魔王と妹
暴れる馬を抑えるのに必死な様で騎士達の陣形が乱れている。
(指揮系統が脆いな。子爵の娘のアルマに使われるのを良しとしない奴がいるんだろうな。嫌われついでに説教してやるか)
「騎士ってのは人馬一体になってから名乗りやがれ!!そのまんまじゃ諸国の笑い者になっちまうぞ。混乱してる時に頭を孤立させてどうする!!副隊長は馬を捨てて隊長の護衛につきやがれ。この状態で横から衝かれたら全滅しちまうぞ」
「全員私の話を聞け!!馬が落ち着いた者から退避せよ。指揮はクロー殿の指示を仰げ!!殿とあの男の相手は私がする」
アルマの話を聞いて安心したのか騎士達が次々に退避していく。
「アルマ殿、お1人で戦うのは無茶ですぞ。ここは老い先短い私が残ります」
「大丈夫です。私は剣の勇者アルマ、怪我をせずにこの場を納めてみます。よって増援は無用です」
「…分かりました。ご無事を祈ります」
この騎士団劇場は何時まで続くんだろう、そう思っていたらアルマが下馬して俺に近づいて来る。
アルマは俺の目を見据えたまま、触れんばかりの距離まで来た。
「お…」
「お?大人しく拘束されろってか?」
「お兄ちゃまの意地悪、お馬鹿!!アルマが一生懸命に騎士隊をまとめたのに、泣いてる子もいたんだよ。あんな風にしたらお馬さんを使った鍛練が何日か出来なくなるじゃない」
今、お兄ちゃまって言ったよな。
「アルマ、俺が分かるのか?」
「アルマの事を4年も放ったらかしたお兄ちゃまでしょ。お迎えに行かなかったのは護衛のお仕事があったの!!お仕事に私情を持ち込むなって教えたのお兄ちゃまだよ!!」
確かに騎士隊の隊長が仕事中にお兄ちゃまモードになる訳ないよな。
ちなみにアルマの目からは涙がこぼれ落ちていて非常に気まずい。
「お、俺だって仕事だったんだし」
300人を越える聖なるハエ騎士団なんて気持ち悪い奴等を相手にしてたんだから。
「お手紙もお誕生日プレゼントも贈ってくれなかったじゃない。お手紙書きたくても宛先分からないし、お髭伸ばす暇はあっても僕に手紙を書く時間はなかったんでしょ」
「俺にも事情ってものが…おい、ジャック、どこに行くんだよ」
ジャックはサイスを連れて、この場から離れようとしていた。
「鈍感男は素直に謝って4年振りの家族サービスにいそしんで下さい。アルマちゃんだっけ?俺は豪さんの部下のジャック・ウォーレンだ。アンタの事は豪さんから耳にタコが出来るぐらいに聞いたよ」
流石は俺の腹心の部下、ボーナス査定に考慮しておこう。
「お兄ちゃま!!」
「はいっ!!」
「アルマにお土産は?僕、久しぶりにお兄ちゃまの作ったお菓子が食べたいな」
泣いたカラスがなんとやら、ジャックの言葉に気をよくしたのかアルマは満面の笑みになっている。
「お土産は髪飾り、香水、剣、バングルを買ってきている。それにお菓子の材料も買ってあるよ」
ちなみに部下からはロリシス豪なんてあだ名をつけられた。
「やったー!!だからお兄ちゃま大好き!!お兄ちゃま、お膝に座っても良い?」
どうやら、俺がいなくなってからアルマは甘える相手がいなくなったらしい。
その上、剣の勇者としての責務もありいっぱいいっぱいになっていた様だ。
ただ、色々と成長したアルマの体はとんでもなく危険だった。
俺の膝に座りながらべったりくっつかれた時は全部カミングアウトして嫁として連れて帰ろうか真剣に悩んだ。
「そういやアンジェ達は元気か?」
「…ここ1、2年お話してないんだ。僕の周りには騎士隊の人がいたしアンジェの周りには神官さんがいたから」
どうやら、騎士・神官・魔法使いがそれぞれの勇者を擁して権力争いを繰り広げているらしい。
ここはいっちょでかい風穴をあけてやるか。
アルマの態度ま真面目な性格故のものでした。
伯爵家の部下に侮られない為に強い毅然とした隊長を演じてた訳です