魔王の想い
アルマが満面の笑みで帰ったのを確認して俺は事務所に移動した。
そんな俺を待っていてくれたのは、俺の決済印を待っている事務員と大量のメール。
(新しいエーテル広告と美少女戦士グループの敵役依頼、キャバクラの営業メールに勇者への技の指南依頼か)
ちなみにキャバクラの営業メールの呼び方が豪じゃなく淳さんになっていた。
きっと淳って男に送ったメールを名前だけ変えて出したんだろう。
「豪さん、もう少し事務仕事を片付けてもらえませんか?決済待ちがたまってますよ。ところで妹さんから新しい情報は聞けましたか?」
追加の書類を俺のデスクに置いたジャックが話し掛けてくる。
「どうも、あの世界の主神やっちゃったみたいだぜ」
「やっちゃっいましたか」
「ああ、美神君やっちゃったよ」
美神、やっちゃったな。
アルマから俺が留守にしてる4年の話を聞いた感想がそれだった。
神は自分が司る力を一番大切にする。
魔力を大切にする神もいれば癒しを大切にする神もいる。
そして神に成り立ての時には大抵同じ失敗をしてしまう。
自分の司る力を推すあまり世界のバランスを崩してしまうのだ。
魔力のみが優先されればマナの枯渇に繋がり、癒しが優先されれば痛みが分からなくなり他人の痛みが理解出来なくなる。
大抵はその世界の主神や統括してる神がそれとなく注意するんだけど、この世界の主神は問題の美神ブライネスト・ブレイブ。
表立って注意できる奴がいない。
早い話がパパの跡を継いだ新社長が自分の好みにあった商品のみを販売してる感じだ。
「それで残りの勇者には会うんですか?ちなみにみんなで豪さんが嫁を連れて来れるか賭けてるんで少しは盛り上げて下さいよ」
俺の幸せを賭けの対象にするなんて、本当に上司思いの部下をもって幸せだよ。
「微妙だな。アンジェは神官だから主神の影響を諸に受けてるだろうし、リチェルは俺との縁が浅い」
アルマだって予定では顔を会わせないで旅立つ予定だったんだし。
「勘弁して下さいよ、妹さんのあれは身内補正なんですからね。前に助けた姉妹とかはどうですか?」
そう、アルマの懐きっぷりはあくまで俺が兄だからなんだよな。
「アリアとマリアか。屋敷務めのメイドみたいだから顔を合わせる必要がないだろ」
「ドラゴンとか神とか相手なら平気で喧嘩する癖に、なんで女絡みになるとそんなにヘタレなんですか?もう良い年なんですから、しっかりして下さいよ」
ドラゴンは首を折ればお終いだし、神も殴ればお終いだけど女を力ずくってのは流儀じゃない。
「派遣員は世界の安定が第一で、次は依頼の遵守。自分の事は後回しが当たり前だろ」
「それと妹さんにあげた剣ですけど洒落にならない力を付与してましたよね。あれは自分を斬らせる為でしょ…全くバングルに記憶消去までつけちゃって」
普通の剣じゃ俺を傷つける事は出来ないし、俺を倒した後に俺の事を忘れていても周りは兄を倒したショックが原因と思うだろう。
「アルマには笑っていて欲しいんだよ」
あの笑顔を思い出せば俺は辛い役目でも耐えれる。
「俺達は豪さんにも笑って欲しいんですよ」
もし、アルマに本当の事を伝えたら今と同じ様に笑ってくれるだろうか。
「ありがとよ。そういやあのサイスとか言う餓鬼はどうした?」
「ちゃんと家に送って行きましたよ。そういやサイスの幼馴染みが騎士隊や神官隊にいるそうです…サイスから面白い事を聞いたんですよ」
何でも3ヶ月後に勇者騎士隊、勇者神官隊、勇者魔術師隊によるトーナメント戦があるらしい。
「ジャック、サイスを鍛えるぞ。討伐騎士隊の代表としてな」
俺やジャックが出たら確実に優勝出来るが、それじゃ面白くない。
しかし、美しないと虐げられていたサイスが勇者隊の連中も倒したら痛快だと思う。