魔族より質の悪い人
小学校の時、通信簿に”細川君はお調子者な所があります”と書かれた事がある。
三つ子の魂百までも…今回も調子に乗り過ぎて反省中。
「はい、次は魔術師隊の訓練計画書。その次は兵站の運営計画書」
春香が机に書類を山積みにしていく。
今回は勇者を育てるだけの楽な依頼の筈だったのに。
「まさか兵站の運営計画まで丸投げしてくるとは…」
勇者達の育成に加えて各部隊の鍛練や兵站の運営も俺の担当になってしまった。
「自業自得。国の計画にケチを着けたのは貴方なんだからね」
「だって、あのままじゃ泥舟に乗る様なもんなんだぜ」
派遣員としては突っ込まない訳にはいかない。
「でも、この国の人は戦争の経験があるんでしょ」
「対人の戦争の経験はな。でも、今回の相手は魔族だ。この世界の魔族は腐敗魔法を使うから対処をしとかないとな」
敵地で糧食を腐ったりしたら戦わずして全滅しちまう。
「ここの魔族ってそれなりに強いんでしょ?何でわざわさ、そんな事をするの」
「ここの魔族は人間の嘆きを好むタイプなんだよ」
ソースはレマサーハに作らせたこの世界の資料。
「嘆きが好物?会社にも魔族の人がいるけど、そんな感じはしないけど」
むしろ会社にいる魔族は俺に対して嘆いてるそうだ。
新魔法の実験台にしただけなのに…。
「仕方ないだろ。ここの魔族はそういう風に作られたんだから…ミカイゴスによってな」
神族は人の信仰心を糧とし、魔族は人の嘆きを糧とする。
これはミカイゴス神書の一節。
つまり、魔族に襲われたくなきゃ神を信じろって事だ。
そしてミカイゴスは人の信心が弱くなれば魔族を強くして、神を崇める様にしていたらしい。
「それでツヤイルワの力を強くし過ぎて制御不能になったの?呆れた…」
「信仰心を集める為に魔族や怪物を作るのは割りとスタンダードな手段なんだぜ。まっ、余り酷けりゃオジキに審議してもらうさ」
ちなみに俺が肉体的コミニュケーションを取らせてもらったノツイガナはツヤイルワ五将軍の中で四番目に強いとの事。
一番弱い奴を寄越さないとは、ツヤイルワは様式美を知らない見た。
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どうしよう…逃げたら契約不履行になるんだろうか?
「師匠、お願いします。僕を強くして下さい。正義の為ならどんな修行にも耐えてみせます」
何故か熱血女子高生恋野さんに師匠と呼ばれている。
恋野愛、ショートカットが特徴のボーイッシュな美少女。
そして勉強が苦手なドジっ娘でもある。
…お約束過ぎるだろ。
「どんな修行でもか?」
「はいっ!!師匠」
真っ直ぐに答えてくる恋野さん…女子高生なら少しは警戒しろよ。
まあ、本人がどんな修行にも耐えると言ってるんだ…遠慮はいらない。
「うっし、春香。大臣の所に行くぞ。着いて来い。恋野さんは部屋で待機していて下さいね」
恋野さんと二人っきりになって春香に誤解でもされたら最悪。
何より恋野さんは俺が一番苦手なタイプ、さっさっと逃げ出したいのだ。
慌てて着いて来ようとする恋野さんをスルーして廊下に脱出。
「豪、なんで愛ちゃんを邪険にするの?」
姉御気質の春香は、恋野さんや揚羽さんに慕われているらしい。
ちなみに、俺は白鳥と竜神から避けられている。
「あの娘は、余り遠征に連れて行きたくないんだ」
「愛ちゃんは真面目で意思も強いんだよ」
それは俺も知っている。
「だからだよ。ここの魔族は、人の心の隙間を突いてくるんだ。真面目な奴ほど壊されちまうんだよ。それに…」
きっと家族に変身して惑わしたり、幼い子供に変身して攻撃してくるだろう。
「それに?」
「好きな男の前で、汚される事もあるんだよ。ここの魔族は平気でそんな事をしてくるんだぜ」
ここの人間を作ったのはミカイゴスだ。
つまり、ミカイゴスはここの人間の壊し方を誰よりも知っている。
人間を壊す為だけに、作られたのがここの魔族なんだから。
「愛ちゃんと姫花ちゃんは大丈夫なの?」
「一応、戦闘班に所属している魔族をツヤイルワの軍に紛れこませておいたよ」
ちなみに名前はドマージュ。
新魔法の実験台とスパイの二択を選ばせたら、躊躇なくスパイを選んでくれた。
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中々、壮大な光景だと思う。
俺の目の前には総勢800人の兵士が揃っている。
勇者達もいるし騎士や魔法使いもいた。
「大臣、これで全員ですか?」
「はい、我が国が誇る魔族討伐隊です…ホソカワ殿、何をされるんですか?」
大臣が不安気な目で俺を見上げている…そんなに信頼がないんだろうか?
