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第6射 見据えるべきもの

テスト期間だったので、遅くなりました(汗)

僕が弓道部に入部して一週間が経った。

土曜日、海春高校は午前中で授業が終わり、午後は部活となる。

「高原君、行こ?」

いつものように、山岸さんが誘ってくれた。

「うん」


少しは打ち解けてくれたのかな?



「高原と、祐実、仲良くなったね」

「何?妬いてんの?」

「違うよ!いやぁ、祐実がこんなに早く打ち解けた人っていたっけ、って思っただけ」

「いいんじゃない?それならそれで」

「いいわよね。あんたは。悩みがなさそうで」

「あるわ!体力が全然戻らない」

「それはわかる。私も早く、戻さないと」

「いつの間にか、あいつらは行ったみたいだぜ。俺らも行こうぜ」

「賛成」

二人の陸上選手の卵はグラウンドに向かった。



「二人とも遅いよ!」

僕らが道場に行ったら、蓮翔君がすでにいた。


今日も元気だな……


「こんにちは。蓮翔君、早いね」

「他に行くとこがないからね!」

満面の笑顔で言われた。

「はぁ」

隣で山岸さんが小さくため息をついた。

「ハハハ」

「お、そろってんな」

振り返って見ると、嘉納先輩と佐藤部長が立っていた。

「こんにちは」

「こんにちは。今日は土曜日で、いつもより時間があるからメンバーだけ、競射(きょうしゃ)をやります」

「はい」

山岸さんが返事をした。

「私達は監的(かんてき)ですか?」

「そうね。お願いします」

「わかりました」

それから、礼をした。


やっと礼のやり方を覚えてきたぞ


僕は山岸さんに尋ねた。

「山岸さん、さっきの話がわからないんだけど」

「競射って言うのは、試合の形式の練習。実際に立(たち)を組んで、立はチームね、引くの。監的って言うのは、その的中の確認をすることを言うの」

「なるほど。それで、俺らは監的をするってことだね」

蓮翔君が言った。

「……」

山岸さんは嫌そうな顔で黙ってしまった。

「そうだ。それじゃあ、監的小屋に行って。山岸は二人に監的のやり方を教えてやれ」

「……わかりました」


本当に、蓮翔君のことが嫌なんだな


その後、僕らは的の方にある監的小屋に行った。

そこで、監的のやり方を山岸さんに教わった。

立では、前から大前(おおまえ)、二的(にてき)、中(なか)、落前(おちまえ)、落(おち)と言うこと。三人立の時は二的と落前が抜けるということ。

四射引く内、0中を残念(ざんねん)、1中、3中はそのままで、2中を半分け(はわけ)、4中を皆中(かいちゅう)と言うこと。


覚えることがたくさんあって大変だなぁ


横を見ると、蓮翔君が難しい顔してブツブツ言っていた。

「えっと、大前、二的、中、……落?」

「落前が抜けたぜ」

いつの間にか、山口先輩がいた。

「あ!覚えるの大変だな……」

蓮翔君はしょんぼりした。

「早く覚えないと不便ですよね?」

山岸さんが山口先輩に聞いた。

「まぁな。毎週土曜日は競射はするし、大会の時は不便だな」

「急いで覚えないといけないってことですね」

僕は言った。

「それも、お前らの仕事。そろそろ始まるぜ」

先輩は小屋の小窓から道場の方を覗いて言った。

「3人立を二つですね?」

山岸さんが尋ねた。

「そう。第1射場は男子、第2射場は女子のレギュラーだな」

「レギュラー?」

蓮翔君は珍しく小さな声で尋ねた。

「大会のA立。一番中る奴らだな。男子の大前が嘉納、中が池住、落が副部長の有馬。女子は大前が副部長の荒木、中が秦野、落が部長の佐藤」

「副部長って二人なんですね?」

「伝統だな。大前が打越したぞ」


いよいよ、先輩のを見るんだ……

ゾクゾクする


パン!、パン!

