魔王の修行場
アルマにたっぷりとお説教をされた次の日。
俺とジャックはサイスの修行を始める事にした。
サイス・レギューム、14歳。
身長160で中肉中背、髪はくすんだ茶色、顔はおっとりとした癒し系が最上級の誉め言葉だと思う。
農家の息子だから武芸や勉強の経験は殆どなし。
「豪さん、サイスをあそこに放り込むんですか?」
「サイスは物になりそうだからな。それに3ヶ月で強くなるにはあそこが一番手っ取り早い」
大会まで後3ヶ月、普通にやったら筋肉も間に合わないし、ドーピング系は基礎が出来ないからな駄目だ。
「…物にならなきゃサイスが壊れますよ」
「俺の目を信じろ。何よりあそこは俺が作った自慢の修行場だぜ」
「経験者から言わせてもらえればトラウマにしかならない悪趣味な修行場ですよ」
ちなみにジャックですらそこでは何度も涙目になっている。
豪さん特製強制チート魔窟にサイスを連れて行く。
魔窟があるのは事務所がある世界。
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僕の名前はサイス、今何が起きてるか信じられません。
ゴウさんの部屋にいたと思ったら、気がつけば目の前にはおどろおどろしい洞窟がありました。
「それじゃサイス、これを持って洞窟に入って来い」
ゴウさんに渡されたのどこからどう見ても木の棒。
「えっ!?まだ何も教えてもらってないんですけど?」
「サイス、頑張れ。俺にはそれしか言えない」
何故かジャックさんは目線を合わせずに励ましてくれました。
「それじゃ地獄に逝ってこい!!」
豪さんは僕の背中を文字どおり蹴飛ばしてくれました。
洞窟に押し込められると、ダンッと重々しい音が背後から聞こえて来ました。
「出口がない?ゴウさん助けて下さい!!」
僕は傷薬どころか食料も水も持っていません。
「サイス、この洞窟から出たければ前に進め。怪我をすれば死ぬ前にヒールが掛かるし腹が減れば魔物を倒して食えば問題ない」
…正直、不安しかありませんが、とりあえず前に進むと壁が道を塞いでいました。
「よしっ、サイス。まずは武器に慣れろ。壁を斬ったり突けば壁が削れる。正しい使い方をすれば壁はごっそり削れる…ただし、時間が掛かると壁が押し迫ってくるから気をつけろ。でも安心しろ、筋肉の耐久に限界が来たらヒールで回復するから」
つまり、時間内に削らなければ壁に潰されるんですね。
それから僕は必死になって壁に攻撃を加えていきました。
疲れて座り込もうとしたらヒールが掛かり、腕に力が入らなくなるとヒールが掛かる。
何時間、何十時間そうしていたでしょう。
突然、洞窟に低い声が響いてきました。
「サイス、次は壁に線や点が浮かぶからそれに合わせて攻撃をしろ!!ここでは袈裟斬り、逆袈裟斬り等、色んな斬り方を覚えてもらう」
その次は動く壁を相手に足運びや動く相への攻撃を覚え込まされました。
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サイスは思った以上に成果をあげている、これなら派遣員にスカウトして転生をさせるのも有りかもしれない。
「しかし、改めてみると悪趣味極まりない洞窟ですね。重力増加を掛けてるし酸素はわざと薄くしてあるし、おまけに時間の流れまで歪めてるんですから」
「何ならお前も上級者専用の魔窟で修行するか?最近、パワーアップしたんだけど、まだ利用希望者がいねえんだよ」
「そりゃそうですよ。派遣員の大抵の奴は魔窟がトラウマになってますからね…豪さんまだ昔の女が忘れられないんですか?豪さんから好意を見せなきゃどんな女もついてきませんよ」
昔の女か…
あいつが今の俺を見たら何て言うんだろうな。