?≦お握り
派遣員をしていなかったら、映画の撮影だと思っていたかもしれない。
うちの馬鹿亭主が 神様にダメ出しをしてるんだから。
場所は王城の一室。
今回私達が喚ばれた国の名前はガイエ。
今までの乗りでいくと反対から読んだら栄華。
豪的には手抜き感が否めないからマイナス1の査定らしい。
「喚んだらきちんと還す。これは常識だと思ってたんですけどね…いつの間にか私が時代遅れになったんですかね?」
王様の説明によると、ガイエには日本に戻す方法がないとの事。
「いえ、その通りです。私は還す魔法も創っていたと思ってたいたんですよ」
豪に言い訳をしているのはミカイゴスに仕えている神レマーサハ。
ミカイゴスと豪に挟まれている中間管理職な神様。
「思う?確認をしていないんですか?人が創れない様なら、授けるのが神の責務ですよ」
「いや、それはミカイゴスからストップが掛かりまして…」
私も色んな世界に派遣され経験を積んできた。
これは帰れなくする事で命懸けで戦わせようとする違反ケース。
「そうですか…レマーサハ様も大変なのは分かりますが、当社としては見過ごす事は出来ません。この件を創竜様に報告する事になりますが構いませんね」
豪はそう言うとレマーサハの肩を優しく叩いた。
確かにレマーサハを責めても無意味。
同じ中間管理職として豪も辛さが分かるんだろう。
―――――――――――――――
次の日、私達は朝早くからお城の庭に呼び足されていた。
「ガイエ騎士団整列っ!!良いか、勇者なんぞに頼らずとも我等だけで魔族に勝てる事を証明してみせるんだっ」
騎士団長の号令の元、騎士団が一子乱れぬ動きで行進していく。
「ちょーうるさいんですけど。何であんなに気合いが入ってるんですか!?」
欠伸をしながら話し掛けて来たのは揚羽姫花ちゃん。
「私達に手柄を盗られると思って焦ってるんじゃないかな。騎士団は国防が主な役割だし」
「えー、姫花ケンカとか嫌いなんですけどー…それより春香ちゃんと、あのゴツいおっさんはどんな関係なの?昨日、同じ部屋だったじゃん」
同じ部屋に泊まったゴツいおっさん…確認するまでもなく豪だ。
「あー、あれは私の旦那。これでも新婚なんだよ」
ちなみに旦那様はお握りを食べながら騎士団の練度をチェックしている。
「嘘ー!!春香ちゃんって私とそんなに変わらない年じゃん!!ハーフみたいで可愛いのに、なんであんなおっさんを選んだの!?」
転生をしてるから私と豪は実質年の差婚。
「色々あったのよ…姫花ちゃん、私の後ろに隠れて」
私は豪の影響で魔力が洒落にならない位に増えている。
だから感じる事が出来たんだ。
徐々に近づいてくる魔族の魔力を。
「春香ちゃん…あれ、なに?」
姫花の指差す先にいたのは魔族。
空中に浮いている魔族は騎士団を冷やかに見下ろしていた。
「魔族よ…それもかなりの実力者ね」
「魔族?えー、魔族にあんなにイケメンがいるの?」
確かに魔族は顔が整っている。
青白い肌に真っ赤な目、額から伸びた長い角と肩まで伸びた青い髪。
どう見てもキャーキャー騒ぐ対象ではない。
「気を付けて…来るわよ」
「俺はツヤイルワ五将軍が一人ノツイガナ伯爵。異世界の勇者に挨拶にきた」
ノツイガナが手を振り下ろすと、濃密な魔力が降り注いできた。
次々に倒れていく騎士団とお城の人達。
かろうじて無事なのは結界に守られた王族とお握りをパクついている豪。
正確には、お握りが魔力に耐えられずに落下している。
なんとか結界を張ったけど、長くは持ちそうにない。
「くっ!!俺の朝飯を…許さんっ!!」
「この馬鹿亭主!!お握りより私の心配をしなさいよ」
次の瞬間、私と姫花を分厚い結界が包む…どうやら、豪はやらかすつもりだ。
「この程度とは興醒めだ…ほう?」
召喚された勇者達が輝きだす。
姫花ちゃんは淡い桜色、白鳥零夜は紫、竜神砕牙は黒、恋野愛は赤。
(豪、何があったの?)
