろしくお願い致します」
しかし、あの化け物はリガリの拳を見ずに易々と交わしていた。しかも、居酒屋の予約をしながら。
「チョコマカトと動きやがって!!」
「なんだ!?当たれたば俺を倒せるってか?」
今思えばここで放映を止めておくべきだった。生放送だからカットは出来ないと言うのに…当然、リガリは渾身の一撃を繰り出した。普通なら避ける、私でも避ける、アイドルも握手会じゃなきゃ避けたいと思う…しかし、彼奴はあろう事か頭突き迎え撃ったのだ。
普通なら頭が砕け散るだろう。しかし…
「いてよー、俺の手が。お母ちゃーん」
砕けたのはリガリの腕だった。普通の勇者軍ならリガリを見逃すだろう。
「そうか、痛いか…なら一瞬で楽にしてやんよ」
彼奴はリガリに近付くと首を捻じ切ったのだ。たまらないのは側で見ていた淫魔のデラ・べピーン。
「ひっ、女に手は上げないわよね…今なら私の体を好きにして良いわよ」
「ああ、手は上げねえぜ。それと俺はラブラブな既婚者だ。女房以外の女は抱きたくもねえ…淫魔と関わって一週間一人寝の罰を喰らったらどうすんだよ!!春香とのイチャイチャタイムがなくなったらストレスで胃が痛むんだぞ」
いや、私の胃の方が絶対に痛んでます。
「喰らいな…誘惑術」
「効かねえな…手は上げねえよ。手はな…」
信じられない事に彼奴はリガリの首を持ち上げたんです。死者への冒涜です、流石の魔王軍もドン引きです。
「淫魔のお姉さん、僕とキスをしようよっ…手じゃなく首をあげるんだから文句はねえよな」
あの人外を通り越して、魔外の化け物はリガリの首で腹話術をしたんですよ。しかも、首をデラに投げつけたんです。
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結果、我がツヤイルワ軍から離反する者が後を断たなくなりました…コンビニの深夜勤務って未経験でも大丈夫でしょうか?