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旅立ちの朝

 派遣員初級講座と書かれた扉を開けると、数人がパイプ椅子に着席していた。

 大きな鬼もいれば、リザードマンもいる。 

 その中に1人だけ人間の女性がいたので、声を掛けてみる。


「すいません、隣に座って良いですかですか?」


「どうぞ。むしろお願いしたいよ。流石に猿人の女が1人でいると不安になるから」

 その気持ちは良く分かる、鬼にしろリザードマンにしろ殺気を放って周りを威嚇しているんだよね。


「良かったー、私は青山春香。よろしくね」


「私はマリアンヌ・ダリア。マリーって呼んでね。春香は試験組?それともスカウト組?」

 マリーは明るい茶髪とそばかすが特徴的な娘。


「一応、スカウトになるのかな?」


「それじゃ、別世界の人なんだ!!私は試験組、派遣員は子供の頃からの憧れなんだ」

 憧れ…マリーは豪の事を知っていたりするんだろうか?


「派遣員で有名な人とかいたりするの?」


「いるよー、特に戦闘班の人にはファンクラブもあるんだから。私は舞姫 雪・ウォーレンさんの大ファンなんだ。他に有名なの雪さんの旦那様の銀狼 ジャック・ウォーレンさん、無官の僧兵 快さん、フェアリークイーン ティターニアさん、魅惑のセイレーン ミティ・ベゴニアさん」

 マリーは派遣員の事が大好きらしく嬉しそうに教えてくれた…豪は不人気なんだろうか。


「そうなんだ、ちなみに戦闘班の主任の豪って人は」「ここで細川様を呼び捨てにしちゃ駄目なんだよ。細川様は女の子には人気がないけど、男の人や派遣員の間では人気が凄いんだから怒られちゃうよ」

 マリーが慌てて、私の口を塞ぐ。


「ほ、細川…様!?まあ、女に人気がないのは分かるけど」


「細川様は怖いからね。口調も荒いし」

 私は豪が怖いってよりも、癒しなんだけどね。

 

「ごめんね、でもあいつにチャラい言葉や軽い口調は合わないし。でも悪気はないんだよ、あの口調は照れ隠しもあるんだから」

 豪の良さは、私が一番知っている。


「あいつ?照れ隠し?春香、細川様とお知り合いなの?」

 豪と知り合いなのが、そんなに驚く事なんだろうか…鬼やリザードマンは私から目を剃らすし。

 これで婚約者です、なんて言ったらどうなるんだろ?


「だって細川様は悪鬼羅刹の豪、破壊の魔王ホソカワ、神殺し魔王って呼ばれてるんだよ」

 うん、今日は豪の好きな豚カツを作ろう。

 そんな事を考えていたら、ドアがダンッ乱暴に開けられた。

 入ってきたのは一匹のオーガ、オーガは部屋をギロリと睥睨すると乱暴に椅子に座った。

 

――――――――――――――――


 講師が入って来ても、オーガの態度は変わらない。


「それではこれから講義を始めます。そこ机から足を下ろしなさい」

 でも、オーガは講師の言葉に耳を貸そうとしない。


「まあ、後から後悔するのは君だからね。これから派遣員の仕事をDVDで見てもらう」


 周りは嘆息を漏らすが、私はそれどころじゃない。

 DVDに出ていたのは豪だった。

 豪は何百と言う魔物に取り囲まられている。

 

「これは戦闘班の細川主任が、増えすぎた魔物の討伐を頼まれた時のDVDです。魔物はドラゴン、キングオーガ、ミスリルゴーレム等約1500、対する細川主任は1人でした。ちなみに大規模魔法は環境保護の為に禁止されています」

 画面の豪は脅えるどこか不適な笑みを浮かべている。

 豪は魔物の群れに飛び込んだかと思うと、一体のミスリルゴーレムの足を掴むと振り回し始めた。


「悪いがお前らは皆殺しだ!!恨むんならお前らの神様を恨むんだなっ」

 画面の中の豪が吠えた。


「あ、悪鬼羅刹の豪だ…」

 マリーが怯えている、でも私には分かる。


(無理してるなー、部屋に入ってきた蚊も逃がす癖に)

 DVDが終わると、部屋は静寂に包まれた。


「それでは細川主任に話をしてもらう」


「先に言っておく、英雄になりたい奴、暴れたい奴は帰れ。それとここは会社だからな」

 豪の視線が例のオーガにロックオン。


「お前の耳は飾り物か?それとも剥製にしてホールに飾られてえのか?」 

 そう言って豪はオーガの顔を鷲掴みにして、床に叩きつける。

 結果、オーガは子供みたいにワンワンと泣く事になった。

いや、オーガだけじゃなく、鬼やリザードマン、マリーも涙目になっている。


(嫌らわれ役か、今日はいっぱい癒してやるか)

 悪名を厭わない婚約者を豚カツにビール、甘いキスと甘い夜で癒してあげよう。


―――――――――――――――


 講義が一通り終わると、マリーが話し掛けてきた。


「春香はこの後どうするの?良かったらみんなで飲みに行かない?」

 マリーの後ろで鬼とリザードマンが手を振っている。


「私は彼氏と買い物をするんだ」


「春香もう彼氏を作ったの?早いなー、やっぱり可愛い娘は違うねー」


「正確には婚約者なんだけどね、…あっ、豪今終わったよ。えー、迎えに来てよー。待ってるからさ」


「春香の婚約者って、まさか?」

 マリーがまさかと、言うのと同時にドアが静かに開いた。


「豪、遅いぞー、さっ、帰ろ。マリー、こいつが私の婚約者の細川豪。盗っちゃ嫌だからね」

 驚いているマリーを、余所目に私は豪と腕を組む。

 もう二度と離れ離れにならない様にと、互いの指を絡ませる。


――――――――――――――――


 今日はグラスランドに行く日なんだが、少し寝不足気味だ。

 それに背中に引っ掻き傷、首筋にはくっきりとキスマークが残っている。

 ちなみに犯人は俺の腕の中で幸せそうに寝息をたてている。

(やべーな、今日、場合によっちゃアコニさんやアルマに挨拶しなきゃいけないんだよな。春香の奴、ファンデーション持ってたかな…って、俺はお泊まりした後の女子高生かよっ)

 絡みついている春香の腕を、解いて台所に向かう。

 久し振りに二人で食べる朝御飯を作ろう、朝の光の中で微笑む春香を見たいから。


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