幼馴染みとの再会
体中に冷や汗が流れる。
今、アルマがお兄ちゃま嫌いって言ったよな…。
女に嫌われるのには慣れているが、妹に嫌われるのはキツい、ヘコむ、落ち込む。
「そうですか。アルマはゴーさんを嫌いになったんですね。それならゴーさんにはクロワ家で生活してもらいます。お母様もゴーさんに会いたがっていますから」
「ア、アンジェいつからいたの?」
声をした方を振り向くと、アルマと同じぐらいに可愛い少女が立っている。
緑色の長い髪の毛にシスター服、癒やしの勇者アンジェだ。
「アルマがゴーさんに怒った所からです。ゴーさんには私のナイト様になってもらいたいですし」
(俺がナイト?騎士様?無理、無理、無理ー。あんな堅苦しい仕事は俺に不可能だって)
「お兄ちゃまは僕だけのお兄ちゃまなの!!お兄ちゃまには僕の剣術のお師匠様になってもらうの」
アルマのお兄ちゃま攻撃はかなり効く!!お兄ちゃんじゃなく、お兄ちゃまなのが大事。
スポーツ元気系な僕美少女アルマが甘えた様にお兄ちゃま、この仕事を終えても寂しくない様にボイスレコーダーに録音しておこう。
ちなみにアンジェは癒し系美少女、ポワボワした娘がゴーさんと懐いてくる声も録音決定。
「だってアルマはゴーさんを嫌いなんでしょ。でも私はゴーさんを大好きだもん」
「僕の方がお兄ちゃまを大大大好きなの!!」
今はこんな風に言ってくれているが思春期を迎えたら兄貴キモイとかゴー?無理、無理、無理!!気持ち悪いとかになるんだろうな。
「お久しぶりですゴーさん。また会えてアンジェは嬉しいです。ゴーさんは法術を使えますか?良かったら私に教えて欲しいんですけど」
騒ぐアルマをスルーして上目遣いで見つめてくるアンジェ、キャバクラのお姉ちゃんのバック買ってちょうだい攻撃とは威力が違う。
「武術、魔術、法術は一通り使えるよ。さてアンジェに問題だ。魔術と法術の違いは分かるか?」
「はい、法術は神様の御力をお借りして治癒や浄化の奇跡を起こします。一方、魔術は精霊の力を借りて敵を滅する為のものです」
まさに見本解答。
「そう、それじゃパーティーにおける神官に求められる役割はなんだと思う?」
「治癒と状態回復です」
どうですとばかりに胸を張って答えるアンジェ。
「浅いな。神官に求められる一番の役割は生き延びる事だ。他の連中が倒れても神官が生きてりゃ回復が出来る。法術なら神官長や天使にも習えるだろ。それなら俺は体術と医術を教えてやる」
俺の法術は色んな世界のが混じり合った術だし。
「お兄ちゃま、なんで神官に体術と医術が必要なの?」
アルマがここは僕の居場所なんだよっ!!と言わんばかりに俺の左手を握ってくる。
「神官の杖は魔物の血で汚れると力が半減しちまうんだよ。それに体術を覚えれば相手の攻撃を交わせるだけじゃなく倒れた仲間の所にすぐに駆けつけれるだろ?」
「ゴーさん、医術なんて覚えなくても法術があれば回復を出来るんじゃないでしょうか」
今度はこっちは譲りませんとばかりにアンジェが俺の右手を握りしめてくる。
「あのな、骨折一つとってもどこの骨がどんな風に折れてるか、元の骨はどんな形かイメージ出来なきゃきちゃんとした治癒は無理なんだよ。状態異常も何の毒によるものか見極めなきゃかえって悪化させかねないんだよ」
「医術は良いですけど体術を習ったらムキムキになっちゃいませんか?」
「鍛え方によるさ。しなやかな体つきの女性武道家もいるだろ?」
俺がアンジェに教えようと思っているのは合気柔術。
あれを覚えれば筋肉の動きや骨の関節を熟知できるし。
「アンジェ、手を離して!!お兄ちゃまは僕と剣術のお稽古をするの!!」
「アルマはもう習ったらでしょ?今度は私が体術と医術を教えてもらう番です」
この娘達は、何時でも俺を慕ってくれるだろうか?
俺を打ち倒した時に見せる視線は憎しみだろうか?
悲しみだろうか?
憐れみだろうか?
「ゴーちゃん、お母さんとお話をするわよー。この5年に何があったのかゆっくりと教えなさい」
「アコニおば様の頭に角が見える!!」
「アルマ、2人でお勉強をしましょ。ゴーさんまた後から」
とりあえず今の視線は憐れみだった。
一通りお説教が終わった後の事。
「ゴーちゃん、明日からアルマちゃんと一緒に初等部に通いなさい」
ちなみに俺の最終学歴は製菓の専門学校、仕事はパティシエだった。
オーナーからは
「くれぐれも細川君は売り場に出ない様に」
なんて言われたりしたし、もらう予定がないのにバレンタイン間近にはチョコレートを大量に作っていたんだよな。
その俺に初等部?早い話が小学校に通えと?
「お断りします。明日からギルドに登録して一人暮らしをする予定ですので」
初等部に通よえるのは貴族の子供か裕福な商人の子供ぐらい。
「お金なら母さんが何とかするから心配いりません。それにお屋敷にはお部屋も用意します」
「それはアルマの母親が納得しないだろ?何より俺は貴族や豪商が大嫌いなんでね」
それにこれから魔王軍を作る準備が必要だし、飛び込みの依頼を受けなきゃいけないから一人暮らしの方が何かと便利だ。
「そうよね、何年も放っておいてお母さん面したらゴーちゃんも面白くないわよね」
一気に涙目になる母さん。
色気ムンムンのフェロモン系な母さんが落ち込むとギャップで罪悪感が倍増する。
「母さんは母さんだよ。それにアルマやアンジェに稽古をつける為に屋敷には毎日顔を出すし、学校の勉強なら天使様から教えてもらえるから」
この国の学校で教えるのは簡単な算数(あくまで数学とは言えないレベル)、読み書き、礼儀作法。
そして魔術、法術、剣術は選択制だ。
ぶっちゃけ習う必要は皆無、何より俺はセクシリア家の人間で身分が低いから色々と絡まれるのは目に見えている。
「どこの世界に11才の子供に冒険者になる許可を与える親がいますか!!お母さんは保護者のサインなんてしませんからね」
保護者か天使のシャインか神あたりに書かせたら…誰も信用してくれないよな。
「ママーお願いー。僕、冒険者になりたいなー」
自分を殺して甘えてみる。
「ダメです。ゴーちゃんはまだ子供なんだから」
頬を膨らませて横を向く母さん、どっちが子供なんだよ。
それなら奥の手を使うか。
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