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届いた悲報

 普通、腹を剣で刺し貫かれたら死ぬ。

 奇跡的に助かっても長期の入院は免れないだろう。

 それが身内に刺されたんなら心の傷も深く、きちんと療養する必要があると思う。


「豪、ご苦労じゃったな。腹の傷は治しておいたぞ。それでは報告書を待っているからの」


「オジキ、俺ついさっき帰って来たばっかりなんですけど」

 アルマに刺された俺は直ぐ様オジキの所に転送させられて強制回復…そして強制事務仕事。


「今は午後三時、退社までは二時間あるんじゃぞ。余裕で出来るじゃろ」

 サラリーマンにとって雇用主の言葉は神の言葉。

 たかが主任では逆らえる訳がない…オジキは本物の神様だし。

 

―――――――――――――――――


 休み時間が削られたんなら、せめてコーヒーを飲みながらまったり…なんて思っていた俺が甘かった。

 

「細川主任、今回の新人研修の報告書もお願いしますね。それと新しく派遣員になった人の処遇も決めて下さい」

 春香はそう言うと、俺のデスクに書類を並べていく。


「春香、コーヒーを飲みたいから淹れて来て良いかな?」


「細川主任、今は公務の時間ですので名字で呼んで下さい。それとコーヒーは私が淹れて来ますので主任は書類をお願いします」

 これが他の派遣員なら俺には好みの濃さがあると、突っぱねる事が出来る。


「いや、好みの濃さが」「主任の好みはきちんと把握していますからご安心下さい…豪、愛情をたっぷり入れたコーヒーを淹れて上げるから頑張ってね」

 俺の目を見てニッコリと微笑む春香…惚れた弱味で逆らえませんでした。


(倒された相手はアルマ・グレイス。倒された技は刺突…それでお梅さんはシルバーバットさんの所に配属。新人研修はレポートを提出させてからだな)

 後は顧客用のアンケートも送らなきゃいけないし、今回は色んな部署に世話になったから挨拶をしておかなきゃいけない。

 今日も定時で帰れない予感がして来た。


――――――――――――――――


 書類整理がある程度進んだので七時に退社。

 春香が先に帰っているから、何処にも寄らずに直帰する。

 アパートの前に来ると部屋から温かい灯りが漏れていた。


(誰かが、帰りを待っていくれる部屋か…やっぱり良いもんだな)

「ただいまー」


「お疲れ様、お風呂が沸いてるよ」

 ドアを開けると、エプロン姿の春香が出迎えてくれた。

 それは何年か前までは当たり前だった光景…そしてもう二度と見る事が出来ないと諦めた光景。

 風呂から上がって来ると、食卓には様々な料理が並べられていた。

 鯖の塩焼き、肉じゃが、大根の味噌汁。

 ずっと独り暮らしをしていた身分としては、湯気が出ているだけでご馳走だ。


「ねぇ、アルマちゃん大丈夫かな?大好きなお兄ちゃまを殺した事になるんでしょ?」


「さあな、一応仕込みはしといてある」

 俺が被っていた兜には記憶操作の魔法が彫ってあるし、アルマの剣には記憶消去の魔法を仕込んでおいた。


「シスコンの割りに冷たいんだね。心配じゃないの?」


「心配した所でもう関われないんだぞ?それにアルマは世界を救った英雄だ。周りがなんとかしてくれるさ」

 優守や王子様が上手くフォローするだろう。

 アルマは可愛いし性格も家庭的だ、男が放っておく訳がない。


「豪は平気なの?大事な人達に嫌われるんでしょ」


「そんなのは慣れっこだよ」

 何より春香が側に居れてくれるのが大きい…一人なら絶対に自棄酒をしていただろう。


―――――――――――――――


 それから数週間経ったある日の事。

 事務所にボロボロになった天使が訪ねてきた。


「シャインじゃね えか?誰か医療班を呼んで来てくれ。 MSKSm836の天使が重体だ 」

 シャインは体中に傷があり羽根はボロボロになっている。

 特に右の羽根は折れ曲がり湾曲していた。


「ホソカワ様、私は大丈夫です。それよりもう一度だけ私達の世界をお救い下さい…穢れ者が姿を現しました」

 シャインはそう言い終えると、傷と疲れの所為で意識を失った。

 

「マジかよ…この間 MSKSm836に行った奴等を集めろ。 俺はオジキに報告に行ってくる」

 あの世界の穢れ者は厳重に封印をしておいた。

 絶対に人間の力では破る事は出来ない筈なんたが。

 たまたま来た少年や少女が偶然に解いてしまう。

 そんな関係者にしてみれば迷惑千万な行為は不可能だ。

 まあ、あの手の展開は解かせているって言った方が正確なんだけど。


――――――――――――――――


 会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。 


「さっきオジキに確認してもらった。やはり封印が解けたらしい。だから穢れ者の再封印を行う」


「豪さん…それは本当ですか?」

 最初に口を開いたのはジャック、何時ものおふざけは消えて真剣そのものだ。


「ああ、既に穢れ者は地上に出ちまったらしい。医療班からの報告だとシャインの傷に穢れ者の体の一部が癒着していたそうだ」

 穢れ者に癒着されたらジワジワと侵食され最悪の場合は穢れ者に取り込まれてしまう。


「分かりました、後詰めは俺と関根に任せて下さい」

 ジャックの言葉を聞いた関根が重々しく頷く。


「さて、次に封印が解けた原因だが美神信仰が過熱。グラスランド各地で他の神や精霊の祠が壊されたそうだ。貴族の中には信仰の弾圧をやっている奴もいるらしい」

 信仰心は弾圧すればする程強くなるし、弾圧する方も自分が正義だと信じて疑わないから最悪だ。


「高位の神官、若しくは精霊か神が動いたんでしょうか?」

 雪さんの顔色が良くない…下手すれば自分の旦那が取り込まれるかも知れないんだから当たり前か。


「どれも否定出来ないな。神が信仰を失えば滅亡しちまうし、神が滅亡すれば眷属の精霊も滅亡する。追い詰められた奴が穢れ者の封印を解いてもおかしくはない」


「一番可能性が高いのは光神ルークスかも知れません。彼の隠棲近くに簡素でしたが神殿が建てられていましたので」

 サイスの口調が重い、文字通り生まれ故郷になる世界だから当たり前か。


「あのシャインって天使はどうやって会社に来たんだろ?普通の天使じゃこれないんですよね」

 リミの疑問は当たり前だ。

 この世界には誰でも来れるって訳じゃない。


「前任者の神に転移させられたらしい。サイスは穢れ者の先鋒だったそうだ」


 穢れ者にしてみれば天使は選ばれた者で嫉妬の対象、早い話が憎い敵。

 穢れ者は憎しみ・(ねた)み・(そね)み・哀しみ・劣等感・猜疑心・孤独・怯え、そんな感情の集合体なんだから。


「豪、鎧とか武器は準備しなくて良いの?穢れ者って強いんでしょ?」


「強い装備を着けていけば穢れ者の力が増しちまうんだ。強い装備を持てる事に対する嫉妬心、強い武器に対する怯えを刺激されてな…だから穢れ者と戦う時は一人で素手と布の服が結果的には一番良いんだよ」

 

「一人?なんで一人じゃなきゃ駄目なの!?」


「穢れ者は仲間がいる奴に嫉妬心するんだよ。自分は一人なのに仲間を連れて来たって怒るのさ」

 後詰めの役割は封印に失敗したら、オジキに連絡して派遣員を穢れ者ごと封印してもらう為なんだから。

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