と的を射抜く音が二回続いた。

嘉納先輩と荒木先輩が的中したのだ。

「す、すごい」

僕は無意識に口に出していた。

「さすが、大前ですね」

山岸さんがつぶやいた。

「そりゃぁな。レギュラーは伊達じゃないってことさ」

続いて、また矢が二本、的に向かって飛んできた。

パン!

今度は一回。

池住先輩が的中して、秦野先輩の矢は的の真横に刺さっていた。

「おしい」

蓮翔君がつぶやいた。



やっと、部長の射を見れる。


私は少し興奮していた。

初日に弓を持って道場に行った私に最初に声を掛けてくれたのが、佐藤部長だった。


「ねぇ、あなた、一年生よね?経験者?」

「え?は、はい」

私は小さな声で言っていた。

「そう。経験者でもゴム弓からだから。けれど、期待してるわよ。早く的前(まとまえ)に来なさいよ」

「はい。あの、あなたは?」

「あら、ごめんなさい。部長の佐藤美幸です。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします。佐藤部長。山岸祐実です。一応、初段です」

「山岸さんね。初段?すごいわね。ただ、うちじゃあ、初段はごろごろいるから。後、声は大きくね」

「はい!」


そうして知り合ったけれど、部長は道場の中で他の人に指導してばっかりで、引くことはなかった。

私は、嘉納先輩に聞いてみたことがあった。

「部長の射ってどうなんですか?」

「佐藤の?……、一言で言えばすごいよ。まぁ、いずれ、引くところを見ると思うから」

そう言って、先輩は詳しくは教えてくれなかった。

しかし、「すごい」と言った時の先輩の顔は真剣そのものだった。


やっと部長の射を見れる



パン!

有馬先輩が的中した。


男子の先輩、三人とも当たった!


僕は内心、興奮していた。

パン!

一瞬のことだった。

真っ直ぐ、まったくぶれることなく、佐藤部長の矢は的の真ん中に刺さっていた。

「早速、的心ですか?さすが、佐藤」

山口先輩が呆れた声でつぶやいた。



これが佐藤部長の射……。

綺麗に引き分けられて、美しい会からのキレのある離れ

なんなの?

これが高校生……

中学弓道なんて、足元にも及ばない



僕はすごいと思った。

技術的なことはまったくわからないけど、とにかくすごいと思った。

そして、自分もああいう風になりたいと思った。



僕ら一年生は一立目が終わった時点で練習に戻らされた。

結局、男子は嘉納先輩が三中、池住先輩が半分け、有馬先輩が皆中で9中。

女子は荒木先輩が三中、秦野先輩が一中、佐藤部長は皆中で8中だった。

なかでも佐藤部長は、三射が的の中心の近くに入るという結果だった。


「すごかったね。先輩達」

僕は山岸さんに言った。

「本当にね」

「中学弓道もあれくらい当たるの?」

「全然。中学弓道とは、レベルが違いすぎるわ。何よりも中りの安定感が違う」

その時の山岸さんの顔が少し、嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか?


「俺らも頑張ろう!俊太!祐実ちゃん!」

「……」

「う、うん。そうだね、蓮翔君」

そうして、僕らは練習を再開した。

山口先輩が来てくれて、僕らを指導してくれた。

「そういえば、先輩は競射しないんですか?」

蓮翔君が尋ねた。

「メンバーだけだから。さっきのA立だけだよ。大会前だから。普段は的前は全員、引くけどな」

「なるほど」

「お前らはそんなことよりも練習をしろ」

「はい!」

「本当に返事だけは良いな」

山口先輩が呆れながら、言った。


確かに



「そろそろ、ラスト!」

気がつけば、6時近くになっていた。

部長の声で終わった人から、先輩のところに集まった。

「今日は競射を見てもらったけれど、みんなもいずれ、やることだから、それに向けて頑張って。監的のやり方を教わったと思うけど、できるだけ早く覚えるように。それじゃあ、お疲れさまでした」

「「「お疲れさまでした」」」

こうして、長い土曜日が終わった。

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