表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/84

魔王と契約

 ノーブルは宿屋から出て2時間程で帰って来た。

 そして、堂々とこう言い放った。


「領主は奴隷を解放をする事を、私に誓いました」

と…

 いつ解放するか、解放した後の生活の保証も確認をしていない。

 当然、契約を交わしていないし、解放した事を確認する術すらない。


「あーあ、あんな世間知らず天使に交渉に行かせた俺が馬鹿だったよ。こんな事になるんなら、シャインを呼んでおけば良かったな」

 シャインには細川流スマイル交渉術を教えてある。

 口には穏やかな笑みを、目は殺気の篭めた威嚇を、言葉には嘘にならない程度の粉飾を、それが細川流スマイル交渉術。

脅迫…もとい、いかに気持ち良く協力してもらうかが大事。


「でも領主は解放の約束をしたんでしょ?」

 異世界でルッカとして育った経験がある春香にしてみれば天使との約束は絶対に思えるんだろう。


「口約束は約束に入らないっての。んなもん”解放した後も奴隷として、ここで働きたいと本人が言いました”って言われたらお仕舞いだよ…せめて契約を結んで来てくれたら手間が省けたんだけどな」

 正義と善意の塊みたいな天使が、海千山千の領主や商人に敵う訳がない。


「豪さん、そりゃ酷ですよ。ここの天使達は人間は自分の言葉に無条件でひれ伏すって信じてるんですから」

 この中で貴族の口約束の信用性のなさを知っているのは、俺とジャック夫妻ぐらいだろう。


「まーな、天使なんざ基本は信心深い敬虔(けいけん)な信者の前にしか降臨しねえからな。仕方ねぇ、俺が商談をまとめに行くくか」


「へー、何時から脅しを商談って言う様になったんです?前の時なんて、豪さんが相手の手を押さえ付けながら無理矢理サインをさせてたじゃないですか?」

 確かに、そうだけど春香の前で言うのは止めて欲しい。


「仕方ねぇだろ?ああしなきゃ無実の魔族が処刑されてたんだからよ。天使に魔族の助命嘆願は頼めねえだろ?領主と奴隷商の情報を教えてくれ」


「領主の名はアーク・タイガーン、爵位は男爵です。アークは爵位を男爵から子爵に上げる為に服やアクセサリーを王家に貢いでます。商人はゼーンヤ・エッジ、エッジの姓で分かる様に本家は武器屋です。ゼンヤーは次男の為に奴隷商になったそうですよ」

 雪さんの説明をみんな真剣に聞いている…うん、春香がいてくれて良かった。


「悪代官に越前屋?お主も悪よのとか言ってたりして」

 

「お代官様には負けますもな、ちなみにタイガーン姓はそれなりにあるんだぜ」

 前は日本人にしか分からないネタはスルーされていたんだよな。


「しっかし、豪さんが女と軽口を叩く姿を見れるなんて思いもしませんでしたよ。何しろ、身内以外の女が側にいると必要な事以外は喋りませんからね」


「そりゃそうだろ、俺が行く世界は基本女じゃなく雌だからな。それに女がいる世界でも嫌われ役なんだぜ?そんな奴と話しても相手が不幸になるだけさ…それに未練を残してる奴が何を話すんだよ」

 まあ、結果的には春香を忘れなかったのは正解なんだが…忘れられなかったとも言うが。


「豪、高校の頃から進歩してないじゃん。ピュアな魔王なんて誰も恐がらないよ」


「ピュアじゃねえ汚れだよ。うっし、一度事務所に戻って奴隷解放書類の雛型を渡すからサイスはジャックにリミは雪さんに書き方を習ってくれ…春香、今日は外食にするぞ」

 人員の振り分けに個人的な希望をいれてしまった。


――――――――――――――――


 こんな物まであるんだ、それが私の感想だった。

 事務所に戻ると、豪は自分のデスクに私を座らせた。


「派遣員ネットにある書類の雛型をクリックしろ、次は人事にチェックをいれて契約解消にチェック、そして奴隷解放をクリックだ…召喚獣解放の次にあるから間違うなよ」

 豪に言われた通りにマウスを動かすとパソコンの画面に書類が表示される。


「甲は乙を解放する事を丙に約束する…甲は奴隷所有者、乙は奴隷、丙は派遣員か。保険か何かの契約書みたいだね」


「次はAのアイコンをダブルクリック。そうすりゃデータを入力出来るから、使われている文字、金の単位、契約の強さを入れるんだ…春香、コーヒーでも飲まないか?砂糖とミルクを一杯ずつだよな」

 そう言っていそいそとコーヒーを淹れに行く豪。

 雪さんから聞いた話では、豪は女子職員にコーヒーを頼まずに、何時も自分で淹れるらしい。

 少しすると、豪はトレイにマグカップを2つ乗せて戻ってきた。


「ありがとう、これで良い?」


「どれどれ…あー、派遣員の名前は俺にしといてくれ。交渉は俺がやるから。終わったら飯食いに行くぞ」

 そう言いながら、飲み終えたマグカップを洗いに行く豪。

 誤解されがちだが、あんな風に教育したのは細川のお義母さんで私じゃない。


 

――――――――――――――――


 私の隣で柄の悪い(ごう)が笑みを浮かべている。

 しかも真っ赤なスーツにサングラス、どう見てもヤクザにしか見えない。

 何でそんな悪趣味なスーツを作ったのか聞きたい…悪い意味ではまってるし。


「さて、タイガーン子爵。サインをして下さい…あまり手間や時間はとらせないで下さいよ」

 そう言うと豪はテーブルに足を投げ出した。


「セクシリア様、流石にこの条件は厳しいので直ぐにお返事と言うのは」


「あーれー?俺の耳がおかしくなったのかなー?ノーブル様と約束したって聞いたんだけどなー。口約束とはいえ約束は約束だよな、破るんならアルマ(いもうと)に言っちゃおうかなー。アルマは王子様や王女様と仲が良いんだよねー」

 質が悪い、絡み方が殆ど脅しだ。


「しかし、奴隷を解放して再雇用となると」


「退職金込みだぜ。それと奴隷の時の怪我はきちんと補償しろよ…無理矢理、手を出してたりしていたら補償金は膨らむからな。これが計算式だ、足りねえなら売る物を考えとけ。とりあえず今日はサインだけでも頼むぜ」

 豪がサイン欄を指差す。


「わ、分かりました。サインします」

 豪はタイガーンがサインをするとニヤリと笑った。

 あの契約書はマジックアイテムで契約を破ると呪われるらしい。

人気投票の協力お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