魔王のお芝居
自称魔王剛力は魔王子達に一喝したかと思うと仰々しく右手を挙げた。
「喰らえ、小童共!!必殺、邪悪魔王雷鳴封殺陣」
豪の掛け声に呼応する様に雷が轟き、魔王子達を取り囲む様に降り注ぐ。
雷は結界へと変わり魔王子達を閉じ込めた。
(結界に閉じ込めたら必殺じゃないでしょ!?封殺と被ってるし…あっ、豪の顔が赤い、流石に恥ずかしかったんだね)
どうやら、あの顔を隠せる兜は照れ隠しにも役立つらしい。
結界と言っても透明な高さ四メートルぐらいの立方体、壁の厚さは一センチぐらいで簡単に壊されそう。
「凶魔様、こんな結界は俺が破ってみせます…グワァァー」
閉じ込められた魔族の一人が結界に触れた途端、電撃に打たれて黒焦げになった。
「言い忘れていたが、許可なく触れれば雷撃が襲うからな。結界を破る方法はただ一つ、我等四人と闘い打ち勝つ事だけ」
親切に設定を説明する豪、言わない方が交渉が有利になると思うんだけど。
「ふざけるな!!お前の言う事が信用出来ると思うか?」
的確に突っ込んでくる魔王子君、確かに普通は信用しないと思う。
「信用?お前達は従う事しか出来ないんだよ。それに俺は誇り高い魔族の王ご…」
(春香、さっき俺なんて名乗ったけ?)
どうやら、私の魔王は自分がさっき名乗った名前を忘れたらしい。
(剛力でしょ、やっぱりノリで言ったんだ。それと一人称は俺と我のどっちにするの?)
(今回は細かい設定が決まってなかったから仕方ないだろ?俺で再開する!!)
「魔族の王剛力に掛けて嘘はつかぬ」
嘘はつかないけど、魔王剛力は恥をかいたと。
「お前を倒せば仲間を解放してくれるんだな!?」
「倒せればの話だがな…出でよ、決戦の間」
(なんか豪の方が悪者みたい…あっ、部屋が出来た)
豪の言葉が終わると、結界の上に透明な壁で作られた四つの部屋が現れた。
「俺達四人が各部屋で待つ。おっと人質を預かるとするか」
そう言って不敵に笑う豪…演技とは思えないぐらいに様になっている。
「人質だと?卑怯だと思わないのか?」
「なんだ?魔王子様は戦いにルールがないと怖いと仰るのか?一つ教えてやる。敵を卑怯だと罵る前に策を防げなかった事を悔いろ!!上に立つ人間は部下の命を預かってんだ。頭が策にはめられたら全滅しちまうんだぞ」
何気に魔王様の教育タイムがスタート。
「だからと言って人質なんて…」
「人質や罠なんざ戦じゃ当たり前なんだよ。戦はどれだけ多くの泥を被ったかが物を言うんだ!!戦なんざ、どれだけ綺麗に飾っても所詮は人殺し、美を求めんじゃねえ」
(おーい、豪、キャラが戻ってるわよ)
(…今は名前を呼ぶな。素になって恥ずかしくなるんだって)
(ふーん、それじゃ今晩のベッドでも剛力って呼んじゃおうかな)
(ご免なさい、それだけは勘弁して下さい)
いきなり無言になった魔王に魔王子達は警戒感を強くしている…まさか睦言の話をしているとは思わないだろうな。
「ゴホン、それでは人質を預かるとしよう」
豪が指を弾くと結界の中の魔族四人が光に包まれ上昇していく。
光に包まれた魔族は、各部屋の壁に拘束された。
残された魔族は怒りを露にする人もいれば嘆き悲しむ人もいる、共通しているのは微かな安堵の表情。
「ジャック、雪さん、関根、部屋でスタンバれ!!地獄を見せてやんよ!!」
豪はそう叫びと、ひとっ飛びで結界に登った。
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「先ずは第一の間、カマキリ人関根対猛牛ビーフ」
本名の所牛太郎を知っているのに、きちんとアダ名で呼ぶ律儀な魔王。
「止めて欲しいだー、横も縦もボンゴロさの倍はあるだよー」
お梅ちゃんの言う通り、大入道なだけに所牛太郎は大きい。
「仲間を守る為だ。覚悟すろ」
どうやら結界の中にはマイクが仕掛けられているらしく、牛太郎の声が響き渡る。
(結界が透明なのはカメラで撮影する為なんだ…これも教材として使われるのかな?)
