魔王とハムスター?
本当は更新を伸ばす予定でしたが、楽しみにしてますくれている方もいらしたので…嫌味な感想は堪えます
私の疲れ果てた胃は、もうお粥位しか受け付けません。
どうも、お粥の薬味は梅と玉子味噌がお気に入り、素朴な味付けが大好きな魔族ドマージュです。
「この魔獣を魔王軍に引き渡せば良いんですね?」
「おう。どれも高ランクの魔獣だから、喜ばれると思うぞ」
…思わずドン引きです。
魔族をドン引きさせる猿人、それが私の上司細川豪。
「分かりました。それで勇者達は、順調に成長していますか?」
今回の依頼は勇者に強くなってもらわないと、成功しません。
つまり、勇者に強くなってもらわないと愛する妻と過ごせる時間が減るという事。
「ああ、兵士も勇者も頑張ってるぞ」
「それじゃ、ツヤイルワにも勝てる様になったんですね」
ツヤイルワには悪いんですが、私はリンゴでも剥きながら入院中の妻と語らいたいんです!!
ちなみに戦闘班において浮気は敵前逃亡以上の御法度。
「たった数ヵ月鍛えただけだぞ。まだ素人に毛が生えた程度だよ」
「ですよねー…そんな簡単に強くなれたら、新人職員の転生研修は必要ないですもんね」
私が転生研修で行ったのは、犬人の世界でした。
そこで愛する妻と出会い、種族の垣根を越えて結ばれたんです。
「ああ、戦は道場とは違うからな」
戦にはルールなんてありませんし、雨でぬかるんだ道で戦わなければならない時もあります。
才能の差より経験の差が左右する事も、珍しくありません。
まあ、この魔獣は勇者達の闘争本能に火を着けるのは間違いないでしょう。
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いよいよ、魔王領に攻め込む人が来た。
今回は、勇者も兵士もギリギリまで訓練所で鍛えている。
魔王軍で最初に戦うのは魔獣軍団を率いるタスムハ。
ドマージュ情報によると、タスムハは武人で筋肉質のハムスターらしい。
手触りモフモフではなく筋肉モリモリのハムスターだそうだ。
「しっかし、お約束過ぎるよな。自然環境を弄り過ぎだっつーの」
魔王領は昼なお暗い、不毛の地。
「こんな所に住んでいたから、ノツイガナの顔は青白かったのかな?」
春香の言う通り、ノツイガナの顔が青白かったのビタミン不足が原因だろう。
何より、こんな所に住んでいたら野菜を満足に食えないし、日光を浴びる時間も少なくるからビタミン不足カルシム不足になるのは当たり前。
ノツイガナの角が折れたのはカルシム不足であって、俺が悪いんじゃない。
…何より作物を満足に育てられないから、大軍を養うのが不可能。
「魔族を不毛の地に押し込める事で、パワーバランスを保たせているんだろ。そりゃ、ツヤイルワを怒るわな」
今回の戦は見方を変えたら、ツヤイルワにより魔族開放戦とも捉える事が出来る。
「良く来たな。勇者軍よ。しかし、お前等は我が魔獣軍の餌になるのだ」
現れたのはモフ度ゼロのハムスター。
片目に傷がある筋肉質ハムスターなんて需要があるんだろうか?
そして魔獣軍を見た瞬間、勇者軍の雰囲気が一変した。
「豪、あれって…」
「ああ、俺の仕込みだよ。訓練所卒業のお祝いさ」
何しろ、彼奴等は暫くまともな飯を食ってないんだし。
「あまりの恐ろしさに言葉を失っただろ!!ブリザードピッグ、ハイランドチキン、サムライキャトルに勝てると思うか!?」
ブリザードピッグ、極寒の地に住む豚。その突進は白熊を脅かす。寒さに堪える為に脂肪を蓄えており、肉質はとてもジューシー。ラードも豊富で、又の名を揚げ物豚。
ハイランドチキン、高地に住む巨大な鶏。運動量が豊富で、肉には程好い弾力と歯応えがある。噛む度に旨味が出る為に、飲み込み忘れとも称される。
サムライソードキャトル、和の国に住む牛。その角はサムライソードに匹敵する切れ味を持つ。和牛の一種で、程好く刺しが入った霜降肉が特徴。 脂の融点は低く、指で触れただけで溶けると言う。
「彼奴等を倒せたら好きな調味料を出してやるぞ。醤油でもパン粉でも好きなだけくれてやる」
俺の一言が勇者軍の食欲に火を着けた。
「ステーキ…すき焼き」「フライドチキン…焼き鳥」「豚カツ…角煮」「タン塩」「しょうが焼き」「メンチカツ」「チキン南蛮」
魔獣軍は勇者軍に、美味しくいただかれ全滅。
「さてと、ネズ公。飲食店勤務者にとってネズミは大敵なんだよな…小麦の袋を齧られた恨みを張らしてやる!!」
ネズミが出たら、ケーキ屋には死活問題なんだぞ。
「なんだ、この禍々しいオーラは?…いや、ネズミ違いですって。それに俺はハムスターなんですよ…向日葵の種が大好きな可愛いハムちゃん…チューってね」
「あんっ!!ハムスターもネズミの仲間だろうが…そういやモルモットもネズミの仲間だよな…ヤジンニで出来なかった実験をしてやる」
タスムハは肉弾戦に強そうだから、気弾を中心に試してやる。
「り、理不尽過ぎる!!」
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タスムハの悲劇の翌日、私は妻の見舞いに来ていました。
「まあ、ホソカワ様らしいですね」
妻は豪さんの破天荒なエピソードが気に入ったらしく、尻尾を振りながら笑っている。
「時々、あの人が本当に猿人なのか信じられなくなるよ」
サムライソードキャトルを丸かじりする姿は、オーガにしか見えませんでした。
「ホソカワ様は、勇者さん達に故郷の味を食べさせて上げたかったんじゃないでしょうか?…そう言えばホソカワ様の奥様から、これを頂きましたが何か分かりますか?」
「これは…アムリタ!?しかも、犬人用のアムリタだ」
万能回復薬のアムリタは私が喉から手が出る程、欲しいものです。
しかし、とても貴重で高価な薬。
(私に渡せば遠慮する。自分が妻の病室に来れば下衆の勘繰りを招きかねない。だから、奥さんが届けてくれたのか)
戦い方とは、真逆の細やかな優しさを持つのが私の自慢の上司細川豪です。