魔王とジャック
ただいま反省中です。
子供の頃、通信簿に細川君はお調子者な所があると書かれた事がありました。
三つ子の魂百までも・雀百まで踊り忘れず・細川豪、大人になってもお調子者。
11才の餓鬼がAランクの魔物を瞬殺すれば国に警戒されるのは当然で、俺は魔物討伐騎士なんて者に任命されてしまった。
魔物討伐騎士、騎士と言えば聞こえは良いが領地はおろか城にも許可なければ入れないなんちゃってナイト。
早い話が辺境を回って魔物を無償で退治する便利屋さん。
言い訳をさせてもらえれば、この世界のAランクは俺が良く行く世界ならCかDランク程度。
それに魔王になるにはSランクの魔物に圧勝する必要がある…。
「ゴー様、もう少し考えてから行動をして下さい。魔物討伐騎士になったら勇者の育成に不都合が生じるんですよ。どうしてAランクの魔物に圧勝したんですか?」
天使シャインの叱責が俺の心に響く、天使とは神の教えを人に伝えて導く存在、早い話が説教のスペシャリスト。
しかも嫌になる程、正論だし。
「アルマ達が見てたからつい、な。…すいませんでした、調子に乗ってしまいました」
いくら人外とはいえ、俺は派遣社員。
この世界の神は派遣先の社長で、シャインは課長辺りになるかもしれない。
「過ぎた事を責めても仕方ありません。それでこれからどうするんですか?」
「この世界に転移魔法はあるのか。あるんなら転移魔法を使って月に2、3回アルマ達に会いに来るよ」
「確か宮廷魔術師が数ヶ月を掛ければ出来る筈です。…まさか、1人で使えるんですか?」
「当たり前だろ?派遣員の仕事は1時間遅れたら世界の壊滅、10分遅れたら勇者パーティーの全滅、1分遅れたら伝説の魔物が復活って言われるぐらいに時間との勝負なんだぜ?」
魔王や悪役の登場のタイミングはかなり厳しい。
変身ヒーローが二段階変身が出来る様になる直前に猛攻を掛けたり、勇者が必殺技まで後一歩という所で人質をとらなきゃいけない。その為には転移魔法は必需品。
「分かりました。神の奇跡で転移魔法を使える様になった事にしておきます」
「助かる。そういや魔族ってどの辺に住んでるんだ?」
「魔族は大陸の北端、不毛の地エグジルにいます」
不毛の地にエグジル(追放)か。
魔族は追いやられたって所だな。
「魔族の文明や軍隊はどの程度なんだ?」
「文明は無いに等しいですね。魔族は部族間で争っているので魔族の軍隊はありません」
文明がないってのは、不毛の地に住んでるから余裕がないんだろう。
「つまり魔族に力をみせつけりゃ統一は可能だと…魔族の中で強い奴はいるのか?」
「バァンパイヤ族を率いるブラッド伯爵、ドラゴン族の魔剣将軍ファング、デビル族のカース大帝、サュキバス族のサリア女王、他に獅子戦士レオネアやアンデットマスターダークネビュライが有力です」
…若干、かなり不安になるぐらいに自己主張全開な名前だよな。
「倒すのは楽だけど統一となると苦労しそうだな」
魔族は力が強いだけにプライドが高い。
屈辱ある生より誇りある死を選びたがる。
俺に言わせりゃ馬鹿だ、俺なら土下座で生き延びれるなら額に土をつけるし、いくらでも泣き喚いてみせる。
…何回、創竜の親父に土下座した事やら。
「魔族に接触なさるんですか?」
シャインに侮蔑の色が浮かぶ、天使様も魔族を差別してるらしい。
「それがお前達の神様からの依頼だからな。よっぽどの事がない限り仕事はやり遂げるさ」
そして最終的にはアルマ達に殺されると…
―――――――――
シャインとの密談を終えた俺は事務所に来ていた。
今回の依頼には裏になる可能性が高い、うまくやるには腹心の部下が必要になる。
「ジャックはいるか?いなくても、とっとと出て来い」
タイムカードで出勤は確認済みなんだけど。
「ロリコンもといロリ豪さん。なんの用ですか?」
「ジャック、それじゃもといになってねえだろ。誰がロリコンだ?」
この口の悪い男はジャック・ウォーレン。
引き締まった体に鋭い目つきに短くかった銀髪、そして俺と同じく強面。
見た目はヤクザの若頭といった感じだ。
「11才のいたいけな少女に30過ぎのごついオッサンがにやけてたらロリコンにしか見えないですよ。でも安心して下さい、警察のお世話になる前に病院に放り込んであげますので」
「お前には上司を敬うって気持ちがねえのか。俺みたいな品行方正な男がロリコンな訳ねえだろうが」
アルマに、にやけてるのは否定出来ないが。
「部下に無茶振りしない優しい上司なら労るんですけどね。…それで何か面倒事ですか?」
「ああ、俺が今やってる仕事が裏扱いになりそうなんだよ。何年かしたら力を借りるから頼むぜ」
俺はあの世界に、その辺の魔王よりたちの悪い奴を連れて行く。
ジャック覚えてる人いますか?