「悪いけど大事な女が泣いてるんす。だから…とっとと終わらせる」
次の瞬間、関根さんの空気が一変した。
そこにいたのは朗らかで弱気な関根さんではなく、自前の鎌で命を刈り取る死神。
牛太郎は関根さんの倍以上はある腕で容赦なく殴り付けてくるが、関根さんは涼しい顔で受けている。
「昆虫は鎧を着ているのと同じなんだよ…終わらせる」
関根さんの鎌が一閃したかと思うと牛太郎が膝まづいた。
「流石ですね、関根さんは四肢の筋を斬ったんですよ。しかも直ぐに治せるヵ所だけをね」
解説はリッチの骨丈さん。
「お前は負けたんだ…こいつの命はもらう」
関根さんさんの鎌が煌めいて壁に拘束されていた魔族の首を切り落とした。
溢れだす血に結界の中の魔族は絶望の色を濃くする。
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「第二の間、雪・ウォーレン対紅バラゴールド」
白と赤、黒髪と金髪、大和撫子とヤンキー、第二戦はなんとも対照的な二人の対決だ。
「まさか、まーさーかー!!雪様の戦いが生で見れるなんて!!ハルカ、私凄い幸せだよ」
雪さんの大ファンのマリーは大興奮。
「はっ、私の相手はババアかよ」
紅バラゴールドこと斉藤カネは木刀を肩に担ぐと大きな溜め息を漏らした。
「あらあら、女の子がそんな乱暴な口調で話したら男の子に幻滅されちゃいますよ」
一方の雪さんはたしなめる様に話ながら薙刀を構える。
「ババアはババアだろっ、どうせ旦那も不細工な…ヒッ!!」
鬼だ、般若だ、いや怒った雪さんだ。
雪さんは舞うように斉藤カネに近づいたかと思うと薙刀を一閃させる。
次の瞬間、斉藤カネは糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた。
「あらあら、風邪引いても知りませんわよ…次にジャックの悪口を言ったら峰打ちじゃなく首を切り落としますからね」
そう言うと雪さんは壁に拘束されている魔族を薙刀で両断した。
結界の中の魔族の顔が青ざめていく。
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「第三戦、ジャック・ウォーレン対ワンパンのサブ」
「俺がワンパンでお前を沈めっ…」
斜め四十五度からジャックさんを睨み付けていたカッパの三郎の皿にジャックさんは容赦なく肘を叩き落とす。
「あれは肘から気を流して気絶させたんですよ。遠目には皿を叩き割った様に見えますけどね」
以上、解説の骨丈さん。
「さてと、豪さん締めは頼みましたよ」
ジャックさんはそう言うと手刀で、拘束されている魔族を顔を真っ二つにした。
結界の中の魔族はただ魔王子に祈っている。
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「さて、斉藤優守ちゃんよ。泣かしてやるぜ」
「…何なんだよ!!お前は!?なんでこんな酷い事をするんだ!?」
にやけている豪に対して魔王子はすでに涙目になっている。
「お前はそう問われた時になんて返した?魔族の希望の為か?それとも強者が正義か?」
「誰かがまとめなきゃエグジルは滅ぶんだ!!」
重々しく問い掛ける豪に斉藤優守は叫びながら答えた。
「だからお前が力で支配したってか?なら見せてみろよ、その力を」
「喰らえっ、喰らえっ、喰らえっー!!」
斉藤優守は次々に気弾を放っていく。
しかし気弾は豪の張った気の壁に当たると、霞の様に霧散していく。
「気の練りも足らなきゃ強さも足りねえ…気弾ってのはこうやって打つだんぜ」
豪の腕から放たれた気弾は斉藤優守の頬を掠めると、壁に拘束されていた魔族を消滅させ、更に岩山を吹き飛ばした。
もう魔族の心は折れてしまったと思う。
(殺されたのが金体さんの作ったゴーレムだって知ったら驚くだろうな)
豪達が殺して見せたのは金体さんが作ったゴーレム、あれだけの集団なら一人や二人知らない顔を知らない人間がいても疑われない。
だから予めゴーレムを紛れ混ませておいたらしい。
斉藤優守達の心を折る為に。
「シルバーバットさん着きました」
現れたのは銀髪のサキュバス。
でも普通のサキュバスと違い色気じゃなく深い母性を感じさせる。
「シルバーバットさんが使う幻術は淫夢じゃなく母性愛を元としたものなんだ…心その物を母性愛で包み込み従わせるのさ。最もきちんとした教育を受けさせる為だけどな」
どうやら豪は魔族に教育を施す為に一芝居打ったらしい。
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