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魔王と妹

 活気に満ちていた日々が幻覚に思えてくる位に、城は静まりかえっていた。

 

「嵐の前の静けさって感じだね。すぐそこまで軍隊迫って来ているのが嘘みたく思えるよ…豪、怖くないの?」


「あれぐらいの軍隊なら瞬殺だよ。それぐらいの実力差がねえと上手く話を転がされねえしな」

 今回の依頼は相手を倒すんじゃなく、相手に倒される事。

 しかも猿人と魔族が一つにまとまる様に持っていかなきゃならない。


「そっか…でも無理はしないでね。ところで準備は全部終わったの?」


「これからが大事なんだよ。それじゃ始めるぞ」

 今回使うのはマジックアイテムは派遣員の為の幻術シリーズ城用魔王城タイプ。

 これを使えば、あら不思議。

 ガランとしていたお城が一瞬にして邪悪な雰囲気満点の魔王城に変わります。

 一瞬にして城壁に蔦が絡まり、床にヒビが入る。

 そして光が閉ざされて、城は暗闇に支配された。

 天井にはお約束のコウモリがいます。


「凄い…悪趣味。なにこのおどろおどろしい絵は?」

  春香の指差す先にあるのは満月に向かって叫ぶ狼男が書かれた絵。


「その絵は凄いんだぞ。近づけば目が動くし、斬られると血糊と断末魔がでる機能がついんてんだぜ」


「遊園地のアトラクションじゃないんだから。でも、なんで幻術なの?」

 答えは簡単だ。


「こういう物って終わると、壊されちまうんだよ。それなのに一々用意していたらコストが(かさ)んじまうだろ」

 下手したら費用を自分持ちにされてしまう。


「随分と世知辛い答えね」


「当たり前だろ。魔王様(おれ)の一番の難敵は事務方なんだぞ。それじゃボイスチェンジャーを兜に仕込めば、これで準備万端だ」

 今回は無機質ボイスで対応させてもらいます。


―――――――――――――


 執務室の扉が勢いよく開けられた。

 姿を現したのは勇者パーティーと魔王子達。


「魔王ゴーリキ、僕達が相手だ!!覚悟しろっ!!」


((アルマ)に魔王ゴーリキの名前を知られてしまった…は、恥ずかしい)

「ふんっ、今度の相手は小娘と小僧か。まぁ、精々退屈を紛らわせてくれよ」

 ここで大事なのは決して椅子からは立ち上がらない事。

 肘掛けにもたれかかり余裕を演出する。


「俺達をなめるなっ。フレイムハンマー」

 リチェルの詠唱が終わると、鎚の形をした炎が頭上から襲ってきた。


「ふん、温いわっ!!」

 体勢を変えずに気弾で迎撃する。 


「隙ありっ。行くよっ、優守君っ」


「アルマ、任せろっ!!」

 よ、呼び捨てだと…お兄ちゃまは許さないぞっ。

 

「ストーンウォール」

 意思の壁を生成して迎撃、魔王子側の壁が分厚くなったのは不幸な偶然だ。 

 

「そんな椅子からも立ち上がらせれないなんて。僕は勇者なのに…」

 不味い、アルマが涙目だ…プリンはどこに閉まっていたっけ。


「アルマさん、諦めては駄目です。そんなじゃゴーさんに笑われちゃいますよ」

 アンジェ、ナイスフォロー。


「そうだね。アンジェ、どっちがお兄ちゃまのお嫁さんに相応しいか競争だよ」


「負けませんからねっ」

(豪、後からきちんと説明してもらうわよっ)

 ヤバイ、(はるか)さんが怒っている…空気を変えなくては!!


「暇だ…全力で攻撃してみろ」

 俺の挑発が効いたのか、魔法やら剣撃が次々に降り注いでくる。

 それを煙幕代わりにして素早く椅子を叩き壊す。


「ほう、俺を立たせたか。面白い…本気で相手をしてやろう」

 ここからが大事、うまく攻撃力を調節しないと相手の心が折れてしまう。

 

「みんな、いくよっ。僕達の手で平和を勝ち取るんだっ…見ていて、お兄ちゃま」

 しっかりと目の前で見ています。

 アルマが立派に成長して、お兄ちゃま嬉しくて泣きそう。

 右手で剣を弾き、左手で魔法を叩き落とす。

足で法術を踏み潰し、膝で斧を跳ね返す。

 

「こ、攻撃が当たらない…どうすれば」


「これが魔王ゴーリキの実力…強すぎる」

 アルマ達に諦めモードが蔓延し始めた。

 チャンスはここしかない。

 手元のボタンでボイスチェンジャーをオフに。


「アルマ、俺の妹なら諦めるんじゃねぇ!!ゴーリキの意識は俺が抑えた。今のうちに体を貫けっ。その剣は仲間の力も吸収出来る。全員の力を一つにするんだっ」

 なんとか説明台詞を噛まずに言えた。

 

「お、お兄ちゃま…?無理だよ、僕はお兄ちゃまを刺せないよ」

 

「魔王ゴーリキは俺の体に封印してあるんだっ。このままじゃまた意識を乗っ取られちまう…早くしろ、は・や・く」

 我ながら完璧な演技だと思う。


「分かった…みんな僕に力を貸してっ!!」

 魔法や法術を吸収してアルマの剣が七色に光る。


「ゴーリキ、覚悟しろっ。でりゃあー!!」

 そしてアルマの剣が俺を貫いた。


「よくやった。偉いぞ、流石は俺の妹だ」

 腹に剣を刺しているアルマの頭を撫でる。

 もう会えなくなるから、優しく優しく撫でた。


「お、お兄ちゃま?」


「ああ、お兄ちゃまだ…アルマ、これからも頑張れよっ」

 転移魔法を発動、この時黒い霧に包まれる様に演出をする。

 さよなら、アルマ。

 俺の可愛い妹。

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