魔物討伐騎士のお仕事
リクエストがあった魔王派遣の更新です
テメエの仕事に疑問持った事がない奴はいねえと思う。
俺がパティシエをしてた頃は売れ残りを廃棄する度に虚しい思いをしていたし、介護をしているダチは感情を割り切れる様になった自分を嘲け笑っていた。
それは派遣員になっても変わらねえ。
(これを守れってのかよ。スラムなんぞを作る貴族を守る必要があるのか)
俺は目の前にでにやついている男を見て思わず溜め息を漏らした。
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有り難くもない魔物討伐騎士の任命を受けて執務室から出るとアルマ達が待っていてくれた。
「お兄ちゃま、お仕事に行っちゃうの?」
寂しさを我慢してるのかアルマが目をウルウルさせながら上目遣いで話し掛けてくる。
「ゼイー・ゾウル子爵の館にファントムナイトが出没するから倒して来いだってよ」
ゼイー・ゾウル子爵の館は国の東端にあり普通に歩けば三週間は掛かるだろう。
「なんでゴーさんなんですか?ファントムナイトなら神官が行けば済むのに」
アンジェも俺が旅に出るのが不満らしく頬を含ませている。
ファントムナイト早い話が幽霊騎士、普通は高位の神官に頼むんだが、この国では騎士と神官は仲がよろしくない。
「考えてみろ。ファントムナイトは元は騎士なんだぜ。そいつが館に現れるってのは貴族様はお外に漏らしたくない話なんだよ」
元部下が自分を恨んでる証拠になるんだから。
「しっかしゴーの兄貴も面倒に巻き込まれる体質だよな」
リチェルは苦笑いを浮かべながら話し掛けてきた。
「リチェル、お前のお袋さんにゼイー・ゾウル子爵の事を聞いておいてくれ。さてと、俺は旅支度をしてくるから後は頼んだぞ」
予定ではこの後、王子様王女様との会食らしいが今は仕事を優先させてもらう。
俺が面倒臭いってのもあるが、任命と同時に命令を下したのは王子様王女様と俺を会わせない為なんだろし。
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必要な物を買い揃えて家に戻ると、リチェルの母親リーゼが待っていてくれた。
「ゾウル子爵は国の東端に領地を持つ男です。武力・知力・性格ともに最低に近い男ですがゾウル家の領地には金山がある為に裕福で国政での発言力は伯爵家に劣りません。ただ税が他の領地の倍近い為に人心は離れております」
流石は元暗殺者、情報はきちんと抑えてるな。
「増税が好きなゼイー・ゾウル様か、なんとも皮肉な名前だな。それで腕のたつ騎士はいないのか?」
「ゾウル子爵は有力商人の次男や三男を騎士として取り立てている様です。その為に領内の厄介事は配下の荒くれ者にあたらせているらしいですよ」
商人の才が低い子供を騎士として取り立てて商人とのパイプを作ってんだろうな。
そいつらとファントムナイトを戦わせて怪我をさせたら大問題、だからといって荒くれ者を館に入れるのは風聞がよろしくない。
「しかし、そんなで良く領地を納めていられるな。そんなんで人望がなきゃ領民が逃げちまうと思うんだがな」
「先代から仕えていた騎士の中に高潔な人物がおられて、その方がいたお陰で波風がたたなかったそうです」
いたお陰か…
「ありがとう、助かったよ。アルマ達には旅に出たと伝えておいてくれ」
付いて来るなんて言われたら困る、今回はアルマ達が知るには、まだ早い物を見る事になるのだから。
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ゾウル子爵領内は奇妙な所だった、開墾も進んでいるし街道も整備されている。
それに反して領民はやせ細り身なりもみすぼらしい。
(領民は恩恵を受けれねえってか。これだから支配階級はいけすかねえだよな)
街に入ると貧富の差はさらに歴然としていた。
街を歩く騎士やご婦人方が舞踏会の帰りじゃないかってぐらいに着飾っている。
そいつ等を避けて歩いてるて橋を超えたら雰囲気をは一変した。
淀んだ空気に壊れかけの建物、余所者を受け付けない住人、何日も飯を食っていないだろう子供達。
所謂、スラム街だ。
「すまねえが、この辺に宿屋はねえか?」
「ああん?宿屋に泊まりてえなら表に行きな」
普通の旅人なら声を掛けるのを絶対に避けるであろう街人Aさん(ごつめのおじさん)はニコリともせずに返答してくれた。
「俺は香水の臭いを嗅ぐとジンマシンが出ちまうんだよ。安くて飯がたらふく食えりゃそれで良い」
それに表の宿屋だと11才の餓鬼を1人で泊めないだろうし。
「知るか、自分で探しな」
「これで頼むよ。出来たら可愛い姉ちゃんを呼べる所を頼むぜ」
俺はほんの少し、所謂心付けってやつを手渡す。
「話せるじゃねえか、こっちだ。付いて来な」
連れて来られたのは木造平屋のオンボロ宿屋。
「いい宿屋じゃねえか。ありがとよ」
宿屋なんて寝れれば充分なんだし、ヤバければ向こうに戻れば良いだけだ。
何よりこの手の場所には裏の噂が集まる。
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宿屋を予約し、領主ゾウル子爵の館に移動。
(悪趣味だね。なんで金持ちってのは家を派手にしたがるんだろうな)
真っ赤な壁には植物や動物の形にかたどられた金属が所狭しと付けられ、窓の金具は金ぴか、ドアノフも金ぴかだ。
「依頼を受けてきた魔物討伐騎士のゴー・セクシリアです」
案内された屋敷内も派手。
やたら派手な刺繍がされたジュウタンに一度も使われていないピカピカの鎧。
下手なんだか上手いんだか分からない絵画、そこかしこにいるメイドさん…。
メイドさんだけはうらやましい。
「ゼイー様、魔物討伐騎士が来ました」
「入ってもらえ」
俺は貴族の息で魔物を倒しに来てやったのに上から目線の言葉が聞こえてきた。
ド派手な部屋の中にいたのは指輪を何個もつけた派手なイケメン。
せめて椅子からたって迎えろよ。
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