「これから魔力耐性診断を行います。俺が放つ魔力に耐えて進軍出来れば合格。そいつには特選隊として部隊を率いてもらいます。途中で脱落した人にはそれぞれ魔力耐性を上げる訓練に参加してもらいます」
隊長に混乱魔法を掛けられた同士討ちに発展しかねない。
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私の名前はドマージュ。
戦闘班に所属する派遣員です。
今回は鬼上司の無茶振りで魔王軍に潜入して来ました。
私の上司は生物学的には猿人に属してます。
しかし、戦闘班の中では主任は細川と言う規格外生物に進化したと言うのが定説になっております。
「主任、この濃すぎる魔力はなんですか?魔族でも具合が悪くなりますよ」
細川主任の前は魔力が濃すぎて霞んでいました。
ちなみにテスト参加者は全員気絶しています。
「おう、ドマージュお疲れさん。ここの兵士は駄目だな。誰も規定ラインを越さないんだぜ」
細川主任は呆れた風に話していますが、私の方が主任に呆れてしまいす。
「主任基準で考えるのは止めてもらえませんか?魔族でも規定ラインを越せる奴は滅多にいませんよ」
「こいつらは、その魔族の魔力に耐えなきゃいけないんだよ。それで魔王軍はどうだった?」
調べてきたから分かります。
ツヤイルワ魔王軍でも、この規格外テストに合格する人はいないでしょう。
「まず五将軍のうちノツイガナは極度の猿人恐怖症になり自室から出て来ませんでした。残りはツヤイルワの腹心ツヤイヨツ将軍、召喚魔法を使うシダビヨ、アサシン隊を率いるヤジンニ、ビーストを率いるタースムハの四人です」
「DQNネームも真っ青な名前だな…で、お前のお友達の名前はヤジンニってのか?」
返事をする前に私の影が蠢きだした。
現れたのヤジンニ。
ヤジンニは影から飛び出すと細川主任にナイフを突き立てた。
「ふっ、忍法影隠れの術。ドマージュ、お主の仲間は俺が殺してやった。俺が影に潜んでいるとも知らずに御苦労だったな」
ヤジンニが、私の影に潜んでいたのは分かっていました。
むしろ、ウェルカムです。
「ふむ、魔法耐性は結構強いな…実験台見ーつけた」
ヤジンニを見てニヤリと笑う細川主任。
「なぜ?ナイフを刺したのに?」
「ああ、痛かったぜ…だが、これで正当防衛が成立したよな」
私は言いたい、主任はわざと刺された癖にと…言ったら、私が実験台にされかねないので無言を貫きます。
「へっ?」
ヤジンニに伝えたい。
お前に目を着けたのはツヤイルワより質の悪い魔王だと。
「まずはヘルフレア改から、いってみよー。なーに、死んでも大丈夫だ。生き返らせてやるから」
「えっ?なに、この魔法?聞いてないんですけど…塵も残らず燃えちゃいますって!!」
頑張れ、実験台!!
貴方の尊い犠牲は忘れません。