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魔王様一行、エクジルへ 人助け魔王?

 エクジルとの国境近くにある街アンゴロはとんでもなく発展していた。

 アンゴロは荒れ地の中にポツンとあるにも関わらず首都グラスシティに負けない賑わいを見せている。

 いや、住民がエセ紳士淑女になってお上品を気取っているグラスシティとは比べ物にならない熱気に満ち溢れていた。


「エクジルとの金取り引きに集まってんだな。まさにゴールドラッシュだな」


「そりゃそうでしょ。ここで買った金をグラスシティに持って行くだけで一儲け出来ますからね。中には命懸けでエクジルまで金を掘りに行く奴もいるそうですよ」

 アンゴロに先に来て調査をしていたジャックが苦笑いをしながら答えてくれた。

 砂糖に群がる蟻ならぬ金に群がる命知らず達の集まりか。


「確かエクジルにはヴァンパイアがいるんだよな」


「ええ、アンゴロの近くで金鉱山があるのはヴァンパイア族の領内だけです。彼奴等にしてみりゃ金鉱山があるだけで餌が勝手にやって来るから、わざと警備を緩くしてるらしいですよ。しかも泥棒のお題目で捕まえて文句を言わせないそうです」

 アンゴロの領主にしてみればヴァンパイアは大事な取り引き相手だから文句は言えないと…いや、無許可で採掘に向かう奴をわざと見逃してるのかも知れない。

 だからヴァンパイアは金の価格が安くても文句を言わないのかもしれないな。

 ヴァンパイアは血が吸えれば食糧はいらないんだし。


「何人か見逃せば、今度は違う奴が俺もとヴァンパイア領内に向かう。確か、ヴァンパイア族の頭はブラッド伯爵だよな。ヴァンパイアの割りにはしたたかな性格をしてんな」

 

「ヴァンパイアのブラッド伯爵?なんか縁起の悪い名前だね」

 まだ猿人以外との関わりが少ない春香にしてみれば当たり前の感想なのかもしれない。


「ヴァンパイアの主食は血液だろ。人間だと米山とか米俵みたいにめでたい名前になるんだよ」

 一生米に困らないじゃなく、一生血液に困らないと。


「ヴァンパイアってドラキュラなんだよね。豪、十字架とかニンニクを用意しなくてもいいの?」


「何でそんな勿体ない事をしなきゃいけないんだよ。それとヴァンパイアとドラキュラは全くの別物なんだぜ。確かドラキュラは竜の子って意味だよ、日本名だと竜の子太郎になるのかもな」

 思わず竜にまたがってデンデン太鼓を振るヴァンパイアを想像してしまった。


「勿体ない?」

 春香が怪訝そうな顔で見ている…俺からしたらヴァンパイアより春香の方が何倍も怖い訳で。


「あー、どっちにしろ無理に絡んで得する相手じゃないから気にするな。お前に目をつけなきゃ構わないよ」


「本当?危ない事は止めてよね。あんたがジャッドに斬り殺された時は大丈夫って分かっていても涙が止まらなかったんだからね」


「大丈夫、大丈夫。俺には危険がないから」

 もし、ヴァンパイアが春香を嫁にしたいなんて抜かしたら金鉱山もろとも灰塵にしてやるけど。


――――――――――――――


 ヴァンパイア、アンデッドの中でも高位の存在で限りなく不死に近い。

 腕力も魔力も人間とは比べ物にはならないぐらいに強いし、催眠術を使ったりコウモリや狼、霧に変身する等多芸多才。

 派遣員にも数名いるけど、ある理由から俺とはあまり絡みたがらないんだよな。


「ごーう、みんなでご飯食べに行くよ。これだけ大きな町なら美味しい物があるかな?」


「どうだろうな、この手の街は安くて量がある方が人気あるんだぜ」

 夜になってもアンゴロの街は賑やかだった。

 下手をしたら昼より活気があるかもしれない。

 酒場の喧騒に吟遊詩人の歌声、派手な服を着て旅人を誘惑する娼婦。

 (はるか)と歩いてると娼婦に声を掛けられないから、一々断らなくて良いから楽だ。


「賑やかだねー。豪はよくこういう街に来るの?」


「人が住んでる場所に限定するんなら多いかもな。でも一番多いのはダンジョンの最下層とか城の奥だぜ」

 ちなみにダンジョンの最下層の淋しさは、かなり堪える。

 携帯の電波が届かないから、何時も文庫本や漫画を大量持ち込みしている。


「でも、あの人達は何か暗いね」

 春香の指差す先には14、5才の女の子を囲む様にして数人の男女が集まっていた。


「気になるのか?」


「うん…私も魔王城のメイドに選ばれた時あんな感じだったから」

 でも、今や魔王(おれ)部屋(アパート)を自由に模様替えしてるんだけどね。

 耳を澄ましてみると、何度かヴァンパイアって単語が聞こえてきた。


「ちょっと良いか?俺の名前はゴー・セクシリア。魔物討伐騎士だ、何か困り事なら力を貸してやるぜ…って何で警戒してんだよ」


「豪さん、何回言わせるんですか?顔が怖いし声もでかい。それに威圧感があり過ぎなんですよ。雪、頼む」

 

「はい、分かりました。宜しかったらお話を聞かせてもらえませんか?私達は三勇者様の遣いとしてアンゴロに来ているんですから」

 何でこいつらは雪さんに変わってほっとしてるんだろう?

 雪さんが聞いてくれた話によると中心にいた少女にブラッド伯爵が目をつけたらしく1週間後に迎えが来るとの事。

 少女を逃がしたらアンゴロの街に被害が出るし、戦うにしても冒険者を雇うにしても現実味が薄くて困っていたらしい。


「ヴァンパイアか、予定より早いけど骨丈(ほねだけ)さんと金体(かなだ)さんを呼んどくか」

 骨丈さん復興班所属のリッチ、金体さん同じく復興班所属のミスリルゴーレム。

 二人共、ヴァンパイアとの相性は抜群。

 リッチの骨丈さんには血液は流れていないし、ミスリルゴーレムの金体さんの体にはヴァンパイアの牙は刺さらない。


「ちょっと…豪まさかブラッド伯爵のお城に行くの?」


「人助け、人助け。それにひと騒ぎ起こして魔王子君にアピールしとかなきゃいけないんだよ」

 何せ、俺は魔王子を降して魔王にならなきゃいけないんだから。

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