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魔王の旅と見えてきた現状

 さっきから、すれ違う馬車や旅人が私達の馬車をあからさまに避けている。

 その原因は御者をしている豪、豪は眉間に縦皺を作り不機嫌そうに街道を見ているのだ。 

 豪の不機嫌の原因は雲一つない抜ける程の青空、御者をしている豪に遠慮なく直射日光が降り注いでいた。

 ジャックさんが言うには、どの世界に行っても豪は御者を譲らないらしい。

 

「そんなに暑いんなら誰かに代わってもらえば良いでしょ。はい、お水」


「おっ、ありがとう。でも御者は譲る訳にはいかねえんだよ」

 豪は私が渡した水を一気に飲み干すと、少しだけ笑顔を見せる。


「へー、あんた御者マニアだったの?」


「御者マニアってなんだよ。御者をしながら色々と見てるんだよ、作物の種類や成り具合、土の乾きや草木の元気さ、人の表情や痩せ具合、町の活気や売れてる商品、みんな派遣員の仕事に不可欠なんだぜ」

  

「だったらせめて眉間の皺を消しなさいよ、周りが気を使うでしょ」

 不機嫌そうな豪を見て、サイス君とリミちゃんは凄く居心地が悪そうだ。


「んな事言ったって暑いもんは暑いんだよ。オーブンの熱さは気にならねえんだけどな」


「はいはい、ほら、ちょっと詰めて。一人でムスッとしているより誰かと話をしてれば気が紛れるでしょ?私も派遣員の勉強したいし」


「良いけど…見て気持ちいいもんだけじゃねえぜ」 

 眉間の皺をさらに深くした豪がポツリと呟いた。


―――――――――――――――


 豪の言っていた事の答えを知ったのは、馬を休ませる為に立ち寄った小さな農村だった。


「やだー!!お母さん行きたくないよー。お父さん助けてー」

 5才ぐらいの女の子が泣き叫んでいた、その視線の先にいる赤ん坊を抱いている一組の男女、2人共辛そうに目を伏せている。

 でも、中年の男が女の子の手をがっしりと掴んでいるから、近づけないでいた。


「人買いだ…男は農奴か男娼。女は針子か性奴隷にされるんだよ。何が美しき世界だ?胸くそわりぃ」

 豪の視線の先には10人近い少女が檻に入れられている。


「豪、何とかならないの?」


「あいつらを倒すのは簡単だ、だけど俺達はエクジルに行くからガキ共は連れて行けねえ。それに元から何とかしねえと同じ事が起きるだけだよ。第一、国の法律に基づいた商売だ。下手に騒ぎを起こせば、この村を巻き込むだけだぜ」

 豪はむかついているらしく、指が食い込むぐらいに手を握りしめていた。


「天使や王子様は、この事を知らないんだよね」


「さあな、知っていても痛みが分かるかは別問題だからな。とりあえず、この声は聞かせてやらないとな」

 豪はニヤリと笑うと、懐から赤い石と青い石を取り出した。


「その石は何に使うの?」


「これは集音石と拡声石って言うんだ。集音石が拾った音を拡声石で聞く事が出来るんだよ…先ず、集音石を檻に仕込んでおく。それで拡声石は天使の所に転送するのさ。手前らが示した統治方法だ、民の声を聞く必要があるだろ?」

 いくら天使でも、子供のすすり泣くな声や怨嗟の声を聞くのは辛いと思う。


「もし、天使が何もしなかったらどうするの?」


「そりゃ、この世界の査定がマイナスになるだけさ。どうしても駄目なら、ここの領主も動かさなきゃいけねえし。ここで奴隷商をぶん殴って親に金を渡せば万事解決ってはいかねえしな…ジャック、頼む」

 

「分かりました。豪さん、俺もムカついてるんですから暴れるのは待って下さいよ」

  

「ああ、俺はここの村長と話をしてみる。サイス、見学ついでについて来い」

 確かに見ていて気持ちがいいものじゃなかった。

 だけど、私は後悔していない。

 豪と一緒に歩くって決めたんだから。


―――――――――――――――


 毎回の事ながら、動くのが遅すぎたと後悔してしまう。

 どうやら、ここの領主は一族が着飾る為だけに税率を上げたらしい。

 その所為で、税金を払えずに奴隷になった人が大勢いるとの事。

 その日の夜、村長との会見を終えた俺は村の宿屋でジャックからの報告を受けていた。


「豪さん、あのガキ共は領主の屋敷に連れて行かれました。どうやら、直轄領の畑で働かされてるみたいですね。ここの織物はグラスランドで質が良くて安いって好評らしいですよ」


「人件費がただみてなもんだからな。こりゃ、天使に注意させても同じ事をやる奴がでるだけか…命を落としてる奴はいないのか?」


「環境は劣悪でしたが、大切な労働力なので生かさず殺さずでしたよ。」

 ブライネストが王子にお告げをしてから貴族に在らずば人でないって、意識が広まっているらしい。


「それで、どうするの?まさか見過ごすなんて言わないわよね?」


「とりあえず、天使に忠告させにいくよ。改めなきゃ天罰ならぬ魔王罰を喰らわせにいくさ」

 下手に屋敷を壊せば修復で税率を上げそうだから、関係者をしばけば反省するだろう。


「豪さん、天使が例の件で面会に来ています」


「サイス、ありがとな。入ってもらえ」

 サイスが頷くと、ロマスンスグレーの頭が部屋に入ってきた。


「失礼いたします。ノーブルです」

 尋ねてきたのは5大天使のリーダー ノーブル。

 微妙にやつれているのは拡声石の効果があったんだろう。


「あんた一人だけか?苔頭と金髪はどうした?」


「2人共、耳元で聞こえ続けた泣き声でダウンしております。ユウキに至ってはゴウ様の名前を聞いただけで、泣き出すので」

 それは怪我の功名と言うか、嫌われてラッキーと言うか、春香にあれがバレたら叱られるかもしれない。


「きちんと領主が反省をしたら止めるよ。今から行って奴隷を解放する様にお告げをして来い。領主にはお前が持ってるハンカチか何かを渡せば納得するだろ。持ってないなら、格安で売ってやるぜ」

 丁度、お歳暮でもらった紳士用のハンカチが余ってるし。


「分かりました、奴隷商はどうするんですか?」


「その辺は領主に任せる。懲りない様なら俺達が直談判に行くまでさ」

 その時は、領主ともどもトラウマになるぐらいの恐怖を植え付けてあげよう。


活動報告にも書きましたが、魔王、下忍、トラマの人気投票を考えています。


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