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魔王様、エグジル中央部へ

 エクジル中央部に近づくに連れて景色が様変わりしていった。

 荒れ果てた荒野に打ち捨てられた建物、そして赤茶けた土埃を舞いあがらせる乾いた風。

 そしてその雰囲気とそぐわない大男が大股で歩いていた。

 紫色のジャージを腕捲りにし、顔にはゴツいサングラス、手には竹刀、足は便所サンダル。

 その出で立ちはガラの悪い体育教師…豪だ。


「なんか世紀末覇者でも出て来そうな感じだな」

 

「また懐かしい事を。でも豪はあの漫画に悪役で出てきても違和感ないよね」

 ちなみに私は封魔の数珠の中にいる…何時の間にか数珠の中には何時の間にか椅子やテーブルが置かれていた。


「お約束だと悪者に追われた人が助けを求めて逃げてくるんだよな…って、本当に出たよ」

 土埃を透かして良く見ると二つの人影がこっちに逃げて来ている。

 二人とも、ローブを目深に被っていて男性か女性か分からない。


「何かに追われているみたいだね。豪、助けてあげて」


「最初からそのつもりだよ…って、おい!!」

 二つの人影は豪を見た途端、震えながら座り込んだ。


「あー、挟み撃ちにされたと思ったんだね。よっ、流石の悪人顔」

 これであのどっちかが女性だとしても、豪にフラグが立つ事はないから安心だ。


「まっ、追手を倒せば問題はないだろ…しっかし、随分と悪趣味な戦車だな」

 

「戦車?あの車輪が着いたソリみたいのが」

 姿を現した追手は車輪が着いたソリ擬きを馬に牽かせていた。

 ただし、赤や紫で塗られていて昔の不良が好みそうな色使いだけど。 


「あれが本来の戦車、チャリオットだよ。俺らの世界だと古代ギリシャやローマ時代に活躍したんだぜ。その頃を舞台にした映画に出て来たろ。まっ、乗ってるのは鎧を着た戦士じゃなく勘違いしたガキだけどな」

 豪はそう言うと暴走する馬車目掛けて走り出した。

 座り込んでいる二人の頭を軽く飛び越し馬車と対峙する。


「ヒャーッハー、なんだ、お前は?正義の味方のつもりか?」

 紫の馬車に乗った虎人が叫ぶ。


「今は狩りの最中で気分が良いから、有り金を置いて土下座をすれば見逃してやるぜ」

 赤い馬車に乗ったリザードマンが笑う。

 虎人とリザードマンは豪と座り込んでいる人達を囲む様にして戦車を走らせ始めた。


「…女の臭いが三つに増えたな。おい、デカブツ!!どこに女を隠しデーッ」


 豪は無言のまま、虎人の鼻を竹刀で撃ちつけた。

 当然、虎人は馬車から転げ落ちて無人となった馬車は荒野を駆け抜けて行った。  


「あー、兄貴の戦車が!!おいっ、てめえ何してグフェー」

 豪は借り物の戦車が見えなくなった事に抗議しようとした虎人の腹を踏みつける。


「おいっ、猿野郎。タマじゃない…ボールから足をどけやがれっ!!」

 どうやら虎人の名前はタマらしい、それを英語にしてボールなんだね。


「ああんっ!?人に話があるんなら乗り物から降りてきやがれ。それともビビって降りてこれないんでちゅかー?」

 豪がノリノリで応えてみせる、私を口説いた時は噛みまくった癖に。


「はっ、その手にはのらねえぜ。ボール待ってろ。今、ケーン様を呼んで来てやる」


「おー、早くしろ。じゃないと虎人タマちゃんは哀れ三味線タマちゃんになっちまうからな…お前、良い毛並みだな、敷物にも使えるんじゃねえか」

 タマの襟首を掴んで持ち上げた豪は丹念に毛並みをチェックし始めた。


「タカハシ待て、待ってくれ。この猿人ヤバいんだよ。力が洒落にならないんだって…あの、夏毛に生え変わったばかりなので出来たら毛は抜かないんで欲しいんですけど」


「馬鹿野郎、きちんと根元までチェックしないと商品にならないだろうが。あー、一回シャンプーしといた方が良いかな。毛が綺麗になったら被り物にも使えそうだし」

 紫ジャージの次は虎の被り物と。


「豪、助けた人達は放っておいて良いの?」


「あー、良いんじゃねえの?事情はタマちゃんから聞くし。第一、俺が聞いたら泣き出すだろ?」

 確かに二人とも、明らかに追われている時よりも怯えている。


「そりゃ、あんたが虎人を今にも解体しそうだからでしょ」

 解体と言ったら、タマちゃんの体が気の毒なくらいに震えだした。


「まさか、今は解体しないよきちんと吊るして胃の中の物全部だしてからじゃないと、折角の毛並みが汚れちまうからかな」

 タマちゃん、豪に毛皮を撫でれて涙目。

 豪は、そんなタマちゃんを無視していそいそと縄で縛りあげる。

 タマちゃん涙の堤防が決壊して大泣き、ちなみに猿ぐつわを噛まされているから声をださずに大泣きしている。


「とりあえず数珠から出して。私があの二人から話を聞いてみるから」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 数珠から出てローブの二人に話し掛けると、泣きじゃくりながら抱きつかれた。

 二人とも、猫人の少女でタマちゃんに追われていたらしい。


「危ない所をありがとうございました。それとも私は猫人のネズ美と言います」


「ネズ美…ちゃん?」

 猫なのにネズ美とは、これいかに。


「ええ、親が一生ネズミに困らない様にって、つけてくれたんです。そしてこっちが弘美です」

 ちなみにネズ美ちゃんはロングヘアーでナイスバディ、弘美ちゃんはショートカットで小柄な娘…ヒロシじゃなくて良かった。


「あのタマちゃんはどうなるんですか?タマちゃん、ぐれてるけど本当は優しい男の子なんです」

 何でも三人は幼馴染みとの事。


「ペット用の下剤と人の用の下剤のどっちが効くかな…面倒くせえ、両方ビンごとぶちこむか?」

 豪の問い掛けに首を振って答えたるタマちゃん。

 ネズ美ちゃんも弘美ちゃんも心配そうに見つめている。


「ちょっと待っててね…このお馬鹿!!そんな事してるから怖がられるんでしょ!?折角、助けたのにドン引きされたら意味がないでしょ!!」

 そして私はなぜか、ネズ美ちゃんは弘美ちゃんから姐さんと呼ばれる様になった。

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