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魔王様の苦悶

 俺は今日も書類と格闘している。

 処理する量は膨大だけれども、漫画みたいに書類を山積みにはしない。

 あんな事をしたら、目当ての書類を探すのが大変だし、万が一崩れて大事な書類を紛失でもしたら目も当てられない。

 きちんとファイルは色別に分けて未記入の書類はクリアファイルに入れておく…当然、付箋は必須だ。

 何しろここの神からコピー機やノートパソコンの持ち込みを禁止されたので、書類は全て手書き、記入漏れや誤字のミスは洒落にならない。

 紙も、わら半紙みたいなやつだから修正テープは使えないし、西洋文化圏だから訂正印も使えない…訂正印って何回も押すと、見にくくなるんだよな。


(えーと、前王の王妃及び側室の生活保証をして欲しいと…侵略者の魔王に何お願いしてんだよっ!!) 

「おーい、誰かいるか?出来たらルッカさん以外で…」

 どうもあのルッカって娘は苦手だ、春香と顔だけじゃなく性格まで似てやがる。

 春香の転生体かどうかは確認していない…もし、そうだとしたら冷静でいられる自身が俺にはない。


「魔王様、残念ながら私しかいないよ。だって魔王様の部下は復興で忙しいし、前にお城に勤めていたは人は魔王様を怖がって執務室に近づかないんだから」

 返事をしたのは春香と髪や目の色だけが違うルッカ。


「あー、ルッカさん、前の城に詳しい人を呼んで来てもらえますか?」


「呼ばなくてもここにいるよ」

 何でもルッカは俺付きの秘書になった時に城の情報を詳しく教えられたそうだ。


「他には誰もいないのか?」


「いる訳ないじゃん。魔王様が賄賂を貰っていた大臣を怒鳴り散らしてから、怖がって私以外は誰も執務室に近付かないんだよ」

 俺としては貴女に怖がって欲しいんだけど…そしたらウジウジモヤモヤしなくて済むし。 


「それじゃ相談がある。城で前王の王妃と側室が働ける場所はあるか?ハウスキーパー部門や厨房で人手が足りないって要望は来てないか?」

 ハウスキーパー、早い話がメイドなんだが、メイド服は動きにくいから廃止にして名称もハウスキーパーに変更。

 ハウスキーパーだから給侍や接待の役割はなし、厨房もセルフサービスに変えた。


「ある訳ないじゃん。あの人達はお靴も1人で履いた事がない人達だよ。教育は受けてるから口は回るけど、生活能力はゼロに等しいんだから」

 教育を受けてるんなら、あそこに回すか。


「それじゃ字が上手い奴を書類作成部門に回して計算が出来る奴には帳簿をつけてもらう…何も出来ない人にはご実家に帰ってもらうか」


「魔王様はハーレムとか持たないの?ジャッドもハーレムは男の夢だって言ってたよ」

 ジャッドはこの世界の勇者で…きっとルッカの想い人。

 公爵家の跡継ぎだから、側室は義務みたいなものだろうが幼馴染みにハーレムが夢だ、なんて言うか?


「この国にそんな金なんざねえだろ?税は国の物であって王の物じゃねえんだよ。それにハーレムなんざ作ってみろ、コネを作りたい貴族が娘を差し出して重役をねだり始めるのがオチだ。それに俺は泣いて怯えてる娘を無理矢理に抱く趣味はねえよ」

 逆に侵略者の魔王に好きこのんで抱かれたいなんて、怖い女性は遠慮したいし。


「それじゃ魔王様の夢はなに?」


「俺の夢はとっくの昔に醒めちまったよ…魔王がケーキ屋なんざ出来る訳ねえからな」

 ケーキ屋が出来ても、あいつがいないんじゃな。


――――――――――――――


 ようやくジェイムの復興も軌道に乗ってきた…後は勇者が来て俺を倒してくれたら、このブラック企業勤務がやっと終わる。

 ここで大事なのは国民感情をいかに上手く勇者に向けるかだ。

 そしてその為に使う台詞は、派遣員台詞集に書いている”豚と民は肥えらせてから食べるもんだ”に決定。

 準備1、戦闘班所属じゃない派遣員を帰す。

 準備2、城に宝箱と休憩ポイントを設置する。

 準備3、神の遣いに仕事の引き渡しを頼む。ファイルの背表紙を張り直す。

 準備4、ルッカの前世の記憶が戻ったら直ぐに消せる準備をしておく。(ルッカの体への負担を考慮)

 準備5、依頼主の神への報告書の作成及びジャック達への待機指事。

 そして一番大事な準備6、居酒屋の予約を入れておく事。今回の依頼に携わった派遣員の慰労会を開かなきゃいけない。

 お土産のケーキはパテシィエ細川豪のお手製(子供のいる家庭には人数分のキャラクターケーキを渡している、君達のお父さんお母さんがお仕事を頑張ってくれて助かりましたって、メッセージカードをつけている)


「さあ!!勇者よ何時でも来い。お前にも残業の苦しみを味わせてやる!!城に来たら驚くぞ、王妃と側室達は資格を取って今や立派な事務員だ!!ハーレムなんて無駄な出費を許してもらえると思うなよ!!」

 何しろ紅茶のティーバッグを1回使って捨てたら怒るくらいなんだからな。


―――――――――――――


 ルッカは忙しく働く魔王を見て思う。

 あの人とは前に会った事がある、でもそれが何時なのかは思い出せない。

 ただ、彼がふと悲し気に漏らした”もう、ケーキ屋は開けない”その言葉を思い出す度に胸が締め付けられる様に痛む。


幕間が終われば本編に、次の幕間世界は流行りのあべこべ世界かも

「魔王様、暑苦しくてむさ苦しくて素敵!!」

「嫌味にしか聞こえねー」

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