魔王と魔王子
短いです
遠視の窓にそれは映った。
蛇行しながら暴走する馬車、前に誰もいないのに鳴らされる警笛。
そして特服に身を包んだ集団が俺の治める領地に迫って来ていた。
「餓鬼共が天狗の敵討ちに来たんですね。随分と気合いが入ってるみたいですよ。眉間に皺を寄せて可愛いじゃないですか」
ジャックが遠視の窓を見ながら笑っている。
「馬車で箱乗りをしてる奴もいるっすよ。あの辺の道路は舗装をしてないから舌を噛まなきゃ良いんすけどね」
関根もジャックも色んな世界に派遣されたから昭和チックな不良を見慣れている。
「今回はさらに凄い人数だね…豪、大丈夫なの?」
「ざっと見て千は越えてる…石化させるには人数が多すぎるし、集団心理で興奮状態になっているだろうから心を折るにも一苦労。さてと、どうすっかな」
範囲魔法で一気にぶっ飛ばすのが、一番手っ取り早い。
しかし、主神に魔族の保護を訴えた手前それは不味い…顰蹙物だ。
(この手の集団は頭を潰せば脆い。となると倒すのは四人。魔王子斉藤優守、河童の河口三朗、大入道の畑牛太郎、魔王子の妹斉藤カネ…一気に決めた方がインパクトが強いな)
「でも、何でみんな魔王子に従うんだべか?こっちには大勢の兵士がいる事は分かってると思うんだけど」
「みんな、凶魔さんに未来を託しているんです。エクジルに住んでいたら夢も希望もないんですよ」
お梅さんの呟きに虎人のタマが答えた。
鎖国していたサキュバスの国と違って、エクジルにある他の国には外から物資や情報が入ってくる。
エクジルの若者が衰えていくだけの周りの大人を見て自分の将来を悲観し、魔王子に従ったのは分からなくもない。
斉藤優守を含めた魔族は、この世界の被害者と言えなくもないのだから。
「新人研修の最終講義は”目で見る戦闘班の仕事”にする。ジャックが河口三朗と関根は畑牛太郎と雪さんは斉藤カネ、俺は斉藤優守と戦ってみせる。サイスは骨丈さんについて結界を張ってくれ。金体さんは五体ほど人型のゴーレムを造って下さい…うんと、リアルな奴をお願いしますよ。春香、事務所に電話をして教育班に来てもらう様にお願いをしてくれ、出来たらサキュバスのシルバーバット女史を頼む」
知らない人の方が多いと思うが、一応言っておく。
シルバーバット女史は銀髪のサキュバスだ。
決して銀色の骸骨じゃないし、コウモリさんと呼び掛けても現れないと。
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私達、新人派遣員は骨丈さんが張ってくれた結界の中にいる。
「青山さぁ、ボンゴロは大丈夫だべか?牛太郎って物凄くごっついんだよ」
お梅ちゃんは戦いが始まる前から、涙目になってオロオロとしていた。
「豪の話だと関根さんは豪やジャックさん程ではないらしいけど、それなりには強いって言ってたから大丈夫だと思うよ」
「比較する相手が規格外過ぎて分からないだよ…」
まあ、お梅ちゃん程ではないけど私も不安を感じている。
何しろ、豪達四人は千人近い不良と戦って諌なきゃいけない。
「大丈夫でござるよ。何しろ、関根氏は細川主任のしごき…鍛練に耐えきった稀有な人材ですので」
金体さんの話では、戦闘班は希望者も多いが脱落者も多いそうだ。
その原因はうちの馬鹿らしい。
「だから関根さんは、未だに新人扱いなんですね」
「それだけ戦闘班は重責を担うのでござるよ。戦闘班には辛い運命を乗り越えた方が多いのも頷けます」
関根さんはお母さんと妹さんを剥製にされているし、雪さんは生まれた藩を滅ぼされている…そして豪は私を失っている。
私が死んだ時に、豪はどうやって乗り越えたんだろう。
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穴があったら入りたい…いや、正確には穴を掘ってうちの馬鹿を埋めたい。
「貴様が魔王子と名乗っているヒヨッコか。我が名は魔王ゴー…剛力。貴様の様な餓鬼が魔の王族など片腹痛い」
(魔王剛力って今、考えたでしょ?)
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