魔王の疼き
俺が今回派遣されたのはスフェールという国。
毎度の事ながら俺は今回も魔王、王を倒して国を占拠した後に勇者に倒されなきゃいけない。
それでもって今は、スフェールの首都ジェイムで見回りをしている。
ジェイムにはオーガやオークの低く野太い声が響ていた。
「働け、働け!! この国は既に魔王様の物。働いて国を豊かにするのがお前らの務めだ」
オーガが叫ぶ。
「どうした!!手が止まっているぞ」
オークの怒号も飛ぶ。
ちなみ2人とも俺が連れてきた派遣員。
今はジェイムに下水道を設置中で、次々に石が運ばれていく。
そんな時、1人の老爺が弱々しく倒れた。
「じじぃ!!何をしている!」
「すいません、許して下さい」
泣きながらオーガ(カルモ・モデスト現場監督、新婚ホヤホヤ)に頭を下げる老爺。
「魔王様の御言葉を忘れたのか?体調管理は労働者の務め、体調の悪い時には就業時刻30分前には連絡をしやがれ!!良いか!!1人の体調管理を怠ると他の人に迷惑を掛けるんだぞ!!早く立って医務室へ行け」
そう言って老爺を優しく抱き起こすカルモ。
「今日は無断欠席扱いになるからな。これで孫に玩具を買える日が遠のくぞっ!!…明日、残業をすれば玩具問屋に連行してやるから覚悟しろっ」
それを見た労働管理者のオーク(レアーレ・シンチェロー、3児のパパ)が勤務表にチェックをいれる。
労働者は健康が資本、無理矢理働かせてもモチベーションが下がって効率が低下するだけだ。
魔王の仕事は征服して終わりじゃない、最低でも財政の現状維持は必須になる。
勇者が国を取り返しても金がなく速攻滅んだんじゃ、派遣員に仕事を依頼する意味がないんだし。
ちなみに今回の条件は財政の建て直しも入っている、有り難い事に何をしても良いとの事。
酷い時には城にある装備や美術品を売らないで欲しいとか、識字率を上げないで欲しいとか言われたりする。
「おう、レアーレ調子はどうだ?」
「豪さんお疲れ様です、なんとか期限には間に合いそうですよ。しかし、酷い王様ですよね、町の子供を飢えさせておいて自分達は美術品の収集をするなんて。うちの坊主と同い年の子が、スリをしていたんですよ。弟にパンを食べさせたいって泣かせるじゃないですか」
ちなみに子煩悩のレアーレは既に泣いている。
レアーレの言う通り、スフェールは王族が贅沢三昧の生活をしたお陰で真っ赤っかの大赤字。
俺が最初にしたのは王様のコレクションの売却、正直焼け石に水だった。
その後、阿呆みたいに高い税率を下げて公共事業で人を雇いインフラの整備。
「豪さんご苦労様です。今回の勇者はどんな奴等ですか?」
俺はカルモに勇者パーティーと書かれたファイルを手渡した。
「今回の勇者はエクラ公爵家の次男ジャッド・エクラだ」
ジャッドは金髪さわやかイケメン、しかも頭も性格も良いらしい。
「この人、豪さんと同じ猿人種ですよね…現実は残酷ですね」
ジャッドの写真と俺を見比べて溜め息をつくカルモ。
「ウッサイ!!魔法使いは王家の三女、僧侶はジャッドの義姉、戦士はエクラ公爵家に仕えていたそうだ」
魔法使いはテシナンテ・スフェール(銀髪ちびっ娘)、僧侶(金髪天然系セクシー娘)はアンソル・エクラ、戦士は公爵に仕えていたラブール・イネブラン(赤髪ボーイッシュ)の4人。
仕事じゃなきゃ、こんなリア充な勇者の為には苦労はしたくないんだが、父親から1度引き受けた仕事は手を抜くなと、教えられた俺はきちんとこなしている。
「くぉら!!そこのお前メットはどうした?怪我をして痛いのはお前、泣くのは家族ってのが分からねのか?そこ、高所作業中にくっちゃべるな!!慣れた作業では油断が怪我のもとになるんだぞ」
だから労働者への配慮も忘れない。
「さすが魔王様、良く気が付くね。でも見回りの予定時間が過ぎてる事にも気付いて欲しいな」
俺に話し掛けてきたのはルッカ・パレル、公爵家に勤めていたメイドで勇者の幼馴染み。
この国の神が言うには、ルッカは勇者の想い人らしく側に置けば確実に勇者が助けにくるらしい。
こいつは春香と似てるからやりにくいんだよな。
ルッカには俺のスケジュール管理をさせているんだが、世話焼き女房気質なのか緻密にスケジュールを組んでよこす。
「書類は粗方片付けた筈だぞ」
「明日の分を繰り越したんだよ。頑張って」
春香じゃないとは分かっているんだが、胸が疼く。