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魔王と春香と美の世界

 朝飯の後、春香が淹れてくれたコーヒーを飲んでいると、頼んでおいたデータがスマホに届いた…本当に勘弁してくれよな。


「豪、渋い顔をしてどうしたの?まさか、渋さを強調してモテようとか考えてるんじゃないでしょうね?」


「俺が渋面を作っていて逃げない女はお前ぐらいしかいねえだろ。この折れ線グラフを見てみろ」

 スマホに表示された折れ線グラフは緩やかにだが確実に下降していた。


「これなに?…グラスランドの主要作物生産量って書いてあるけど」


「3年前、美神ブライネスト・ブレイブスがグラスランドの王子クラージュ・グラスの元に降臨して、美をもって国を治めろと告げたんだよ。美は見た目だけじゃなく精神的な美しさも含まれているらしいが、汗と泥に塗れるのを嫌い離農する人が増えた。その上、畑にある物を植えさせる貴族が増えたんだよ。何だと思う?」

 この質問は派遣員になった春香への教育も兼ねている。


「見た目が綺麗な果物かな?…莓とか」


「それならまだ良かったんだけどな。正解は綿花と桑だよ。何の為だと思う?」


「綿花は木綿の原料だし、桑は蚕の餌だから絹だよね。…まさか服を作る為に作物を変えたの?」

 

「エクジルの自給率が上がるまでの輸入量を検討するのに調べてもらったんだけど、こりゃそのうち食糧の輸入が制限されるかもな」

 土壌改良したからって、すぐに生産量が増える訳がない。


「養豚とか養鶏も直ぐには結果はでないよね。植物を早く成長させる魔法とかはないの?」


「あるぜ。だけど成長を促進させる魔法を使うと地力が落ちるんだよ、大地から無理矢理栄養を吸い取る様なもんだからな」

 そんな事をしたら畑が直ぐに荒れ地になっちまう。 


「でも食べる物があってのお洒落でしょ?」


「ところが同じ様に落ちているデータがあるんだよ…食い物の個人消費量も年々減少しているから、今は問題になってない」


「まさか…国民の殆どがダイエットをしてるの?」


「痩せるのも目的らしいが、食い物に執着するのは精神的に美しくないんだとよ」

 そういや飯がうまくなくて有名なイギリスでは、美食を好むのは卑しい事とされているらしい。

 

「作る量も消費する量も減ったんなら問題ないんじゃないの?」


「天候不純や天災なんかがあったら他国に輸出する分なんて直ぐに無くなるんだよ。神とはいえ人にだけ都合の良い天気なんて続けれないしな。そんな事をしたら生態系が滅茶苦茶になる」

 生き物は住む土地の天候に対応して進化をしている、それを人の都合で変えたら生態系が壊れてしまう。

 人には不快な梅雨も蛙や植物にしてみれば待ち遠しいものなんだし。


「それで渋い顔をしてたんだ。毎回、こんな苦労をしてるの?」


「それが派遣員の仕事さ、うまくやらなきゃ短期間で万近い人が死ぬ時もあるんだぜ。それでなくても不愉快な展開の目白押しだからな」

 万人の死を止めれなかった時は、その世界の神が決めた事とはいえ心がしばらく晴れない。

 


――――――――――――――――


 待ち合わせ場所に着くとジャック達は既に待機していた…春香がいなきゃ、カップル二組とぼっちの辛い旅になってたんだよな。


「待たせたみたいだな。サイス達は実家で待機、ジャックと雪さんは馬車を調達してくれ…春香、アコニさんとアルマへの挨拶は無理にしなくて良いからな」


「豪さん、まだ報告していませんでしたけどアコニ・グレイスの感情は消してませんので。今消すとアコニ・グレイスの体と勇者達に悪影響がでる可能性があったんで現場判断で決めました」

