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魔王+春香=魔王の幸せ

 その日、ルッカ・バレルは1人で掃除の準備をしていた。


「ルッカー、魔王の私室の掃除なんて怖くないの?勝手に入ったら駄目なんじゃなかったっけ?」

 準備をするルッカに話し掛けてきたのは一緒に公爵家で働いていた元メイドで現ハウスキーパー部門主任。


「あいつ昔から仕事に夢中になると、自分の事を疎かにしちゃうのよ。ケーキのコンテンストの時なんて、ちゃんとご飯を食べなかったんだから」


「あいつ?昔から?ケーキのコンテンスト?」


「へっ?私そんな事言った?」

 ルッカが魔王の部屋を掃除しようと思ったのは、復興事業や財政の健全化の為に寝る暇もなく働いているのをみたからだ。


「前から不思議に思っていたんだけどルッカは魔王の事を怖くないの?」


「魔王様が怖い?言葉遣いは悪いけど、人一倍色んな事に気を使っているんだよ。注意する時以外は声を荒げないし」

 むしろ、ルッカには微妙な距離を置いて腫れ物を触る様な扱いをしている。


「だって1人で王国騎士団を倒したんだよ」


「あれは倒したんじゃなく、勝手に気絶したんだよ。それじゃ掃除に行ってくるね」

 王国騎士団は、魔王が空に放った特大の魔法を見て全員が気絶してしまったのだ。


 魔王の部屋には、勝手に入るべからずと書かれているが、ルッカは気にもせずドアを開ける。


「うわっ…なにこれ?」

 ベッドの周りには様々なメモや空の酒瓶が散らばっていた、恐らく寝る直前まで手酌をしながら仕事をしていたんだろう。

 そんな惨状の中、1ヶ所だけ綺麗に片付けられている場所があった。

 ベッドのヘッドボードの上に小さい額縁が置かれている。

 その中には写っているのは、魔王と自分、髪や肌の色は違うが毎日鏡で見ている自分だ。

 最も、魔王と写っている女性は自分より大人びているし、輝かんばかりの笑顔である。

 写真の片隅には見慣れない文字が書かれていた。

「豪と春香?…ごーう!!なんでケーキ屋じゃなく魔王なんてしてんのよっ!!」

 春香としての記憶を取り戻したルッカは驚くより、先に婚約者がケーキ屋ではなく魔王をしている事に憤慨していた。


――――――――――――――――


 仕事をしていたら、もの凄い勢いでドアが開けられた。

 開けたの怒り心頭のルッカさん。


「ルッカさん、どうしたんですか?」


「はぁ?それはこっちの台詞よ!!なーにが笑顔を作るケーキ屋さんになるよっ。っていうか魔王って自分の年を考えろっ!!」

 笑顔を作るケーキ屋さん…それを知ってるの春香ぐらい。


「もしかしなくても春香?チッ!!記憶が戻ったのか?早めに記憶を消さねえと」

「豪、私の話を聞いてるのっ!?それに何さ、死んだ恋人の写真を大事に飾って馬鹿じゃないの?…もう、結婚してるんでしょ?」

 そう言って目を伏せる春香。


「どっかの誰かさんがいなくなってから、ずっと1人者だよ。春香、このままじゃルッカの脳に負担が掛かっちまう…会えて嬉しいが消させてもらうぞ」

 俺は春香の額に指を突き立てた…これで気を送れば春香は消える。


「っざけるな!!あんたが、なんで魔王なんて馬鹿な事してるか分からないと安心して消えれる訳ないでしょ!!きちんと私に分かる様に話して」


「それが守秘義務の関係で仕事でしているとしか…」「魔王が仕事?嘘をつくんならもう少しましな嘘をついてよっ…私にも言えないの?勝手にあんたの前からいなくなったのを恨んでるの?」

 春香の目からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。


「馬鹿野郎っ!!恨んでるの奴の写真を大事に飾る訳ねえだろっ!!それにルッカはジャッドの事を好きなんだろっ?」


「馬鹿、言わないでよっ!!誰があんな甘ったれの女好きを好きにならなきゃいけいないのよっ」


「それでもジャッドは魔王(俺)を倒す為に血の滲む努力をしてるんだせっ!!出でよっ、遠視の窓」

 遠視の窓、勇者がどこまで来ているのか、どれ位の力をつけたのか確認する為のマジックアイテム。

 きっと、頑張ってるジャッドの姿を見ればルッカの意識が強くなる筈。


「義姉さん、僕は昔から義姉さんの事が」

「だ、駄目よ。ジャッド、あの人が死んでまだ半年も経ってないのよ」

 何、このエロビみたいな展開は?


「じ、時間をずらせばっ!!」


「姫様、僕を姫のナイトにして下さい」

「僕みたいな変わり者のナイトになって後悔しない?」

「姫は美しく聡明な方です」

 神、話が違いすぎるぞっ。


「血の滲む努力ねー。これじゃ血を滲ませる努力でしょ」

 うん、春香にアダルト大喜利賞をおくろう。


「それならもう少し前のジャッド君を…」


「ラブール、これからも僕の側にいてくれっ。これからは騎士じゃなく恋人として」

「ジャッド、俺みたいな男女で良いのか?」

 スリーアウト、春香チームの攻撃に変わります。


「なんであんたが大嫌いなナンパ野郎を庇ったの?全部、きちんと白状しろっ」


「だから仕事だって」


「あんたに言わせると、飲み会も仕事になるでしょうが!!キャバクラでキャバ嬢に泣かれたのも知ってるんだからねっ」

 確かに、キャバ嬢の口が悪くて睨んで泣かせた事はあったが…春香、知ってるの?


「あれは田中さんがお気に入りのキャバ嬢に新規の客を連れていくって約束したって泣きつかれて仕方なく」

 田中さんはキャバクラに、はまりまくったケーキ屋の先輩。


「仕事だから仕方なく行ったんだもんねー。分かるよー、豪は田中さんにお世話になったもんねー。分かったからいい加減に白状しろっ」

 次の瞬間、俺と春香は光に包まれた。

 目の前には創竜のオジキ…痴話喧嘩の最中に上司に召喚されるなんて。


「ご、豪。あれ作り物だよね、竜なんているわけないよね」


「あー、あの方は俺の今の雇い主。創世神創竜、ちなみに竜じゃなく神様だよ」

 春香の記憶を消せなかったからペナルティをくらう可能性が高い。

 こうなりゃ、何としても春香の魂は守ってみせる。


「豪よ…いや、ヘタレの戦闘班主任細川豪よ。なっさけないのー、口であーだこーだ言いながらデレデレして記憶を消せないんじゃからな。お前の部下や同僚から嘆願書が届いている。いい加減幸せになれとな。人の娘よ、我の目を見よ、今の豪が何者か分かる…主が望めばルッカとしてジャッドの愛を独占出来る様に取り計らうぞ」

 春香の口が開くまでの時間が嫌になるぐらいに長く感じた。

 そして春香はこう言った。


「ウチの馬鹿が随分とお世話になったみたいでありがとうございます。今度からは私に豪の健康管理や仕事の管理をさせて下さい。豪、また会えたね…今でも誰よりも大好きだよっ」

 春香はそう言って俺に微笑んだ。



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