魔王とハーレム?
今後の事を決める為に思考の海に潜る。
領主アーク・タイガーンにとって大事なのは名誉と既得権益、奴隷商ゼンヤー・エッジにとって大事なのは財産。
領主は強迫で押さえ付ける事が出来たが、ゼンヤー・エッジが奴隷を解放するのは無職になるのと同じだからすんなりと了承する訳がない。
たが、ゼンヤーの館を襲撃をするのは愚策だ。
奴隷を人質に取られたら意味がないし、国から追っ手を差し向けられたら今後の計画の邪魔になる。
まず、奴隷を買う金は幻術を使えば何とかなるだろう。
一番の問題は…春香に何て言うかだ。
敢えて軽い感じで
「ちょっと、奴隷を買って来るよ」
…許可がでる訳ねえよな。
それなら重々しく
「奴隷が必要になったから買いに行ってくる」
…確実に振られるよな。
わざとチャラく
「奴隷の女の子に可愛い子がいたから買いにいっちゃうよー」
…これでOKされたら俺が泣く。
甘えた感じで
「僕、奴隷が欲しいなー」
…春香の冷たい視線は胃にくるんだよな。
まだ決めなきゃいけない事があるのに一歩も進まない。
思考のマリアナ海溝で溺れかけていると、白い手が首に絡んできた。
「こーら、一人で悩まないの。今度はどうしたの?」
下手に策を弄せず、そのまま言うのが一番だよな。
「領主は何とかなったけど、奴隷商と今売られている奴隷をどうするかで悩んでんだよ。下手に襲撃をすれば奴隷を盾にされるからな」
ちなみに契約書は寄生虫に変じて、アークの体内に潜り込んでいる。
もし契約を破ったら、自分が中から食い破られる。
「そっか、出来たら助けてあげたいもんね。でも、奴隷を買ったら奴隷商の利益になるんでしょ」
「それなら大丈夫だよ。葉っぱでも石ころでも幻術を使えば金に変える事が出来る」
幻術は詐欺と一緒で自分は騙されないって思っている奴が一番効く、次に効くのは欲の深い奴。
「相変わらず滅茶苦茶だね。それなら問題はないんじゃないの?」
とりあえず第一関門クリア。
「色々あるんだよ、まずは誰と契約をするかだ。奴隷を買って契約をしなきゃ怪しまれるだろ?かといって俺が契約をするのも問題なんだよ」
「豪が奴隷として扱わなきゃいいだけの話でしょ?」
「あのな、俺達はこれから僻地のに行くんだぜ。しかも、最終的には勇者と戦わなきゃいけねえんだ。巻き込む訳にいかねえだろ」
奴隷にされた上に魔族の領地に行くなんてストレスで体調を壊しかねない。
「親御さんや家族の元には帰せないの?」
「俺みたいな奴の奴隷だったなんて知られてみろ。下世話な勘繰りをされて不幸になるだけだよ。手をつける気なんざねえけど世間はそうは見ねえだろ?、…婚約者が奴隷から解放されても疑心暗鬼になって別れたってパターンは少なくねえんだよ。婚約者がいなくてもご近所さんの冷たい目に晒されるんだぜ」
ちなみに俺が奴隷商の所に行くと、”貴方もお好きですね”って言われる。
「随分と細かい所まで考えるんだね。戦いに使う為に買ったって言えば駄目なの?」
「逆に聞くぜ?俺とジャックがいるのに戦い未経験者の足手まといを買うなんて信じてもらえねえだろ」
「それならさ…別の人が助けた事にすれば良いじゃん。例えば天使とか」
まず、とりあえず俺かジャックが奴隷を買う。
金を渡して権利が移ったら残った奴が襲撃をかける。
その隙にシャイン達が奴隷を救出。
後は天使達に家族の所へ送り届けさればオッケーだな。
「おっし、それでやるか!!」
「豪は本当にハーレムに興味がないの?あんたぐらいの力があれば維持出来るんじゃないの?」
「維持出来るからって持つ必要はねえだろ?ハーレムにゃ嫌な思い出しかねえしな…ハーレムの遺産分配は地獄なんだぞ」
私の方が愛されていたから遺産を増やせだとか、あの女は浮気をしていたから権利はないとか、絶対に全員が納得する事はあり得ない。
…一回、全員が浮気をしていた時は女性不振になりかけたが。
「囲う側じゃなく遺産分配の役目をしてたんだ」
「それによ、恋人や片想いの相手がハーレムに連れ去られて行く所を見てみろ…テメエの無力さを嘆き哀しむ声を聞けばハーレムなんざ持つ気にはならねえさ」
ハーレムを持っている奴は、力があるから、モテるから、全員を愛してるからなんて言うが…俺には詭弁にしか聞こえない。
「他の理由は?何か大事な理由を忘れてない?」
春香が悪戯っぽく笑いながら見つめてくる。
「お前…分かって言ってるだろ!!」
「なに、なに?何を分かってるって?」
「ぐっ…お前に惚れ抜いてるから他の女には興味がねえんだよ!!」
数時間後、幻術で姿を変えた俺はゼンヤーの館を全壊にしてやった。
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