魔王の最終作戦
城の中はもぬけの殻となり、ガランしていた。
賑やか過ぎる程に活気があった城下町にも今は人っ子一人いない。
「豪さん、住民の避難が完了したっす」
「ご苦労さん、お前はお梅さんに着いていてやれ」
報告に来た関根を彼女の元に走らせる。
これから起こる事はベテランの派遣員でも気を滅入らせてしまう。
ましてやお梅さんはエクジルの住人、恋人の関根が側にいた方が安心するだろう。
「それでは私と金体さんで結界を張ってきます」
「細川主任、あまり無理をなさらぬ様にして下され」
「骨丈さん頼みます。金体さん、努力はしますよ」
骨丈さん達には住民が避難したエクジル北部に結界を張ってもらう。
あくまで悪役は悪者は魔王剛力だけ…今度からは計画時に名前も考えよう。
「豪君、優守君達への幻術はバッチリだよ。春香ちゃん、良い娘さんだね。豪君もやっと幸せになれるんだね」
シルバーバットさんには、魔王子達に俺が何者かに操られた幻術を掛けてもらった。
「ありがとうございます。この依頼が終わったら式を挙げますので是非来て下さい。それと住民にも幻術をお願いします」
住民に掛けてもらう幻術は、結界に封印されてしまうというもの。
俺が倒れると同時に結界が消えて幻術も発動する。
「豪さん、勇者隊がグラスランドを出発しました。後続は王国騎士団と宮廷魔術師隊、それに貴族と王族が続いています」
ジャックにはグラスランドへの対策を頼んでいる。
「やっぱり喰い着いてきたか。金欲しさに戦か。為政者なんざ欲の塊だな」
まぁ、欲が強くなきゃ政治家になんかならないんだけど。
「金塊を出した瞬間に目の色が変わりましたからね。何でも王に許可を得ずに統治をしたのは謀反になるそうですよ。それと豪さんが操られているって噂も流しておきましたので」
金は物欲だけじゃなく、権力者の名誉欲も刺激してくれる便利な金属だ。
「おう、サンキュー。それじゃうまくアルマ達と魔王子達を接触させてくれ」
「分かりました…そう言えばオジキが式で豪さんのプロポーズを流すって言ってましたよ。笑えるし泣けるって、どんなプロポーズをしたんですか?」
春香に泣いて縋ってプロポーズしました…って、あれを流すの?
「マジかよ…表歩けなくるぞ」
「大丈夫ですよ、豪さんが泣いてお願いしている姿を派遣員一同楽しみにしていますから」
そう言いながらにやつくジャック。
「知ってんじゃん、てか何でみんな知ってるの?」
「オジキが言ってましたよ。豪は情けない位に泣きながら青山さんに結婚を懇願したって」
懇願って…確かにお願いしますって言ったけど。
ロ○ハーじゃないんだから。
「ったく、ジャックは引き続きグラスランドの動きを観察してくれ。俺は防衛用の魔物を創る」
無意味な戦でエクジルの住人を傷つける訳にはいかない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
魔物創造に必要な物
各種鉱石、木材、岩や土、取り合えずその辺にある物を掻き集める。
鎧があればリビングアーマーを作れるし、木材からはウッドゴーレム、岩からはロックドラゴンを創れる。
「もう何でもありだね。この子達はどれ位の間動けるの?」
春香は魔物にも馴れたのか、産み出された魔物を平然と眺めていた。
「篭めた魔力によるけど、一週間から三週間。その間に魔力を再注入すれば長持つする。あちゃー、素材が足りないかもな」
有機物だと防腐処理に手間が掛かるから、無機物が中心になってしまう。
「私、良い素材を知ってるよ。魔力がたっぷり染み込んだ素材をね。どうせ、結婚式前に髪と髭を整えなきゃいけないし」
「つかぬ事を伺いますが、お前美容師の経験はあるのか?」
「ある訳ないじゃん。でもルッカ時代に近所の子供の髪はよく切ったよ」
結果、髪と髭以外にも各種体毛を剃られ爪は深爪にされた。
倒された魔王剛力を調べたらツルツルだったなんて嫌すぎる。
チ○毛ドラゴンに負けた騎士は大丈夫なんだろうか?
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
お兄ちゃまがエクジルに行ってから、色んな噂が聞こえてきた。
金鉱山を見つけたとか、ヴァンパイアを倒したか…ルッカさんにデレデレしているとか。
可愛い妹が寂しい思いをしているのに、他の女にデレデレするなんて信じられない。
でも、一番信じられないのはお兄ちゃまがルッカさんを頼っているってお話。
お兄ちゃまは、ルッカさんにご飯を作ってもらったり、お洗濯をしてもらったり、お風呂で背中を流してもらっているみたい(不潔!!)。
アコニお母さんにも何も頼ろうとしなかったお兄ちゃまがだ。
(お兄ちゃま、僕の事を嫌いになったのかな?)
そんな時に王様から命令が下された。
エクジル進攻の命令が…。