GT豪
豪は魔王子達の説明を聞き終わると、無言のまま席を立ち執務室から出ていった。
「豪、まだ話し合いは終わってない!!ウォーレンさん達は長旅で疲れているのに報告に来てくれたんだよ」
「青山さん良いんですよ。豪さをは、どうすれば被害が少なくて済むのかを考えに行ったんですから」
豪を追い掛けようと、席を立った私を雪さんが優しく諭してくれる。
「正確には、自分だけに被害を集中させるやり方だけどな。豪さん、この世界に思い入れがあるから後腐れなく終わりたいんだろ」
ジャックさんは呆れた口調で話しているが、どこか楽しそうだ。
「自分にだけ被害を集中させるって、どういう事ですか?」
「遅かれ早かれエクジルにグラスランドの勇者と軍が攻めこんで来ます。これは依頼神の美神が決めた事だから避け様がないんですよ。でも、このままだとエクジルの住人も戦に巻き込まれちまうんです。下手すりゃサキュバスは奴隷にされて娼館に連れて行かれるし、獅子人は牙を剥ぎ取られたり剥製にされる可能性があるんですよ」
私はエクジルに来てから、サキュバスや獅子人の友達が出来た。
種族は違っても話が出来れば分かりあえて友達になれる筈。
「剥製って嘘ですよね」
「俺の母さんや妹は標本にされたんす。それに同種族を奴隷にするのも珍しくないっす。俺達派遣員は嫌って程、そんなのを見てるんすよ」
関根さんの言葉にジャックさん達が静かに頷く。
「ボンゴロさぁ…」
お梅ちゃんは恋人の辛い過去にショックを受けたらしく、関根さんにすがりついた。
「中でも豪さんは悪役の依頼が多いですからね。文字通り命懸けで働いても感謝されるどころか憎まれる。豪さんが倒された日を祝日にしてる世界もあるんですよ」
魔王討伐記念日、魔王からの解放を祝う日、新しく世界が生まれた日、色々な祝日があって月に一度はどこかの世界で豪を倒した事を祝っているそうだ。
「その辛さを知ってるから、豪さんは自分一人に被害を集中させようとするんす。口は悪いし人使いも荒いっすけど、戦闘班のみんなは豪さんに憧れてるんすよ」
関根さんそう言いながら、すがりついているお梅ちゃんの頭を鎌で優しく撫でる。
「多分、豪さんは町を眺めてると思いますよ。手が掛かると思いますけど豪さんをお願いします」
豪は仕事が終わりに近づくと、その世界に住む人の暮らしを見に行くらしい。
――――――――――――――
ジャックさんの言った通り、豪は城のテラスから町を眺めていた。
町は活気に満ち溢れていて、行き交う人達はみんな笑顔だ。
「こーら、会議を抜け出した癖に、なーに黄昏れてるんだ?」
町を眺めている豪の背中が、余りにも小さくてふざけた言い方をしてしまった。
「新人が頑張ってくれたから、良い町になったよな…この町を、この町に住む人の笑顔を守らなきゃ駄目だよな」
町を眺めながら豪がポツリと呟く。
「その為に倒されるの?何か、他に方法はないの?」
「魔王が、勇者に倒されるのも依頼の一つなんだよ。でも、この町は絶対に守る」
豪は一切気負わずに、静かに宣言をした。
「何で、あんたがそこまでしなきゃいけないの?この世界が大切だから?」
「それもあるけど、このままじゃ後々面倒な事が起きるんだよ。まず、この世界の魂が輪廻転生した世界から苦情がくる」
「転生した世界から苦情?」
「ああ、輪廻転生ってのは早い話が魂の修行と禊なんだよ。でも、この世界は価値観が偏りまともな修行が出来ないし、禊も済まされない。そうすっと、転生した世界に淀みや穢れを持ち込んじまうんだ。そうすると、次の依頼料で安く叩かれるんだよ。下手すりゃタダ働きをさせられる」
禊が終わっていない魂は、泥の着いた野菜と同じで転生させるには一手間掛かるらしい。
「一気に世知辛い話になったね」
「何より、このままじゃ穢れ者が強くなり過ぎて、世界の全てを破壊し尽くす。そうなったら俺でも勝てないし、大量の魂が滞る事になるんだよ」
豪はそう言うと、テラスに肘をつきながら大きな溜め息を漏らした。
「それでどうするの?」
「まずは、美神と話し合いをして魔族も救う事を認めさせる。そして、魔王子達を教育。そして勇者と共に俺を倒す様に仕向ける。魔族の王子が人の味方をして、魔王を倒したら魔族の好感度も上がるだろ」
相変わらず自分の好感度はどうでも良いらしい。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
美神と話し合いをする為に、豪と私は一度事務所に戻った。
なんでも、事務所には豪専用の衣装部屋があるらしい。
事務室で待機をしていると、それは現れた。
真っ赤なスーツとパンツ、顔にはゴツいサングラス、足元はエナメルの靴。
「なに?そのヤクザみたいな格好は?」
「何って、お話し合いをする為の服だよ。似合ってるだろ?」
確かに悪い意味ではまり過ぎ。
「そっちの紙袋には何が入ってるの?」
「これは先生をする時の服だよ」
紙袋に入っていたのは紫のジャージにトイレ用サンダル、そして竹刀。
これも、悪い意味で似合っていた。