 確かにいきなり人の態度が豹変したら周りの人間は戸惑う。

 そして実母の縦ロールは生活能力が皆無だからアルマを育てのたは実質アコニ・グレイスらしい。


「アコニ・グレイスの安全はどうする?」



「鶏天使に約束させましたよ。最悪、豪さんは魔王子に洗脳された事にしますから」

魔王子退治に行って洗脳されて魔王に…随分と傍迷惑な奴じゃねえか。


「増水した川の中洲でバーベキューをしてた連中じゃねえんだからよ。さてと、それじゃ行くか」

 


――――――――――――


 行くかと言った瞬間、私達は光に包まれた。

 

「ここはどこ?舞踏会でも始まるの?それとも町をあげての仮想大会?」

 最初に見えたのは塵一つ落ちてない石畳、そして行き交う人々はタキシードやドレスで着飾っている。


「ここはグラスランドの首都グラスシティ、あれは普段着らしいぜ」


「あれが?うわっ、ヒール高っ。それにあのお腹は羨ましいを通り越して怖いよ」

 ドレスを着た女の人達は物凄く高いピンヒールを履き、お腹は蜂みたく括れている。


「あれはコルセットだよ。世界史の授業で出てきたろ。過熱していくお洒落は端から見りゃ滑稽だよな」

ヒールはより高くより細く…足を踏んだら穴が開きそうだ。

 ウエストは極限まで細く…食事どころか水や息をするのも苦しそう。


「そう言えば、ゴングロなんてあったよね。なんで男の人がみんな半ズボンを履いているの?」

男の人をみんな半ズボンに白タイツを履いている。

 子供なら可愛いんだけど、渋いおじさんやイケメンが履いてると笑いを我慢するのが大変だ…豪が履いたら、色んな意味で見てみたい。


「半ズボンは非労働者、貴族の証だよ。最も、ここじゃ八百屋のおっさんから薬屋の兄ちゃんまで愛用しているけどな。この辺は俺達がいた世界と似ているだろ?」

 ちなみにパン屋のおばさんもドレスを着て接客をしている。


「歩くだけならともかく、仕事し辛くないかな?」

 

「あの格好をしてる店じゃねえと客が寄り付かねえんだよ。高いレストランのウェイターがチャラい格好してたら、客足が遠退くだろ?ちなみに汚れ役は奴隷が下層の労働者にやらせているそうだ。下層を作って不満を反らす。為政者の頭なんざ洋の東西、今昔を問わず同じだな」

 豪はそう言って顔をしかめた。


「それで、お義母様はどこにいるの?挨拶に行くのなら私もドレスを着た方が良い?」


「今から作っても間に合わねえよ、俺は良い意味でも悪い意味でも有名だから噂は直ぐに耳に入る、だから感情が消されてなきゃ向こうから来るさ。こっちで青山春香は不自然だからルッカ・バレルで通した方が良いもな」


「ふーん、豪はゴウ・ホソカワ?」


「俺はこの世界じゃゴウ・セクシリアなんだよ。グレイス姓は非嫡出子だから名乗れねえのさ」

 よしっ、決めた。


「それじゃルッカ・セクシリアにしようかな…ねっ、あ・な・た」


「なっ?あ、あなたー?」

 豪の顔が真っ赤になる、相変わらず弄り甲斐あると言うか可愛いと言うか。

 私には戦う力はない、だけど豪と一緒に歩く事は出来ると思う。

 

―――――――――――――――


 その頃、アルマ・グレイスはある報告書に目が釘付けになっていた。


(お、お兄ちゃまに彼女?う、嘘だよね。でも、お兄ちゃまも年頃だし…アルマお母さんに相談しなくちゃ)


 そして、アルマから相談を受けたアコニは


「ゴウちゃんに彼女?アルマちゃん、本当?嬉しいなー、ゴウちゃんの良さを分かってくれる娘がいたんだー。よっし、見に行っちゃお」

 義娘を引き連れて、息子の家に尋ねる事を決めていた。


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