(魔族の魔力に反応したんだよ。防衛反応って奴だよ)
ちなみに豪の魔力は無色透明で色は自由につけれるらしい。
「僕達は魔族なんかに負けない!!降りてきて戦え!!」
恋野さんがノツイガナに向かって叫んだ。
それを見た豪が頭を頭を抱える。
「もっと美味しく育てば喰いに来てやる。こんな貧弱な魔力では俺の舌が満足しないんでな」
「おい、こら!!食えるもんなら食ってみろ!!でも、俺を食ったら腹を壊すぜ。それとも俺らにびびってんのか?」
竜神君がノツイガナに食って掛かる。
豪が深い溜め息を漏らす。
「餌が騒いでも怯える訳がなかろう。お前達、人間は魔族の家畜に過ぎぬ」
「醜いですね…女性を傷つける事は私が許しません」
ノツイガナを鼻で笑う白鳥君。
ちなみに豪は欠伸をしていた。
「それなら残酷な現実を見せてやろう。地虫は潰れろ」
ノツイガナがもう一度手を振ると、更に魔力が強まっていく。
「うっぜー!!つうか俺のお握りを弁償しやがれ」
どうやら豪の我慢が限界に達したらしい。
豪は魔法で飛ぶと、魔族の胸ぐらを掴んだ。
「ほう、人間の癖に飛べるのか…マジっすか?」
ノツイガナの額から汗が流れ出す。
そりゃそうだろう、豪の魔力は魔族を軽く凌駕しているのだから。
「なーにが五将軍だよ。俺が故障君にしてやるから感謝しな」
そう言いながら豪はノツイガナに往復ビンタをする。
「痛いっ!!故障じゃなく五将軍…止めて下さいよ」
「あっ?聞こえねーな。まっ、人間は家畜なんだろ?魔族様の言葉なんて分からねーよ」
豪はそう言うと、ノツイガナに腹パンした。
ちなみに派遣員の中では豪は人間扱いされていない。
「絶対に聞こえてるじゃないですか!?」
「悪いな。最近、耳が遠くてよ」
そう言いながら豪はノツイガナの角に手を掛けた。
「角は止めて下さい。魔族にとって角は宝なんですよ」
「へー、そりゃ良い事を聞いた」
ニヤリと笑う豪、魔族よりも悪どい笑顔である。
「やっぱり、聞こえてるじゃないですか!!」
「お握りの恨みはきっちり晴らさせてもらうぜ」
豪はノツイガナに一本背負いならぬ角一本背負いを掛けた。
ボキリっと鈍い音が響き渡る。
豪の手元にはノツイガナの角が握られていた。
「角が俺の角が…こんなの酷すぎる」
一方のノツイガナは子供みたく泣きじゃくっている。
「あー、お前カルシム不足じゃねえか?牛乳を飲め。それと肌が青白いから日にあたればカルシムが増えるぞ」
「春香ちゃん…なんか魔族が可哀想になってきたんだけど」
姫花ちゃんがどん引きしてる…いや、殆んど全員がどん引きしてる。
「あー、米粒でくっつかねえかな?」
豪は指に着いていた米粒を角の根本にくっつけていく。
「いや、米粒じゃ無理でしょ。どう見ても量が足りないし」
「仕方ない。落ちたお握りを使うか」
豪はそう言うと、土まみれのお握りを拾い上げた。
「豪。お握りなら、まだあるでしょ」
「残りは俺の好物のタラコとシーチキンマヨだ。勿体なくて使えるか!!」
次の瞬間、ノツイガナが豪から角を取り戻す空に逃げた。
「ツヤルイワ様に言いつけてやる!!」
そう言い残して。
この後、豪は勇者兼戦闘指南役に任命された。
北海道に詳しい方は活動報告に御協力お願いします